第42話 反撃

 ジョーがミカとマイクに再会していたとき、スエズリーは、どら焼きをほおばりながら、ミカのプライベートラボでテレビモニターを眺めていた。


(すごいことになってきたな。オー・プロジェクトの失敗が、こんな事態を引き起こすなんて)


 テレビやネットには、ハッカーやテロリストたちが、つぎつぎと犯行声明を行っている様子が映し出されていた。


 スエズリーは、AITのことがネットで話題になっていないか、検索をかけて入念にチェックしていた。


「世界中の名だたるIT企業のサーバーがここに集まっていることは、ハッカーたちの間ではもう周知の事実なんだよね」


 一部のハッカーたちにとって、この施設のサーバーに侵入することは、ある種のステータスシンボルになっていた。ハッキング対策に関してはどの企業も相当に力を入れていて、もし侵入することができれば、ハッカーとしての名前が、たちまち世界中のIT関係者に知れ渡ることを意味していた。


(ハッカーたちがこのAITを破壊するとは思えない。怖いのはテロリストだ。ここには一部の先進国だけど、その官公庁が万一に備えて使用するサーバーもあるから、それらが狙われる可能性がある)


 スエズリーは、室内にある全てのPCを使って、あらゆる情報を収集していた。


「ん!?」


 そのサイトは、攻撃を受けた軍事施設の現状を克明にレポートしようとするものだった。その内容には、攻撃を受けたヨシュア国の施設の内容も含まれていた。


「ヨシュア国の施設が攻撃されたのは知っている。ウエズリー兄さんから連絡があったから。でも、兄さんもカナさんもリサ博士もみんな無事で、今こっちに向かっているはずだ。ミエズリー兄さんはすでに戻っていて自分の部屋に籠りっきりだし。とりあえずは何の問題もないはず。ふーん、新しい書きこみか……どれどれ」


 スエズリーは画面をスクロールしてみた。


 名無しの小者:ヨシュア国の提督がおれたちをを見捨てて逃げやがった! くそっ!


 ショウタ:とんでもねえクズやろうだな。行き先は?


 名無しの小者:マキシマ島っていう噂だ。そこから来たエンジニアたちと一緒に飛行機に乗って行ったのを見た奴がいる


 ショウタ:マキシマ島? 誰か知っているか?


 ポンタ:ヨシュア国の北の領海にある島の一つだよ。通称『サーバーアイランド』って言われてて、地震とかの自然災害が少なくて、しかも税金とかも優遇されていて、世界中のIT企業がこぞってそこにサーバー施設を建設している。けっこうでかいリゾート施設もあるぞ


 ショウタ:部下を見捨てて、自分は呑気にリゾート気分ってか? 許せねえな。おい、だれか、そこにミサイルでもぶちこんでやれよ!


 のんき男:そうだ、やれやれー!


 ダッカーNo1:今やってる。その島に一番近いドンガ国の迎撃ミサイルを使おう。マキシマ島のみなさん、死にたくなけりゃ避難してね。悪いのはヨシュア国の提督だから


「げっ!」


 ウーウ! ウーウ! ウーウ!


 スエズリーがそのツイートを読み終えたとたん、これまで一度も耳にしたことのないサイレンが館内にけたたましく鳴り響いた。


「ドンガ国のミサイルがこの島に向けて発射されました。到達時間はおよそ20分程度と見込まれます。みなさん、すぐに非常用シェルターに避難して下さい!」


 ミサイル発射を知らせる館内放送が、何度も繰り返された。


「やばい、やばいぞ!」


 スエズリーはキーボードを瞬打し、マキシマ島にある飛行管制塔のコンピュータにアクセスしてレーダーデータを入手した。


「ミサイルは全部で三発か。予想到達点は……なっ! AITだって!?」


 バンッ!


 部屋の扉が突然開き、スタッフの一人がガバッと入ってきた。


「スエズリーさん! やはりここにいたんですね! 早くここから避難して下さい!」


「分かっている、すぐに行くよ。先に行っててくれ」


 スエズリーがそう言うと、そのスタッフは頷くように首を素早く振って出て行った。 


「くそっ! これですべて終わりか……それにしてもなんなんだ、その提督って奴は? 兄さんたちと一緒かな? 電話して文句のひとつでも言ってやろう」


 部屋を出て廊下を歩きながら携帯を操作しているとき、スエズリーの耳もとに誰かの声が突然響いたような気がした。


(なんだ今の? 携帯はまだ繋がっていないのに)


「スエズリー! 聞こえるか? スエズリー!」


「えっ?」


 スエズリーは振り返りながら、辺りを見回した。


(誰もいない? でもこの声、聞き覚えがある……)


「スエズリー、俺だ! ジョーだ! 返事をしてくれ!」


「ええっ!? ジョーさん? ホントに? あれ、これってもしかしてテレパ」


「よしっ、つながった」


 次の瞬間、スエズリーの目の前に光の人型が現れた。


「うわわっ!?」


「オクテット、解除」


 光の人型が、ジョーに変わった。


「あっ、ジョーさん!? 今のは一体?」


「スエズリー、今すぐオクテットシステムの所に案内してくれ!」


「は?」


「オクテットシステムだよ! あるんだろ? ミカがお前たちに作らせたものが!」


「え? あ、はい、ありますけど」


「ミサイル到達予定時刻まであと、5分30秒」


 館内放送がミサイルの接近を告げた。


「時間がない! スエズリー、急いでくれ!」


「分かりました! こっちです!」


 スエズリーは、事態が飲み込めないまま、システムのある部屋に走った。その部屋は、以前ジョーがTWに行くために使ったコネクトシステムの隣にあった。


「ここです!」


 スエズリーが扉をあけると、球状の空間が広がっていて、壁面に無数の穴と突起がもうけられていた。


「これが?」


 それは、今までと全く違う形態をしていた。これまでのようなコクピットはなく、TWコネクトシステムと同じように、球の底の部分に円盤が設けられていた。


「少しだけ説明しておきます。これは、いわゆるオーダーメードシステムです。液状化シリコンよって、ユーザーの全身の神経構造に基づいて、そのユーザー固有の疑似ニューロンネットワーク(Pseudo Neuron Network:PNN)を構築することができるんです」


「全身の神経?」


「ええ、このシステムはユーザーの全身の細胞と情報をやりとりすることができます」


「全身の細胞とやりとりか、すごいな」


「ええ、ただ、オクテット理論からいえば、これが本来のあるべき形態と言えます。今の我々の世界の技術では、脳の構造、それも一部分しか構築できませんが、TWのテクノロジーを使えばそれが可能なのです。このシステムだとプレフォーメーションと言ったこれまで行っていた面倒な作業も行わなくて済みますし、それよりも、本人だけでなくALたちの潜在能力をフルに引き出すことができるので、処理速度も大幅にアップするはずです。すくなくともこれまでの千倍くらいは」


「千倍だって!?」


「でもジョーさん、問題が二つあります。まず、オー・プロジェクトの失敗が告げられてからレベル5たちの消息がつかめていません。さらにもう一つは、肝心のマイティメタルがここにはありません」


「それなら大丈夫だ。レベル5なら全員俺の頭の中に居るし、マイティメタルは俺自身だ。いつも通りに、電源とネット、そしてTWに繋いでくれればそれでいい」


「は? 今なんて」


「説明は後だ! 今は一刻を争う! システムをすぐに起動してくれ」


「わ、分かりました」


 ジョーが中央の円盤に乗ると、TWに行ったときと同様に全身にビッと電流が流れて、その姿勢が固定された。


(よし、みんな、行くぞ!!)


 ジョーは、8人のレベル5とウチュウ・タロウに心で呼びかけた。


「いいですかジョーさん、始めますよ!システム起動!」


 ウイィィィイン


「Octet system scanning start」


 電子音声が室内に響くと、複数のレーザー光線によって円盤状に形成された光の水平面が天井からおりてきて、ジョーの体をすり抜けていった。


「Scanning completed.then silicon network construction start」


 壁面の無数の穴から、黒い液体が流れ出した。しかし、液体は、下の方に落ちたり、溜まっていくのではなく、複雑に細かく入り組んだ三次元的な編み目を空間全体に形成しながら、ジョーの方に近づいてきた。その網目状の構造体から延びる無数の針先が、いつのまにかジョーの体の輪郭に沿って全身に配置されていた。無数の針先は、ジョーの体に触れることなく、しかしおそらく一ミリも離れていない位置にあった。


(うわあ、これってほんのちょっとでも動いたらえらいことになるな)


「通常ならここでTWからALを導入するのですが、言われたとおり、TWをPNNに接続します」


 スエズリーが各レベル5のTWを接続すると、レベル5を示すプログラムデータが、モニター上に突然現れた。


「なっ!?」


 スエズリーはすぐさまそれらのデータを照合した。


(間違いなく全員レベル5だ。一体どこから出て来たんだ?)


「Octet formation start!」


 ブウゥゥゥウン


 PNN全体が重低音の唸りをあげると、無数の光の粒がそのフレーム上を活発に動き始めた。


「うわあ、広くて動きやすい!」


 ハルトが、ジョーの脳内からネットワークに一番に飛び出していた。


「うーん、ホントね!すごく解放的な気分だわ」

 リンダがつづいて出て来た。


「ジョーの脳内が決して狭いというわけじゃない。そこでは互いに連携をとれる範囲でしか俺たちは存在できないから狭く感じていただけだ」


 アルバトロスがリンダのすぐ後につづき、そして、キーマとロレッタとムロウが、マッキンリーの傍らに寄り添い、その手を引きながら出て来た。そして、ヴェリッヒが全員の安全を確認し終えるかように最後に出て来た。


 ジョーが全員に呼びかけた。

「みんな聞いてくれ。もうすぐここにミサイルが来る。TWを守れるのは俺たちしかいない!」


 ハルト「分かっていますよ。ジョーさん!」


 アルバトロス「ああ、俺たちでやるんだ!」


 リンダ「みんなでやりましょう!」


 マッキンリー「こんな老いぼれでも、できる限りのことをやらせてもらいますわい!」


 キーマ「でもマック、おれたちは何をすればいいんだ?」


 ロレッタ「縁側で、将棋なんてのは?」


 ムロウ「おっ、いいねえ!」


 ヴェリッヒ「からかうのはよしなさい! まったく君たちは、マックに甘え過ぎだ!」


 ジョーの脳内にいるとき、キーマ、ロレッタ、ムロウ、ヴェリッヒの4人のALは、なぜかマッキンリーと特に仲良くなっていて、彼のことをマックと呼ぶようになっていた。


 マッキンリー「ほっほっほ、別に難しいことなんかない。気負わず普段どおりにしていたらいいんじゃよ。ありのままにさえしていれば、自然に分かる」


 キーマ「マック、あんたの言うことはさっぱり理解できないけど、なんか妙な説得力があるんだよな。聞いていると落ち着くっていうか」


 マッキンリー「そうかい?あっ、ほらあの子のようにやってみるがいい。自由で、実にいい」


 ロレッタ「無理だよ!」


 ハルトがみんなの周りを縦横無尽に飛び始め、そのスピードをぐんぐんと上げていった。


 アルバトロスは立ったままで、静かに全身に力を漲らせているようだった。


 リンダは、気ままにみんなの間を縫うように行き来し、ヴェリッヒはみんなから少し離れたところで、その様子をつぶさに見守っていた。


 キーマ、ロレッタ、そしてムロウは、マッキンリーを囲むように座って、互いに言葉を交わしていた。


 一見、互いになんの関連性もないように思えるレベル5たちのこうした行動が、なぜかジョーの気持ちをこれまでになく安定させ、且つ高揚させた。


(オクテット!)


 ジョーが心でそう唱えると、レベル5たちの姿がシルエットと化し、人型の入り口が形成された。その入り口は、これまでのものとくらべてかなり大きいものだった。


 ジョーはその入り口に意識を集中させた。


 そのときシステムでは、ジョーの体が目映い光を放ち初めていた。光の強度がどんどん増していき、ジョーの体全体から、まるで爆発したかのような猛烈な光が放たれた瞬間、ジョーの姿がシステムから消えた。そこには、人型の黒い影だけが残されていた。


「あっ消えた!? ジョーさん、どこですか?」


 そう言うやいなや、スエズリーは背後に異様な雰囲気を感じた。


「ここだよ」


 その言葉を聞くと同時に振り向いたスエズリーの目の前に、巨大な光の人型が、天井に当たらないように首を傾けながら胡坐をかいて座っていた。


「うわっ!?」


「あ、驚かせてごめん」


「な、何なんですか!? これは!?」


「いやー、なんかここ狭くてね。っていうか、オクテットがでかいのか……」


 その人型は、これまでよりもずっと大きく、背丈はおよそ十メートル近くありそうだった。


「いや、そういうことじゃなくて……あなたは本当にジョーさんなのですか?」


「ああ、間違いなく俺だよ。俺の体は今、マイティメタルと一体化しているんだ」


「マイティメタルと一体化ですって?」


「詳しいことはまた後で話すよ。今はそれどころじゃないからな。スエズリーは引き続きここを頼む。俺はちょっと行ってくる」


「行くって、どこへ?」


「決まっているだろ、ミサイルの所だよ!!」

 そう言うと、光の人型の姿が消えた。


 ジョーは、ヨシュア国の通信衛星を利用して、施設の上空約1キロメートルの地点に瞬間移動した。


 外に出た瞬間、それは不意をついて襲ってきた。


「おおっ!?」

 それは、生まれて初めて経験する感覚だった。


 空にあるジョーの意識は、高い所から遠くを見渡すという自発的な衝動以上に、その全体が、絶えず何かに優しく包み込まれるような感覚にとらわれた。


「……これが、俺たちの住む世界?」


 言葉足らずで説明のしようがない、あえて言うとすれば、なにか大いなる意志ともいうべき未知の力が、この惑星全体に犇いているように思えた。


 ジョーが、その意識をすっとその大気の中に委ねると、光の人型は雄叫びともとれる重低音を発しながら、さらに大きくなると共に、より眩しい光を放った。


「6時の方向からミサイル接近! オクテットをレーダーシステムに接続します!」


「おっと、そうだった」

 スエズリーの声が、ジョーの意識を現実に戻した。


 ジョーは、レーダーシステムのデータから三機のミサイルの正確な位置を割り出すと、オクテットを三体に分身させた。


「行くぞ!」


 三体のオクテットのそれぞれがミサイルに転送されると、ミサイルは一瞬でバラバラに分解された。


「全てのミサイルがレーダーから消えました!」


「よしっ!」


 このとき、一部のハッカーたちが異変に気付いた。


 名無しの小者:マキシマ島はどうなった?


 ショウタ:もうとっくにミサイルが着弾していてもいいころだけど、ネットではまだその形跡はないね


 名無しの小者:どういうこと?


 ダッカーNo1:三機のミサイルが、マキシマ島から十キロメートルのところでレーダーから消えたよ


 名無しの小者:なんだと? 迎撃されたのか?


 ダッカーNo1:いや、その可能性は低い。マキシマ島に軍事施設はないし、空母とかの軍艦もその近くを航行してない


 ポンタ:潜水艦からのミサイルとか?


 ダッカーNo1:ヨシュア国は軍用潜水艦を所有してないはずだよ

 のんき男:じゃあなんだ?


 ダッカーNo1:さっぱりだ。とりあえずミサイルをもっと打ち込んでみる

 ハッカーたちは、さらに五機のミサイルを発射させた。しかし、それらのミサイルも前のミサイルと同じような位置でレーダーから突然消えた。


 ダッカーNo1:まただ。何が起きているんだ?

 名無しの小者:気味悪いな。マキシマ島全体が何か見えない壁にでも守られているみたいだ


 もちろん今のジョーは、彼らの会話をネットで閲覧することができた。


(よーし、奴らビビってるな。今度はこっちの番だ!!)


 ジョーのオクテットは、ネットに侵入した。


(逆ハックしてやる!)


 ジョーは、分身を繰り返しながら、同盟国の軍事システムに侵入したハッカーたちの侵入経路をたどった。ジョーは、次々とハッカーたちのPCにたどり着き、ジョー本体と同じくらいの大きさで、彼らの前にその姿を現した。


「うわあっ!?」


「お前か? 悪さをしている奴は?」


「誰だお前は! なんだこれ? 脳に直接? テレパシーって奴か?」


「そうだよ。お前のその腐った脳味噌に直接話かけてんだよ」


「くそっ! こいつ」


 そのハッカーは、近くにあった本をジョーに投げつけたが、ジョーのオクテットは体に穴を開けてこれを素通りさせた。


「あれ? お前の顔と首、それ、火傷の後だな? もしかして胴体もそうなのか?」


「うるさい!」


「そうなんだな? ふーん、なるほど」

 ジョーはそのハッカーに近づいていった。


「く、くるな! 化け物!」


「失礼な奴だな。いいか、お前らが滅茶苦茶にしようとした人間社会の力って奴を今から見せてやる」


 ジョーは、そのハッカーを自分の体の中に取り込んだ。


「や、やめろ! うわあああ!」


「喚くな、喚くな、いいからほら、お前の顔と体をこれでよく見てみろ」


 ジョーは近くにあった適当な材料でシュッと作った鏡をハッカーの前に持って来た。


「えっ……あっ!」


 そのハッカーがその視線を思わず鏡に移した瞬間、そこにはこれまで忌み嫌ってきた顔とは全く違う顔があった。


 そのハッカーは、慌てて部屋を出ると、一階の洗面所へ急ぎ、そこに備え付けの三面鏡に全身を曝した。


「ああ! これが俺だって? 信じられない!」


 そのハッカーの火傷痕はすべてきれいに無くなっていた。


「信じろよ、現実だ。いいか、それは人間社会のおかげだ。お前の体を直すのに、ヨシュア国の電源と、ネットでの医療情報も使っている。電気も、医学の研究成果も、もちろんネット環境も、人々がきちんとそれぞれの仕事をして働いてくれているからこそ利用できるものだ。だからそういう社会があることを感謝しろよ! そしてお前も、こういうバカなことは止めて、自分のやるべきことをしっかりやれ! じゃあな!」


「じゃあって、このままいくつもりか? あんた、俺を懲らしめるためにここに来たんじゃないのか?」


「懲らしめる? そんなことしてなんになる? 反省するかどうかなんてお前自身が決めることだ。俺はただ、お前を止めに来ただけだ」


 そう言ってジョーが去ろうとすると、


「こんなんで俺が止めるかどうかなんて分からないだろ?」


「止めないなら、別の手段を取るまでだ」

 ジョーは凄むように、オクテットのサイズを少しだけ大きくした。


「待て! 今のは冗談だ! もうやらないよ! それより、あんたは一体何者なんだい?」


「俺か? 俺はジョー、オクテットのジョーだ」

 そう言って、ジョーは別のハッカーを探しに行った。


「オクテットのジョー……」


 ジョーがいなくなると、そのハッカーはすぐさまPCの前に座り、キーボードを連打した。


 名無しの小者:なんか今、俺んちにスゲーのが来たぞ!


 ショウタ:俺の所にも来たよ!


 ポンタ:あれ、何なんだ!? とりあえず友達になってもらったけど


 名無しの小者:『オクテットのジョー』とか言ってた。全然意味分かんねえけど、すげえよあいつ、おれの火傷を一瞬で直してくれた!


 アミ蔵:何そいつ、神じゃね?


 のんき男:神様、キターーー!!


 ジョーのオクテットは、ネットで大騒ぎとなり、動画や写真もアップされた。ジョーは、オクテットを分身させながら、ネット回線を介して世界中のハッカーたちの元に訪れ、ハッキングを止めさせていった。


 ただ、すべてのハッカーが大人しく言うことを聞いてくれたわけではなかった。説得に応じない者については、やむを得ず、そして容赦なく、近くに生えている樹木等と融合させて身体の自由を奪った。


 ジョーのハッカー訪問は効を奏した。ハッカーに乗っ取られていた軍事施設は次々に解放され、再び同盟国軍部の管理下におかれた。


「ジョーさん、やりましたね! 世界中の混乱が沈静化されつつあります! テレビでもネットでも、同盟各国の声明が発表されていますよ!」


「ああ、なんとか間に合ったようだな。よかった。本当に」


 しかしそのとき、再び施設のアラーム音が鳴り響いた。


「なんだ!?」


 スエズリーがレーダーを確認した。


「5発のミサイルがAITに向かって来ています!」


「なに? 同盟国の軍事施設はすべてとり戻したはず?」


「ちょっと待って下さい! 何かが、このマキシマ島に近づいて来ています。これは……アルザム国の空母!? アルザム国の艦隊がこのマキシマ島に向かっています!」


「くそっ!」


 ジョーのオクテットは、マキシマ島の上空に再び瞬間移動して、5発のミサイルをバラバラにした。

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