第2章 PC部員たち、異世界転移して引篭もる

第3話 行動起こさないとなにも始まらないから。

「なんてことなかった?」

「「ありました」」


 OK。これで俺がこの年でボケた、ここは夢です! というのはないことになる。

 新田を枝の上から救助(木登りは北海道で鍛えた)し、一段落してから返ってきた返事である。


 つまりだ。つまりだぞ。この、今俺たちがいる世界というのは…。


「ここは、異世界か?」

「そうだと思います。現代じゃ瞬間にワープしてこんなのどかで景色の良いところに人を送るとか無理ですもん」


 ですね。そもそも日本にこんな場所ないし、世界中探してもこんな大樹となだらかな丘、未舗装の道なんて場所はあるまい。


 うう…空気がうまい。この世界には自動車とかないから二酸化炭素の濃度も非常に少ないのだろう。


あー、癒されるな~…じゃなくて!


「おい、こっからどうする? 」

「「どうするってなにがです? 」」


 いや、だってこのままここにいるわけにいかないじゃん。食料なし、寝床なし、持ってるのはどうせセオリー的に使えないスマホ3台とノートPC1台、中学3年の教科書に高校1年の教科書、各自今日は体育があったので体操着にジャージ、水筒4つに空の弁当箱3つ、そして…ラノベ5冊。


 どれも使えないじゃないか!


「とにかく、町行かないとなにも始まらないじゃん。何もできないじゃん」

「いや、それはそうですけど」

「なんかいろいろあって疲れちゃって」


 いや、それ俺もだから。俺もできれば今すぐ家帰ってアニメ見ながら宿題やってソシャゲー遊んで寝たいよ?できてたらそうしてるの。でもね、今は何もないからさ。このままだと水もなくなって死ぬから。行動起こさないと何も始まらないから。


「はぁ…そうしますか」


 落ち込む新田。ああ、そういえばこいつ運動できなかったな。確か5キロも走れなかったはず。

 俺は運動部と兼部しているからある程度のスポーツは平均的にできるし、平均的な体力もある。

 赤坂は…野球部でいじめうけて退部したってのは聞いたけど。多分それなりに歩けるんじゃないかと思う。


「幸い、近くに川ありそうだからさ」


 なぜそんなことがわかるのか。これを言葉にするのはかなり難しいが、無理やり言葉にするとこうなる。


 もともと視力の悪い俺は、小学生の頃に失明するリスクを考えひたすら目が見えなくても生活できるように特訓をした。そこまではいい。それをやりすぎた結果、目を閉じても半径5mくらいの物の動きがわかるようになった。ある種の空間把握能力とでもいえばいいか。オールレンジ攻撃はできないけど。

 そして、たとえ5m以内じゃなくても、遠くからなんとなくで水がある、草原があるというのがわかるというわけだ。ほぼ直感的で、当たりはずれもあるが、間違ったことはない。この前は都内でみんなで遊んでいた時に「この先に川がある」と思ったら見事3キロ先に川がある、なんてこともあったくらいだ。


「とにかく、その川沿いを行けば何かしら町みたいのはあるだろ」


 人間は生きるのに水が必要だ。古代文明もなんだかんだで水辺にできたように、川の近くになら集落とか町があるはずだ。


「わかりました。今日はその川まで行きましょう」

「はぁ…何キロあることやら」


 いや、溜息つかないでよ。俺も歩くの嫌なんだよ?ここ最近運動不足でなまってるしね。


 とにかく、行くとしますか。新たなる世界へ!


  〇 〇 〇


 そして、俺たちは大樹の前を通っていた道を左に進むこと2時間。俺たちは無事に川にたどり着いた。


「やっぱ川あったんですね」

「あってよかった。俺の場合は水あれば水たまりだろうと反応するからなぁ」


 気配だから、といえばそれまでだが。よく中学の頃気味悪がられたな。「教えて」と言ってきた奴には「目隠しして大自然の中を歩けばわかる」とアドバイスしてやったっけ。


「とりあえず、今日はここで野宿しましょう」


新田がそんなことを言いながら荷物を置く。まあ、いいだろう。キリがいいし。疲れたし。


「でも、あれだな。腹減ったな。どうしようか…」


川があるから釣りをしてもいいが、この世界に魚なんているのか?突然小型のシャチとか襲ってこないよな?


「それはわかりませんが、ほかに方法ありませんよね? 」


 う…確かに。しょうがない。釣り竿でも作るか。


 使ったのは、そこら辺の木の棒に、根気よく繊維をほどいたワイシャツの糸。それを上部に結んで、エサは適当に草。


 2人に釣りを任せ、こちらは違う作業を開始する。


 川の中から石を持ってきて、2つあるうちの1つの水筒に小さく穴をあけ、石を敷き詰めたりして浄化装置を作成。あとは…火だ。


 火は、古典的な方法を使わず、眼鏡と黒い布を使う小学校の実験のようなものを実行。案外簡単に火が付いたので、水筒を鍋代わりに煮沸処理。これを冷ませばちゃんとした水だ。


 こちらはほぼできたので彼らを見に行くと、そこには予想外の光景が広がっていた。


「ほい7匹め~」

「まだ私には及ばないけどね。13匹釣ってるし」


 彼らの足元には吊り上げられた魚がぴちぴちいいながら転がっているではないか。しかも大漁、20匹はいるじゃないか。

 俺は急いで石を敷き詰めて水筒で水を汲み、簡易のいけすを作成。そこに転がっている魚どもを次々に入れていく。

 釣れたのは地球にもいるイワナという魚。そのほかにもフナのようなものもいる。まさか、草のようなエサでこんなにも魚が釣れるとは…

 結局追加で5匹ほど釣ってから、魚を串焼きにして、夕食にした。食べてみてわかったが、泥臭くなく、川魚特有の生臭さもない。非常においしい。欲を言えば塩が欲しいところだ。


「明日からどうします? このまま下流に向かうんですか? 」

「おう。その方が町とかありそうだし。上流は険しいとことかありそうだし。下流に行けばいずれは海につくからな」


この世界で地球のセオリーが通じるとは思わないけど。湖くらいはあってもいいんじゃなかろうか。

夕食を食べ終わった俺たちは、寝ることにしたのだが。


「「「寝れない」」」


俺たち全員、夜中に野獣とかに襲われるかと思ったら眠れなくなったのだ。

ここは異世界。どうせ魔物とか魔獣とかの類がいると思われる。そこを夜中の寝てる最中に襲われたら逃げることすらかなわないだろう。


生命の危機を感じれば、人間は欲など忘れるものである。


「誰かが見張りをやるか…」


という結論にたどり着き、今度は誰が見張りをするかの議論が始まる。


「えーまずこの場合新田は使えないので」

「えええ!?私だってこのくらいできるよ!?」

「いや、その体力じゃ論外だろ」


というわけで、俺か赤坂になるのだが。だが!

俺は後輩が見張りをしているときに惰眠をむさぼるなんてことはできない! 俺のちっぽけなプライドでさえそれには警鐘をならしている!


「赤坂…お前先に寝ろ」

「え、先輩先に寝ればいいじゃないすか」

「いや、いいから。ホント、先寝てもらえません?お前らが起きたら俺仮眠するから]


と無理矢理納得させ、俺は焚火の前に座り、バッグからラノベを取り出す。

少し離れた場所から2つの寝息がすぐに聞こえてきた。寝つき良すぎだろ。

そのラノベを読みながら、俺は思った。


(ラノベの主人公は、こんな苦労をしていたのだろうか。夜は魔物に命を狙われ、仕事も仕事で下手をすれば死ぬような生活。どんなふうに生きて、どんなふうに過ごしてたんだろうなぁ)


そんなことを思いながら、俺は見張り当番を続けるのであった。

そして、気づいた。


「言語、大丈夫かなぁ…」


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