3.ややっ! こらぁ不思議だ!

 世の中には純粋に疑問を抱かざるを得ないことが多くある。初歩的な疑問の例としては、「なぜ鳥は空を飛べて、人は飛べないのだろうか」というものがあり、人間関係など屈折した要素が加わった難解で発展的な例としては、「発毛のcmに出演している俳優は、『私も愛用しています』なんて言っているが、そんな事を披瀝して一ミリも恥を味わわないのだろうか」というものもある。だが、今までの人類史を見て、疑問があってこそ文明が発達し、またその文明における疑問がさらなる飛躍を促す。人間はそうやって知識や技術を後世に紡いできたのだと思う。だから、日常における疑問は大事なのだ。そうなのだ。

 っと、人類の発展における疑問の意義はさておき、人間はそんな疑問が浮かぶような機会に臨場した折には、口に出さずとも、

「ややっ! こらぁ不思議だ!」

 と感嘆するものだ。

 そして、僕も日参してお世話になっている塾にてその体験をしたのである(紹介に至るまでが冗漫であるとともに、それが特性であるのを売りにしようと考えているのが、何を隠そうこの僕である)。

 高二の夏。コロナ禍であるのに僕の学校は二週間くらい夏休みがあった。そうなると、学校という勉強の場を失った少年少女たちは、主体的か客体的かは置いておいて塾に歩を進めるものである。蝉がジジジジ……と啼き、マスクの中がモワワワと蒸れ、太陽がシャシャシャシャ……と煌めいている中、僕は冷房が程よく効いたバスに揺られて塾へと向かったのだ。学生の性分であるモナトリアムの時間は束縛がなく、タラタラと流れる事からか、僕は塾に長居していた。

 さて、人はもちろん多くの生き物は生理的に、体内に何か取り入れたら何かを排出するものだ(唐突な尾籠展開! すみません)。そして、時の経過と共にそのディスチャージタイムを迎える。よって、僕も朝ごはんに取り入れたコーヒー牛乳(またの名を「ミルクコーヒー」、カッチョよく言って「冷えたカフェラテ」)を、ところてん方式を採用して体外に排出する事になった。

 塾の個室一つしかないトイレへと向かい、僕は鍵の締まりが悪いそのトイレのドアを閉める。そして、便座にセットオンした時、僕は、

「ややっ! こらぁ不思議だ!」

 と思ったのである。

 今まで全く意識していなかったのだが、便座が暖かい。それは人肌名残りの暖かさではなく、電気が通った暖かさ、つまりは暖房便座であったのだ。

「夏なのに?  夏だからか? いや、『夏だから』って意味ないだろう。どうしてなのだ?」

 と僕は正対するエメラルドグリーンの壁を見て考えた。

 ここで、どーでも良い妄想がたくましい僕は、神妙な様子で原因究明を求めた末に、二つの有力候補を思いついた。一つ目が、塾による権力の誇示である。読者置いてけぼり仮説は僕のエッセイあるあるなのだが、今回のはどちらかというと理にかなっいる。まず夏場の暖房便座はシベリアなどに限って、温暖な日本では全く見られない事である。言わずもがなお金の無駄なのだ。ここで、権力誇示仮説の筋が通る。お金の無駄、つまりは資金潤沢フハハハハ状態にあるのだ。大戦景気で札に火を灯して「どうだ明るくなったろう」の風刺画が良い例である。このように、いささか腹立たしい金銭的権力誇示が成されているのではないか、という仮説である(な訳あるかっつーの)。

 さらに二つ目が、「みんなの味方、心温かな場所」作戦である。だんだん僕自身も何を書いているのか半ば分からなくなってきたが、一応ダラダラ調子で続けていこう。学生は事あるごとに定期考査があったり、模試があったりとしている。この夏休みという期間は、三学期制学校のテスト返却後に訪れる長期休暇である。よって、気分はブルーでだだ下がりテンションの学生にとって、塾が心温かな場所であることを示すために、体感的に温めているのではないだろうか、という仮説である(だからそんな訳あるかっつーの)。

 僕はそんな絶無的妄想を膨らませたのち、トイレのドアを開いたのだった。

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