第33話 彼の成長

「…………」


 ……昨日の咲良、大胆だった……。

 結局、咲良の感触とか驚きとかで感触とかおっぱいとか突然のことすぎて一睡も出来ず。俺は今、賢者とも虚無とも似つかない空虚な感情になっていた。

 今でも思い出す度にちょっとあれだが、この際それは置いておこう。


 ぶっちゃけよう。俺は咲良とイチャイチャしたい。欲を言うならたまーにエッチなことをしつつイチャイチャしたい。正直に言うならヤリたい。思春期男子高校生だもの、それくらいの感情はあってしかるべきだと思う。


 だけどそれは、男だけの問題じゃない。女の子の気持ちの問題もある。

 独りよがりなのは自慰行為と同じだ。それだけは絶対ダメ。ダメ絶対。




「と言うわけで羽瀬さん、咲良の気持ちって知ってる?」

『ふあぁ〜……朝っぱらから時田っちがきもちわるいことはわかった……』

「気持ち悪い言うなよ、傷付くだろ」

『こちとら寝起きなのに思春期童貞の恋愛相談受けてるんだから、悪口の1つや2つ言いたくなるって……』


 むむ、どうやら本当に不機嫌みたいだ。まずったな。もう8時過ぎだけど、今日の羽瀬さんは完全オフ日らしい。まだ寝てたか。

 森林公園で羽瀬さんと遭遇してから、俺はこうしてたまに恋愛相談をしている。あの時も俺に的確なアドバイスをしてくれたし、結構頼りにしているのだ。


『で、なんだっけ? 咲良っちの気持ち?』


 あ、何だかんだ言いながら聞いてくれるのね。流石羽瀬さん。面倒見のいい根っからの姉御肌だ。


「あ、うん。咲良のことだから、羽瀬さんや峰さんとそう言う話とかしてると思って」

『自分で聞いてみたら?』

「それが出来たら苦労せんわ」


 なんて聞けばいいんだよ。

 俺「俺はエッチしたいけど咲良はどう?」

 咲良「死ね♡」

 とか言われたら、俺絶対いじけて引きこもりになるぞ。いいのかそれで。


『はぁ……あのな時田っち、焦る気持ちも分かるが、そんなもん他人に聞いてどうこう考えるんじゃダメだぞ』

「……ダメなの?」

『ああ。恋愛ってのは当人だけの駆け引きなんだ。本来なら自分で考えて、行動して、間違えて、傷付いて、傷付けて、そんで愛を育むもんなんだ。そうして大きくなるんだ。分かるか?』

「むぐっ……」


 た、確かに……そうかもしれない。

 俺は自分に自信がない。見た目もそうだし、頭も咲良が勉強を見てくれてるから授業についていけている。運動も、あることを除けば概ね普通だ。

 そんな俺が不要位な言葉や行動で咲良を傷付けたら、どう責任を取ればいいのかわからない。

 だからこそ、いつも完璧な答えを出そうとした。テレビ公開告白の時もそうだ。俺はあれから、何も成長していない。


 でも、羽瀬さんの考えは違う。

 間違ってもいい。

 傷付けてもいい。

 傷付いてもいい。

 そうして愛を大きくする。


 多分、それが本質なんだろう。

 多分、それが恋愛なんだろう。


 俺はいつも間違いだらけだ。


「……分かった。ありがとう羽瀬さん」

『参考になったか?』

「うん。咲良っていう絶対的女神がいなかったら、思わず羽瀬さんを好きになるところだった」


 ──ゴスッ。


「え、今の音何?」

『き、気にすんな。スマホ落としただけだからっ』

「そ、そう?」


 それならいいけど……。


「それにしても……流石、恋愛経験が多い人のアドバイスは参考になるよ。改めてありがとう」

『…………』

「……あれ? 羽瀬さん?」

『……ハハハハハ。アタリマエダロ、ウチナンダカラ』


 ……え、この反応……この声の震え方、もしかして……。


「なあ、羽瀬さんって恋愛経験豊富だよな?」

『ああああああ当たり前だっ。いいいい今でも男なんて取っかえ引っ変えよっ』

「……因みに参考までに聞きたいけど、初めての時って痛か──」

『二度寝するわじゃーな!』


 ブチッ──ツー、ツー。

 あ……切れちまった。

 うーむ……? まさか……いや、そんなまさかだな。あの羽瀬さんが処女なわけないか。


 さて、恋愛エスパーの羽瀬さんからアドバイスを貰ったところで、いざ。


 自室を出て咲良の部屋に行く。気配からして、もう起きてるみたいだ。


 ノックを1回、2回、3回。


「咲良、今いいか?」

「えっ? ゆ、雪和くん? どどどどうぞっ」

「失礼しまーす」


 もう彼女の部屋に入るのも何度目だろう。相変わらず部屋には咲良の匂いが充満していて、少し落ち着かない。

 見ると、咲良は勉強机の前で朝から勉強していたらしい。ノートと教科書が広げられている。


「どうしたの、こんな朝に?」

「ああ。咲良に聞きたいことがあって」

「私に?」


 俺がカーペットの上で正座をすると、咲良も真似して正座になった。


「……咲良」

「は、はいっ」

「俺はお前が好きだ」

「はぅっ……!?」


 唐突に胸を押える咲良。だが今は俺の話を続けさせてもらう。


「昨日抱きついて来たとき、嬉しかった。正直ちょっと興奮もした。俺が大好きな人が、俺に抱きついてくれる。とんでもなく嬉しかった」

「ぁぅ……ちょ、ちょ、まって……!」

「いや待たない。俺を世界一愛してくれている人が……俺が世界一愛してる人が、俺の隣にいつもいる。幸せだ、最高だ」

「ぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅ……!?」


 頬を紅潮させて、目がぐるぐる回る咲良。

 だけど、まだ俺のターンは終わらない。俺は成長するんだ。黙ってたって伝わらない。伝えるには、言葉にするしかない。


「咲良。好きだ、大好きだ、愛している」

「ぎゃぅ……」

「正直、俺は咲良と触れ合いたいと思っている。常々、いつも、毎日思っている」

「ふぇ……」


 言え、聞け、口にしろ、言葉にしろ……!

 少し顔を伏せ、勇気を振り絞って。




「その上で聞きたい。咲良は、俺と触れ合いたいと思ってくれているか?」




 聞いた。聞いてしまった。

 ……咲良からの答えはない。

 呆れられたか? 猿だと思われたか? ふざけてると思われたか?

 不安になり、チラッと咲良を見ると。


「ほにゃぁ〜〜〜……」

「咲良!?」


 頭から湯気出して目を回してらっしゃる!?


「キュゥ〜ッ……」


 き、気絶したぁ!?


「さ、咲良っ、咲良ー!?」







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