第6話 ミカの信念

 午前6時3分、ミカとジョーはセスナ機に乗り、ヨシュア国の北の領海上空を飛行していた。


 ミカはパイロットとして操縦桿を握り、リサ博士のいるマキシマ島に向かっていた。


 空は快晴、日の出前の明るい東の空が透青を帯び、心さえ映せそうな清澄な空気が目の前に無限に広がっていた。


(視界は良好。近くに低気圧もなし。この分だと昼頃には着けるわね)


 この晴天の中を飛ぶというその爽快感は、本来なら、ミカの心を開放するだけの十分な力をもっていた。しかし、機内では、後部座席で寝ているジョーの口から放たれる酒の臭いが、ときおりミカの鼻をかすめ、操縦桿を握る手を堅くしていた。


 昨夜から今朝未明にかけてのアランとジョーとのやりとり。それはミカにとってこれまで経験したことのない屈辱にまみれたものだった。任務遂行という大儀のみが、かろうじてミカの理性をつなぎ止めていたに過ぎなかった。


 昨日の夜、ミカはリサ博士と遅くまで電話をしていた。ミカにはリサ博士に早急に報告すべきことがたくさんあったのである。ジョーのこと、仲間のこと、オー・プロジェクトのこと、そして当初もくろんでいたミカの計画が失敗に終わったことなど。ただし、ミカは、「ほのかの里」での出来事については一切触れなかった。


 やっとリサ博士との話を終えたのは、もうすぐ午前二時になろうという時だった。さっさとシャワーを浴びて眠ろうとしていたところに部屋の電話が鳴ったのである。


 電話はアランからで、なぜかジョーを自分の部屋まで連れてきて欲しいとのことだった。どうやらジョーは、アランの部屋から逃げ出したようだった。


(ふざけないでよ、こんな夜遅くに、自分で行けばいいじゃない!)

 と、ミカは初めはそう思ったが、ある考えが突如ひらめいた。


「分かりました。必ずジョーを連れてそちらに伺います」


 ミカは、受話器を置くと、さっそくマイクの部屋に向かった。ジョーが隠れるとしたらそこしかないと思ったのだ。行ってみると、案の定、ジョーはマイクの部屋の前でうろうろしていた。中に入れないのは分かっていた。そのときマイクは、世界中の宇宙パイロットたちが集う、ある国際会議に出席するために不在にしていたのである。


 ミカはジョーの左腕をしっかりと掴んで、アランの部屋に引っ張っていった。


「何をするんだ、ミカ! 放せよ! 酔っぱらいジジイの相手はもううんざりなんだよ!」


「それってショーンのこと? それは仕方ないじゃない。元はと言えばあれはあなたが仕掛けたんだから。それよりも、このまえあんたが送ってきた彼の写真。何よあれ? 見てすぐに削除したけど、名前を聞くたびに思い出しちゃうのよ、気持ち悪いったらありゃしない!」


「写真の件は謝るよ。でもなんで今度はアランの相手まで」


「別にいいじゃない。人気者はつらいわね」


「違う、絶対に違う、マジで行きたくない。何か嫌な予感がするんだ。ほんとだって、行けばきっときみも巻き添えを食うことになるぞ!」


「悪い予感ですって? そんなものを信じるの? あなたって本当に子供ね。いいからほら、さっさと歩きなさいよ」


 こうしてミカは、嫌がるジョーを連れてアランの部屋にやってきた。


「アランリーダー、ミカです。ジョーを連れてきました」


 そう言ってミカとジョーは中にはいった。

 中に入ると先ず、部屋中に散らかった書類が目に入り、つづいてウイスキーの甘い匂いが鼻をついた。


 アランは、グラスを片手に、部屋のほぼ中央にある一人掛け用のソファに座っていた。少し虚ろな目をしていて、すでにけっこう飲んでいるようだった。


「来たな、この凸凹コンビが! こっちにきて座れ」


「はあ」


 電話での口調とはまるで違うアランに、ミカは少しだけカチンときた。


(凸凹コンビですって? この横柄な態度は何? 腹が立つけど今は我慢するしか

ない。この状況を利用しない手はないもの)


 アランはミカとジョーを前の長ソファーに座らせてお酒を振る舞おうとしたが、ミカは断った。ジョーはお椀のようなものにお酒が注がれた。


 アランはミカに部屋に戻るように促したが、話があると言ってミカは拒んだ。

 そしてジョーが立ち上がろうとしたとき、カーンという変な音がして、ジョーが頭を抱えてソファーに倒れ込んだ。


(金だらい? 何それ? 意味が分からないわ)


 ジョーはアランに説明を求めていたようだけど、なぜかアランはそれを無視していた。


 だがミカはこの状況をさらに好都合なものとしてとらえた。普通なら決して通ることのない話でも、判断力が鈍っているこの状況ならと考えたのである。


 グラスを片手に、アランは何やら取り留めのない話を始めた。ほとんどがグチやぼやきの類だった。


「君たちは、オー・プロジェクトの発案者である、三人の博士のことを知っているか?」


「いいえ、よくは知りません」


「じゃあ教えてやろう。あいつらはあれでも全員ノーベル賞をもらっている」


「それは知っています。確か、シンスケ博士は物理学、ヨシオ博士は医学、そしてコウタ博士は文学の分野でしたよね?」


「その通り。彼らは幼なじみで、三十戸ほどの小さな漁村に生まれたそうだ。それほど裕福な村ではなかったが、その村にはなぜか頭の良い人が多かったそうだよ」


 博士たちの経歴などミカにとってはどうでもよく、ミカはそのほとんどを聞き流していた。


 ミカはアランの目を終始見つめていた。これほどの美貌を備えた女性にじっと見つめられる経験など、おそらくアランにはほとんどないだろうと彼女は思っていた。


 果たしてミカの思惑通り、アランはミカの眩しい視線をはぐらかすためにお酒に逃げていた。アランはお酒を飲みながら話を続けた。


「当時、三人の博士たちはその村の子供の中でもずばぬけて頭が良くて、神童三羽がらすとまで呼ばれていたそうだ。三人とも奨学金をもらいながら大学で博士号まで取ったんだ。だがこれは知っているか? コウタ博士は、医学博士、シンスケ博士は理学博士、ヨシオ博士は文学博士なんだ。そう、彼らは全員、それぞれのノーベル賞とは関係ない分野の博士号をもっている」


 ジョーによってグラスにつがれたお酒が、アランの舌の回りにさらなる勢いを付けた。


「博士たちのそれぞれは、違う学問分野に進んだけれど、それぞれの学問分野では大した成果を上げることができなかったそうだ。そこで博士たちは、おもしろ半分で互いの研究テーマを交換し合ったところ、それぞれの研究で画期的な結果が出てしまい、結果的にノーベル賞を取るにまで至ったという。全くふざけた連中じゃないか」


(へえー、そうなんだ。でも例えば、理系の人が実は文系科目に向いていたり、あるいはその逆だったりする話なんかは結構聞く話じゃない)


「だが私は、個人的にはあの博士たちのことを嫌いじゃない。政府の思惑と彼らの思惑とがずれていることも承知している。君たちも知っているように政府は、マイティメタルを使ってオクテットに関する研究をさらに進め、我が国の防衛力の優位性を確立させようとしている。要するに、どの国にも負けない軍隊のような組織をつくるという話だ。だがあの博士たちは違う」


「え? 違うのですか?」


 ミカの詰め寄るような態度に対し、アランはもったいぶったようにグラスのお酒をゆっくりと回し始めた。


「もっとも、マイティメタルを手に入れて、オクテットシステムの研究をさらに進めるという点では、政府の考え方と博士たちの考えは一致している。違うのはそれをどう利用するかだ。博士たちはそれを使って、もっと人類を宇宙に送り出したいんだそうだ。誰でも気軽に宇宙にいけるような時代にしたいそうだよ」


「それはそれは、壮大な計画ですね(だれでも自由に宇宙に行ける時代ですって? そんなの無理に決まっているじゃない)」


「おい、お前たち今、『そんなことできるわけがない』と、そう思っただろ? ところが、オクテットシステムのテクノロジーを使えばそれが可能なんだ。宇宙船などというえらく金のかかる大そうなものを製造しなくとも、個人の意識を光速で宇宙のどこへでも飛ばして、そこでいろいろなことができるようになるわけだからな。この技術のすごいところは、マイティメタルの持つその神のような力と、普段使用しているエネルギーや情報とを互いリンクさせながら、人類という存在をあらゆる場所に送り届けることができるという点なんだ」


(ふーん、そう言われてみれば確かに……)


 ミカは、アランの話に多少の興味をもてるようになった。


「それで、人類を宇宙に送り出して博士たちはそうした人々に何をさせようとするのです?」


「別に何も」


「何もって、どういうことですか?」


「博士たちの真の目的は、人類に宇宙で何かをさせることじゃなくて、この地球から戦争を無くすことにあるんだ」


「戦争を無くすですって?」


「そうだ。見てみろ、今の我々の世界を。例えば、海を挟んだ隣国と我国の関係を。誰も住めないような小さな島の所有権を巡って、いつもいがみ合っているだろう。我国だけじゃない、領土に関する争いは世界中どこにでもある。太古の昔から、人間は自分の土地と他人の土地との境界をめぐって様々な争いを繰り広げてきた。だから戦争が絶えることはない」


「確かに人類の歴史は戦争の歴史とも言われていますが、それと博士たちの思惑との間にどんな関係が?」


「考えてもみろ。もし、個人レベルで自由に宇宙にいけるようになったとしたら。きっと皆、地球より広くて資源なども豊富な未開の星を目指そうとするんじゃないか? 大航海時代に人類が新大陸を探し求めてきたように」


「たぶん、そうですね」


「そうなるとだ、人々はもはやそんな小さな島なんかに興味を示さなくなるだろう。そんな島を手に入れて領海を少しくらい広くすることなどなんの意味もないからな、広大な宇宙に存在するかもしれない未開の大地に比べれば。いや、もしかすると、人々はそのとき、国境にさえ興味を示さなくなるかもしれない。地球よりももっとひろい広大な場所には自由に行き来できるのに、地球ではすぐ隣の国にさえ自由に行けないというのは変な話だからな。人々が興味をなくせば、国境などあっという間になくなるだろう。なぜならそんなものはもともと存在しないのだから」


(へえー、なるほど、そういう考えもありかも。この計画を立案した人たちって、案外まともだったのね)


「なるほど、確かに国境がなくなれば、少なくとも国際法上の戦争はなり立たなくなりますね」


「その通りだよ、ミカ君。さらに、博士たちによると、このシステムのもう一つのすばらしい点は、人間の恣意によって制御することができないところにあるそうだ。ジョー、ここだけの話だが、ジョーがよく言う『オヤジ』という存在について博士たちは殊更に興味をもっている。この点は政府の役人たちの考え方とは違う点で、コントロールし難いということは、すなわち、悪用もされ難いというわけで、そういうことだからジョー、お前のいう『オヤジ』の正体がはっきりしなくとも、それはそれで良いと、博士たちはそんな風に考えているようだ」


 ジョーはすでに酔っていて、アランの話をほとんど聞いておらず、ミカが代わりに答えた。


「人間がこれまで創り出したもので悪用されなかったものはないとまで言われていますしね。それにしてもすごいですね、この計画にそんな深い考えがあったとは」


「ふんっ! 何が深い考えだ! 馬鹿じゃねえの? 私は誰からこの話を聞かされたと思う?」


 いきなり雰囲気が変わったアランに、ミカは少しだけ驚いた。


「誰って、それは博士たちご本人からでしょう?」


「違う! 私はこの話をユリアちゃんから聞いた」


「ユリアちゃん? 誰ですか?」


「『クラブファンタジー』のキャバクラ嬢だよ!」


「キャバクラ嬢!?」


「そうだよ、あの博士たちはな、夜な夜なキャバクラに出向いていって、そこでオネエちゃんたちにそういう話をしながら格好をつけて、彼女たちを口説いているのさ!」


「博士たちがキャバクラ通いを?」


「そうだ。おまえ等、そもそもこのオー・プロジェクト(オー・プロジェクト)の

『O』の由来を知っているか?」


「それはやはり、オクテット(Octet)の『O』では?」

 ミカが即答した。


「ちがう、この作戦の正式名称は『お持ち帰り大作戦』というんだ。即ち、オー・プロジェクトの『O』とは、お持ち帰りの『お』なんだよ!」


「えっ!?」


「あのスケベじじいたちは、気に入ったキャバクラ嬢をいつかお持ち帰りにすることを夢想してて、ある時ふと、今回の計画を思いついたらしい」


「どういうことです?」


「この計画のミソは、オクテットの力と、彗星に含まれる巨大なマイティメタルとを使って輸送宇宙船をその場で製造し、その輸送宇宙船に乗って地球に帰還するというところだ。すなわち、輸送宇宙船そのものがマイティメタルでできていて、ジョーはそれに乗って地球に帰ってくるというわけだな。つまり、お持ち帰りってことだ」


 ミカは、アランの話を聞いていたそれまでの時間が、一瞬で無駄になったような気がした。


「こんな前代未聞のとんでもない計画だが、それでも博士たちのシミュレーション結果によれば、成功する確率は五割以上もあるそうだ。もちろんこれはオクテットシステムがこれまで通りに正常に機能すればの話だがな!」


「結局、ジョー次第ということですね」


「ああ、そうだ。こいつがこうして役立たずのままであれば、この計画はもう終わりだ」


 ジョーは手酌でお酒を飲んでいた。かなり酔いが回っていて、もはやアランとミカの会話など全く聞いていない様子だった。


 ミカはここだと思った。改めて背筋をまっすぐに伸ばすと、やや前傾してアランの目にさらに食い入るような視線を送り、本題に突入した。


「アランリーダー、私が、ジョーを、いやオクテットを必ず復活させてみせます!」


「必ず、か。確かに、君には理由があるからな。なんとしてもオクテットを復活させなければならない明確な理由が!」


「明確な理由?」


「分かる、分かるとも。君の気持ちは痛いほどね。本来なら君はこの男を八つ裂きにでもしたいところだろう。だがそういう訳にはいかない。そうだとも、あの模様を消してもらうためには、こいつの力が必要だから。そう、君と我々では背中に背負っているものが違うのだ。うわっはっは!」


 その瞬間、ミカにまたあのときと同じ、つまりマリアと一緒に帰ったときと同じ衝動が走った。


 ミカは思わずアランの顔面に右拳を突き立てようとしが、目的を達成させるという刹那の思いが彼女を押し止めた。ミカは、アランの許可をとりつけるまではなんとしても耐えなければならなかった。


「アランリーダー、この計画に関しては私の背中のことなどどうでも良いのです。この計画には我国、いや人類の未来がかかっているのですから」


「人類の未来だと? ふん、君も私の周りにいる連中と変わらないな。綺麗ごとばかり言って見え見えの本心を隠そうとする奴らに。私はね、君に、こいつをここで八つ裂きにしもかまわないと言っているのだよ。仕事をぬきにした君自身の本音が聞きたいね」


「私の本音を聞きたいのでしたら、ジョーを三週間、いや二週間ほど私に預けて下さい」


「二週間? ジョーをどうするつもりかね?」


「リサ・カナエ博士のところに彼をつれて行きます」


「リサ博士のところだって?」


「そうです。今回のトラブルの原因はアバタープログラムそのものにあるのです。アバタープログラムを正常に起動させるためにはジョーの協力が必要です。二週間後、私はジョーをつれて必ずここに戻って来ます。そして、アランリーダー、そのときあなたは私の本心を、その身をもって知ることになるでしょう!」


「身をもって知るか、面白い! よし! これで話は決まった。ほら、起きろジョー」


 そう言ってアランがジョーの頭を二、三回小突くと、ほとんど酔いつぶれて寝ていたジョーが、なんども目をこすりながら、いかにもだるそうに起きあがった。


「んー、何すかー?」


「ジョー、仕事だ! お前はこれから大事な使命を果たしに行くのだ!」


「は? 使命?」


「気をつけい!」


 アランの号令にジョーの酔った体は機敏に反応した。


「さあ、お前はこれからミカ君と共に行くがいい。そして、世界と、背中に数奇な運命を背負ったこの女性とを救うのだ。若く美しく魅惑的で、背中にあのマークをもつこの女性を! 優れた知性と、気高さが漂う、背中にでかいあのマークをもつこの女性を!」


 ジョーは直立不動のまま、視線をまっすぐにアランに向け、普段全くしたことのない敬礼の動作、即ち、真っすぐにした右手を右目の少し上で傾ける動作をした。


「アランリーダー、承知したであります! 自分はこれからこの世界と、背中にアホの文字とあのマークをもつ一人の女性を救うであります!」


「えっ? アホ? ぷっ! 失礼、そうだ、そうだともジョー、アホとあのマークが背中でコラボしているミカ・ウラカン君と共に行って、その任務を果たしてくるのだ!!」


「了解しました! 行くぞ! ミカ!」


 ミカはただ黙って聞いていた。そう、ミカには任務と責任があったから。ミカたちの住むこの現実世界ではなく、その存在を世間にまだ知られていない清澄で脆弱なある世界を本当に救わねばならなかったから。


 このときミカは、自分自身と堅い約束をして耐えていた。それは、この世から二人のバカがいなくなるというビジョン。ミカの任務が完遂したとき、その二人のバカどもの眉間に煌々とした鉛の玉が打ち込まれるという、未来の確信ともとれる極めて明確なビジョンだった。


「ジョー、そしてミカ君、君たちの未来は今揚々として、その光は我々をも導くものとなるだろう。さあ、迷わずに行くがいい、幸運を祈る!」


 アランはミカとジョーを入り口のドアの方に送り出した。そして両手をあげて

「万歳!」と三回唱えると、目を静かに閉じ、恍惚とした表情で天井を見上げた。


 ガンッ!


 アランは倒れた。顔面に巨大な金だらいを受けて。その衝撃はアランの記憶そのものを大きく揺さぶるものだった。


                 ◇◇◇


 ミカは操縦桿を握り締めると、その沸々とした情感を、罪のない無垢の外の景色に織り混ぜようとした。

「うーん、あー、よく寝た。ん? あれ? ここは?」

 後部席で寝ていたジョーが目を覚ました。

「やっと起きたわね。ジョー」

 ジョーは、そのねぼけ面を臆面もなく晒すと、大きなあくびを一つして、両腕を上に伸ばした。

「あれ? 君はミカ? ここは一体?」

「ここはセスナの中よ」

「セスナ?」

「そう、わたしたちは今、マキシマ島にむかっているところよ」

「マキシマ島だって? ちょっと待って、DDUは? そうだ、マリアは? マリアはどうしたの?」

「ここには私とあなた以外誰もいないわ」

「そんな、勝手に抜け出してきたってのかい?」

「違うわ。ちゃんとアランの許可を得たわよ。あなた何も覚えていないの?」

「ええっと、たしか昨日の夜、アランにいきなり呼び出されて、そして、うーん、あれ? なぜか君も僕の横にいたよね?それで、そうだ思い出した! 確かきみの背中のあのマークと世界の平和を守れとかなんとか……」

 操縦中であるにもかかわらず、ミカはいきなり操縦席を立った。そして、ジョーのいる後部座席にすばやくその体勢を整えながら移動し、閃光のごときアッパーカットをジョーの顎にヒットさせた。

 ジョーの体が後部座席に強く打ちつけられたとき、機体は大きく揺れたが、ミカは再び素早く前に移動して操縦桿を握り、機体を立て直した。

 操縦桿を握るミカの手により強い力が加えられると、ミカは少し早口だがはっきりとした口調で言った。

「ジョー、いい? よーく聞きなさい。これからあなたの使命を言うわ」

 ジョーは軽い脳震盪を起こしていた。

「これからあなたはマキシマ島のAITに行って、以前話したALの住む世界、『チューリングワールド』を救うの。さあ行くわよ、それ!」

「え? 何? 何を救うって? うわわわっ」

 ミカは、ジョーが言い終わらないうちに、操縦桿を前に倒して機体を急降下させた。ジョーは助手席の背もたれに当たって前のめりになり、胃袋に衝撃が与えられると、思わず手で口を塞いだ。

 吐き気と格闘しながら、ジョーがふと見上げると、プロペラの先には、マキシマ島がくっきりとその輪郭を現していた。

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