第6話 日記

 目覚めると、私は真っ白な部屋の中にいた。


 真っ白で窮屈な部屋。


 スマホの中に日記のアプリがあったので、興味本位で書いてみることにした。


【1日目】


 意識のない状態が3日間も続いていたらしいが、どういった訳か刺された腹部以外、健康被害はなかったようだ。


 念のため検査と治療のために数日入院するらしい。




【2日目】


 警察が私の元に訪れた。


 犯人の顔を見たか、とか、何か困っていたことはなかったか、とか、誰かの恨みを買うようなことをした覚えはあるか、とか。


 何度も何度も聞かれたが、私はその質問に答えることができなかった。


 検査の結果、脳の一部が萎縮しており、記憶障害があると言われた。


 私はここ2ヶ月の記憶を失ってしまったらしい。




【3日目】


 スマホを使って自分の情報を探ってみると、これは日記アプリではなく、カップル専用アプリなんじゃないかと思った。


 そして、着信履歴やメッセージ履歴を見てみると「ササキ先生」とのやりとりが多く見られた。


 分かったことといえば、2ヶ月前に「ササキ先生」と付き合い始めたことくらい。


 だから、このアプリもきっと「ササキ先生」との共有アプリなんだと思う。


 目が覚めてから3日間日記機能を使っているけど、気がつかないので彼はきっとマメな方ではないのだろう。


 そんなことを考えていると、ちょうど相手から今日の日記が更新された。


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11月5日


 ついに彼女と目が合うことができた。


 スマホを持ち歩いていてくれたおかげで、検査結果も分かったことだし、退院まで待とうと思う。


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 「なに、これ……。」


 付き合っているにしては、変な文章だった。


 いいや、まるで、私を見ているかのような日記に思えた。


 


 怖くなった私はそのままスマホの電源を消した。






 それから数日が経ち、体になんの異常もなかったため退院することができた。


 記憶障害は精神的なショックからくる一時的なものらしいので、なにかきっかけさえあれば戻る可能性もあるらしい。


 迎えに来てくれた母が運転する車の中で、久しぶりにスマホの電源をつけた。


 すると一件の通知が、例のアプリからきた。





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11月10日


 退院おめでとう。


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 なんだ、やっぱりこれは「ササキ先生」からのメッセージだったんだ。


 そう思うとなんだか安心して、私は車の中で眠ってしまった。






 「……き、……まき、………まき!起きなさい!」


 母の声でハッとして、辺りを見回すとそこは家の目の前だった。


 「疲れているのは分かるけど、あなた本当に最近よく眠るわね。入院大変だったでしょ?いいえ、大変だったのは入院だけじゃないわね。まさかあなたが事件に巻き込まれるなんて…」


 言いながらうつむく母を私はぼーっと眺めていた。


 そういえば最近、こんな感覚が多くなったような気がする。


 そんなことを考えていると手に持っていたスマホから2通のメッセージが送られてきた。ひとつは「ササキ先生」、もうひとつは…。



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カナデ まきー!退院おめでとう!

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カナデ 1週間まきに会えなくて悲しかったよお

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カナデ 明日から学校来るんだっけ?久しぶりに

    情報研究部のぞいてみない??

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 奏は情報研究部元部長で、1番仲のいいクラスメイトだ。




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マキ 心配させてごめんね!

   しばらく通院だから学校は金曜から行く!

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カナデ りょうかい!お大事に!

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 部屋に着くと、私は睡魔に襲われて倒れ込むようにして眠ってしまった。




 数日の通院でも、特に異常は見られず、腹部の傷も痛み止めを飲んでいる間は気にしないで生活できた。


 そして、1週間ぶりに学校へ行った。


 1番最初に声をかけてくれたのは、以外にも田口くんだった。


 田口くんも情報研究部の元部員で、仲は悪くなかったはずなんだけど…。


 なんだろう、この感覚…。


 すると、例のアプリから通知が来た。



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11月13日


 元気そうで安心した。今日決行するからね。


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 ササキ先生?決行って何のことだろう。


 もしかしてデートとか?


 ……いや、待てよ、これは本当にササキ先生なんだろうか。


 そういえば、最初に日記に違和感を持った日、それより前の内容を遡って見たことはなかった。


 もしササキ先生じゃなかったら……?


 「そこ!もうホームルームの時間ですよ。スマホの電源は切りなさい。」


 「あ、すみません」


 日記は放課後に見てみよう。そう思い、電源を落とした。






 「まき!また明日!バイバーイ」


 授業が全て終了し、私は下駄箱の前で奏と手を振って別れた。そして例のアプリを開いた。


 最初の日付は10月31日だった。



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10月31日


 彼女が眠りに落ちた姿を見るのは何度目だろうか。


 僕は早く、君の本当の姿が見たい。


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11月1日


 今の薬に慣れてしまったのか、眠りが浅くなってきた気がする。


 新しい薬を試してみると、彼女はいつもより美しい顔で眠っていた。


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 「なに、これ。」


 とても愛のメッセージとは思えない、異常な日記が続いた。


 そして


 「うわっ……!」



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11月6日

殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい

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 気持ち悪い!11月6日、私が事件に巻き込まれたのも、6日だった…!


 待って、今日の日記には確か…


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11月13日


 元気そうで安心した。今日決行するからね。


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 「その顔」


 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにいたのは田口くんだった。


 「びっくりしたぁ…。田口くん…、驚かせないでよ」


 心臓が強く脈を打っていて落ち着かない。こんな感覚を以前にも味わったような気がしてならない。


 そうだ、この男……!


 「ねぇ、」

























 「思い出した?」

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