【極感謝】★1700記念SS ⑪

「奏良。こんなところで何をしてるの?」


 言っている言葉は、普通の言葉。

 でも、その口調は奏良の知る海斗が発すると思えない冷たいものであった。


「・・・え・・・海斗・・・」

「こんな雨の中、何しているの」

「・・・海斗を待っていたの」

「僕を?なぜ?」

「海斗・・・お願い・・・」


 水たまりの中、奏良は膝をつく。


「お願い・・・戻ってきて」

「戻る?」


 海斗を見上げる奏良の顔はひどいものであった。青白く血の気がない肌。泣きはらした目。化粧が流れ落ち、まだらになっている。


「・・前みたいに、戻って来て・・・私だけの海斗に・・・お願い」

「・・・」


 体を小刻みに震わせる。震える声。


「みんな・・ひどいの。どのサークルに行っても男の人が最初はちやほやしてくれるんだけど・・・すぐにみんな私を避け始めるの。私、なんにも悪くないのに」


 奏良の目は何かにとりつかれたようになっている。


「そして、みんな私にひどい言葉明かり言うのよ。みんななぜか私に怒っていじめるの」

 胸の前で、懇願するように手を合わせる。


「もう、誰も信じない。海斗だけ。だから、前みたいに私のところに戻って来て。お願い!」


 海斗はため息をつき言う。


「それはできないよ」


 頭を横に振る海斗。


「こんなところで立ち話もなんだけど・・・今僕は彼女と一緒に住んでいるんだ。だからうちに入れるわけにはいけないんだ。すまないけど」


 奏良の顔に怒りの表情が現れる。


「だめ!海斗。海斗は騙されてるの、絶対!目を覚まして!」

「なんでそんなことを言うのさ」

「だって、おかしいじゃない。あんなおばさんが海斗なんか相手にするはずがないもの。普通じゃないわ!」

「そんなひどいこと言わないでもらえないかな」


 海斗は、むっとした顔をする。


「僕は今はとても幸せなんだ。彼女も、その友人も僕に良くしてくれているよ。だから、彼女のことを悪く言ったら許さないよ」


 その強い口調に奏良はひるむ。


「だから、僕はもう奏良のところに戻ることはないよ」


 海斗は歩き出す。そして奏良の横を通り過ぎる。


 奏良の背に向かって、言葉をかける。


「それに奏良のところには他にもいるでしょ。ちゃんとその人のことを大切にしないとだめだよ。じゃないと本当に誰もいなくなるよ」


 そして、マンションの中に消えていった。



「うええええ・・・・・ひくっ・・・うえぇ・・・」


 泣き崩れる奏良。



 しばらくして、奏良は気づく。

 降り続いている雨粒が、奏良の体に当たらなくなっている。


 顔を上げる。


 奏良の上にリクが傘を差しだして立っていた。

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