第13話 魔王VSゲーム部

『「では今から魔王VSゲーム部の戦いを始める」』


 良たちはその放送を校舎の一角にある使われていない教室で聞いていた。


「さて、なかなか面白い放送聞けたしやるか!」


「あぁ。それはいいが今朝の快の用事ってこのことだったんだな」


「まぁ、魔王軍の頭脳として魔王を引き立てる演出は必要だからな」


「先輩、快先輩。準備しないと時間ないですよ!」


 良たちが喋っているとVRゴーグルを手にした姫の声がかかる。


「ああ了解。……にしてもこれを使うことになると思わなかったな」


 良はVRゴーグルを手にして言う。


 SWOに限らずVRゲームをプレイする場合にはヘルメット型とゴーグル型の2つのゲーム機に分けられる。

 ヘルメット型はゴーグル型よりも動きが多少よくなるが値段が高い。

 ゴーグル型は性能がヘルメット型に多少劣るが値段はメット型より安く持ち運びもしやすい。


 この2つに大きな性能差は無いが、その多少の差が真のトッププレイヤーとそうでないものを分ける。

 ちなみに魔王軍がどちらも持っているのは昔あったイベントでゴーグル型のハードを賞品として貰ったからだ。


「よし、準備完了。みんないけるか?」


「はい!」


「おう!」


「無論です」


「いつでもオッケー」


 良の言葉に各々が答える。


「じゃあ華黒先生あとよろしくお願いします」


 良は扉の前で立つ華黒に声をかける。


「ああ、見張りは任せて思いっきり暴れて、そして速く終わらせてこい」


 華黒の言葉に良は強くうなずく。


「じゃあ、いくぞ!」


「「「「「ゲームスタート!」」」」」


 五人の意識はゲームの世界へと向かった。





 ―――――――――――――――――――――

 キョウたちは対戦用のフィールドへ転送された。


「フィールドは草原か。障害も無いし、一対多数で戦うキョウにとってはいいフィールドだな」


「そうですね。これならすぐ終わりそうです。先輩、調子はどうですか?」


 キョウは大剣を数回振る。


「……多少、違和感がある気がするが、問題ない」


「さすがキョウ。よく違和感なんて感じる。私はなにも感じないのに」


「ええ。ですがそんな状態でも剣は鈍っていません。流石です我が魔王」


 ソラとケンも多少その場で体を動かしながらキョウを褒める。そして少しすると空中に数字が浮かび上がる。


「ありがとよ。っと、カウントダウンが始まったな」


 表示が10を示す。


「キョウ。がんばって。お姉ちゃんとマリも見てるって言ってたから」


「それは情けない姿は見せられないな」


 表示が9を示す。


「我が魔王。あなた様のご活躍をこの目に焼き付かさせていただきます」


「ああ、見逃さないでくれ」


 表示が8を示す。


「キョウ。言う必要はないと思うが、油断するなよ。いや、お前は油断しても勝てるか」


「そうだな。だが相手も全力なんだ、俺も油断せずに全力で叩きのめす」


 表示が7を示す。


「先輩、私先輩の全てを信じてるので。それに……」


「それに?」


「私は、先輩のものですから♪」


 ヒメはウィンクをする。


「ああ、信じていろ。俺の仲間は俺が守りぬくからな」


 表示は5を指した。


「じゃあ行ってくるよ。こい、『獄炎ごくえんの大剣』」


 キョウは燃え盛る炎のようにな形をしたオレンジ色の大剣を手に取り歩き出す。


 4、3、2、1……0


 そして戦いは始まった。



 ―――――――――――――――― 


 キョウは草原を歩く。ただ歩く。

 そんなキョウをゲーム部部員たちは遠目に見る。


「部長!ほんとうに一人で来ましたよ!」


「ふ、まぁそうだろうな。あんな大々的に放送したんだ。よし、先行部隊十人で一気に叩け!」


「了解です!」


 ゲーム部員たちは言われたとおり、近づいてくるキョウに向かっていく。


_______


「……きたか」


 今キョウの目の前には数十人のプレイヤーが走ってくるのが見えている。

 そんな中キョウは、腰を落とし『獄炎の大剣』を肩に構える。


「相手は動いていない!先手必勝で叩くぞ!」

 そんな声が聞こえる。

 そして相手が一定範囲に入った瞬間、


「すぅ~。……燃えつきろ【獄炎】!」


 獄炎の大剣を思いっきり振る。

 すると振った剣から巨大な炎が放たれる。


「「グアァァァ!!!!」」


 その炎はゲーム部部員たちを焼いていく。


 これこそが『獄炎の大剣』の固有スキル『獄炎』

 MPを消費して炎を放つスキルだ。

 そしてこのスキルは魔法攻撃に分類されるが威力は物理攻撃力に依存する。

 そのせいで魔法攻撃力を上げていないキョウでもかなりのダメージを出すことができる。


「もう一発、【獄炎】!」


 二撃目、さらなる炎がゲーム部部員たちを焼く。


「「ギャアアア!!」」


 ゲーム部部員たちが苦しむのもつかの間キョウは更に剣を振る。


「さぁ、まだ始まったばかりだぞ!【獄炎】!【獄炎】!!【獄炎】!!!」


「「ギ、ギャァァァ!!」」


 そしてあえなく【獄炎】に焼かれHPが0になり、ゲーム部部員たちは世界から去っていく。


「さて、次はあいつらかな?」


 キョウは目の先に杖と弓を構える集団を捉える。


_______


「な、なんだあいつは!剣士じゃないのか!?」


 ゲーム部部長の声が響き渡る。

 そこに部員の一人が報告に来る。


「部長!このままでは先行部隊は全滅します!」


 その知らせを聞き部長は苦々しい顔を作る。


「くっ……仕方ない。彼等は見捨てる」


「部長!」


 部長の言葉に部員は怒った声を出す。


「勘違いするな!彼等を無駄にするわけじゃない。だがやつに勝つにはそれしかないすぐに魔法と弓を用意しろ!彼等の死を無駄にするな!」


 その言葉が、思いが通じ部員は顔色を変える。


「分かりました。すぐに伝えます!」


 報告に来た部員速足でその場を去る。


「さぁ反撃だ!」



_______


「魔法部隊。弓部隊。放て!」


 その言葉をトリガーにキョウの目には大量の、矢と魔法が映る。


「なるほどな。確かにここまで距離が離れていると【獄炎】は届かない。だが俺を甘く見過ぎだな……【クイックチェンジ】」


 キョウは武器を瞬時に入れ替えるスキル【クイックチェンジ】を使い武器を『獄炎の大剣』から『血濡ちぬれの黒剣』に変える。 

 そして向かってくる魔法や矢のもとに自ら突っ込んでいく。


「ふ、バカめ。そんなのただの自殺行為だ!」


 そんな言葉が聞こえたがキョウは無視をし、ひたすらに走り、そして……


「「なに!!??」」


 するりと、魔法と矢の間をすり抜け、躱して、走る。

 さらにはその手に持つ大剣で矢を弾き魔法を切り裂く。


「なぜだ!なぜそんなことがっ!」


 誰かの声が漏れた。

 だがその疑問はもっともだ、飛んでくる魔法と矢の間をすり抜け、弾き、切り裂くなんて人間業じゃない。


 キョウがそんな人間離れした芸当を出来るのはひとえに仲間のおかげだ。


魔法姫マジックプリンセスなんて二つ名を持つ大魔法使い、空を飛ぶ百発百中の弓使い。そんな二人が居るんだ。遠距離対策なんて好きなだけ出来る)


 やがて無駄と悟ったか部員たちからの攻撃が止む。

 これをチャンスとキョウは走る。

 だが……


「引っかかったな!今だ、やれ!!」


 その言葉と共に魔法が放たれる。

 これまでの物と比べられないほど速く強力な魔法だ。

 並プレイヤーなら一撃貰えば危険なレベルの魔法。しかもそれが3発。

 加えてキョウは全力で走り方向転換が上手くできない。


 ドカン

 と、魔法はキョウ直撃し砂埃を起こす。


「勝った!」


 魔王軍の7人を除くこの戦いを見ている全員が思っていただろう。


「な、何故だ!?」


 その砂埃の、中に奴はいた。


「何故、立っている!!?」


 大剣を横になぎ払い砂埃を晴らすは、ほんのり光っている赤い線入った鎧に身を包み、鎧と同じように赤い線の入っている黒い大剣を手に握る目つきの悪い少年。


「何故だ!!!」


 彼こそゲーム内最強の魔王。

 魔王キョウである。



_________

 数秒前

 キョウの目には数秒後に自分の命をHP削り取られる魔法が映っている。


 だがキョウはあくまで冷静にただ一言。


「【魔力変換魔法防御マジックブースト】」


 その瞬間キョウの着ている鎧、『血濡れの黒鎧こくがい』の赤い線が光る。

 そして『血濡れの黒剣』を盾のように前に構え衝撃に備える。


 次の瞬間、


 ドカンと魔法が命中する。

 だが、


(無傷だ。危なかったギリギリ間に合ったな)


 この時キョウが行ったのは【魔力変換魔法防御マジックブースト

 これは『血濡れの黒鎧』の固有スキルであり自分のHPもしくはMPを犠牲に防御、魔法防御を上げることが出来るスキルだ。 

 ちなみに『血濡れの黒剣』の場合は物理攻撃力への変換になり、このスキルを使った後はHPもしくはMPの回復量が減ってしまう。


 これによりキョウは五体満足で立っている。


「さて、そっちも手は出し尽くしただろうし、ここからは魔王の時間おれのターンだ。【生命変換攻撃ブラットブースト】」 


 キョウの持つ『血濡れの黒剣』の赤い線が光りだし、キョウのHPの三割ほどが減り攻撃力が上昇する。


「さぁ、かかってこい。魔王の力を見せてやる」


 キョウは不敵にまさしく魔王のように微笑んだ。








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