第41話 復活

「アルザム国海域から急速離脱!」


 小型宇宙船は、ヨシュア国領海の方に向かった。


「あれ? 追ってこないな?」


 ジョーの懸念に反して、追跡用の戦闘機がアルザム国の空母から発進した様子はなかった。


「こちらP1、応答せよ! 管制塔! 誰かいないの?」


 ミカの呼びかけも虚しく、管制塔からの返事はなかった。


「変だわ? 誰も応じないなんて」


 その刹那、何か言いようのない不安がジョーたちを襲った。


「じゃ、アランは? 母船ロケットの方はどうなっている?」


 ジョーの提案に、ミカはすぐさまスイッチを切り替えた。


「こちらP1、応答せよ!アラン、返事をして!」


「ミカ! ミカか?」


「アラン!」


「よかった。無事だったか。こちらからの呼びかけに全く反応がなかったから心配していた。マイクはどうした? 無事か?」


「えっ? あっ、いや、その」


「どうした?」


「いえ、なんでもありません……マイクはバルカンに撃たれて、残念ながら……」


「……亡くなったのか?」


「……ええ」

 このときミカは、直感的に現在の自身の状況、特にマイクの存在を隠した方が良いと判断した。


「そうか……ミカ、君もつらいだろうが、仕方がなかった。単純に納得できるものではないかもしれないが、君のしたことに間違いはない」


「お気遣い感謝します。それはそうと、管制塔と連絡がつかないのです。何かあったのですか?」


「三十分くらい前にDDUが攻撃を受けた。残念ながら死者も出ている」


「なんだって!?」


「!? !? !? その声は誰だ!? まさか……」


「ジョーです!」


「なっ!? ジョーだと? お前、生きていたのか!?」


「ええ、なんとか。それより、DDUが攻撃を受けたっていうのは本当か?」


「驚いたな。お前、一体どうやって……」


「アラン! 早く質問に答えてくれ!」


「ああ、本当だ。DDUは、他の同盟国からのミサイル攻撃で、修復不能なダメージを負ってしまった」


「ハッカーたちの仕業ね?」

 ミカがすかさず口をはさんだ。


「ハッカーだけじゃない。世界中のテロリストたちもこの混乱に乗じて動き出している。我々は今、衛星軌道上から情報を収集して世界各国の動向を調べているのだが、軍事施設を保有する国のほとんどが、奴らからの攻撃を受けているようだ」


 アランは、それまでに得ていた情報を要約してジョーとミカに伝えた。

「我々と敵対する非同盟国の軍事施設も攻撃を受けているが、本格的な対抗措置をまだ取っていない。同盟国の首脳部が、この事態を自ら収束させることを言明したからだ。しかし、事態が長引くようなら、同盟国への攻撃もやむを得ない状況になるだろう。つまり、世界大戦が再び勃発することになるかもしれない」


 ジョーとゼットには、さっきのアルザム国の空母のことを思い出した。


「アラン! マリアとカナは?」


「今のところ無事だ。彼女たちだけじゃなく管制塔にいた連中は全員な。あの区域には特別な防御体制が設けられていて直撃を免れた。次の攻撃を受ける前に彼らはDDUを離れた。今、カナの薦めでマキシマ島のAITに向かっている。あそこには軍事施設がないからしばらくは安全だろう。だが、安心はできない。ハッカーたちの攻撃対象が、軍事施設から指揮官クラスの人物に移りはじめている。提督も狙われている人物の一人だ。もし提督の居場所が彼らに知れれば、間違いなくAITも攻撃されるだろう」


「そんな!? マリアたちはなぜそんな危険な奴と一緒なんだ?」


「あれでも一応提督だ。一人だけ残して行くわけにはいかなかったのだろう。勿論私なら残るが……」


「馬鹿なっ!」

 これまで感じたことのない強い焦燥感がジョーの気持ちを一気にあおった。


(みんな死んでしまうぞ! マリアもカナも、そしてTWにいるALたちも!)


「アラン! オクテットシステムは? DDUのシステムは使えないのか?」


「だめだ、DDUのシステムはほぼ完全に破壊されてしまった」


「じゃあ、予備のシステムは? こういう場合に備えているはずだろ?」


「オクテットシステムは、DDUと宇宙船のポッドに備えられていたものだけだ。ジョー、宇宙船のポッドは?」


「ポッドだって!?」


 ジョーのポッドは、とうに海の底に沈んでしまった。


「くそっ! あのシステムさえあったら!」


「……あるわ」

 ミカが静かに答えた。


「え? ミカ、本当か?」


「一つだけあるの」


「どこに?」


「AITの中よ。実は私、あなたの代わりにオクテットになろうとしていろいろと画策していたの。システムを作ったのはそのためよ」


 それを聞いたアランが声を荒げた。


「作っただと? あの技術は国家最高機密だ。君などに作れるはずはない!」


「アラン、忘れたの? オクテット理論を提唱したのはリサ博士よ。それに、実際に作ったのは私じゃなくてガンダーレ兄弟。TW内の進んだ技術を使ってね」


「それじゃミカ、君もオクテットになれるのか?」

 ジョーがミカとアランとの会話に割って入った。


「一度も試したことがないから分からないわ。でもおそらく失敗していたでしょうね。だって、あの姉さんがそう言うんだもの」


「とにかく、システムはあるんだな?」


「ええ、AITが無事なら使えるはずよ」


「分かった!」

 ジョーの目が再び赤く光りはじめた。


「ジョー、何をするつもり?」


「スエズリーに話しかけている。スエズリー、聞こえるか? 返事をしてくれ!」

 ジョーは、AITにいるスエズリーにテレパシーを飛ばした。


「……ん? なんだこれ? 今誰かが僕の名前を呼んだような……」


「スエズリー!」


「えっ? この声って、もしかしてジョーさん!?」


「そうだ、ジョーだ! よし、つながった。ミカ、俺はこれからAITに行ってくる!」


 ジョーはオクテット化すると、後部座席から消えた。

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