【超超感謝】★1250記念SS ⑦
「お疲れ様です」
「おう、おつかれ~」
撮影が終わったのは、8時20分ごろ。
そこから、大慌てで機材を撤収し結婚式場を出た。
今は、来るときに乗ってきたワゴン車の中。
一番後ろの席にカメラマンの山野がぐったりと目を閉じてもたれている。
先ほどまで、精力的に撮影していた姿と打って変わって、疲労が全身から染み出してきているようだ。
「山野さん。大丈夫ですか?かなりお疲れのようですけど昨日は寝てないのですか?」
「ああん・・・?寝たよ~。1時間くらい」
「それって、ほとんど寝てないのと一緒ですよ」
「しょうがないさ。スタジオを撤収しなきゃなんなかったからよ」
「え・・・あれからまだ作業していたんですか?」
昨晩、海斗がホテルに向かった後も、山野はスタジオに残って撤収作業をしていたらしい。そして、ほとんど徹夜で撮影をこなしていたのだ。
かなり無理のある撮影スケジュールだと思った。
そんな海斗の表情を薄目を開けて見た山野はぼそぼそと独り言のように話し始めた。
「今どきはなあ、カメラやスマホの性能が良くなって・・・素人がとってもそれなりの写真が写せるようになったじゃないか。すると俺らカメラマンの仕事はどうなるかわかるか?」
「え・・・?」
「カメラマンお仕事はどんどん減っていっていて、おまんま食い上げ状態さ。ほら、街にあった写真屋はどんどん無くなってるだろ」
「はぁ・・」
「それでも、カメラマンに需要があるとしたらよっぽどの有名なカメラマンか、特殊な技能を持つやつか・・・あとは、時間勝負とかの無茶な仕事を引き受けるやつか・・・。おまえもカメラマンを目指すなら覚悟しておいた方がいいぜ。俺なんかは、カメラマンの中では底辺の方だが、こういう仕事を引き受けることで何とか仕事を続けられてるんだ」
「・・・底辺ってことはないと思いますが・・・」
カメラマンお仕事が減っていっている・・・
海斗は、そんなことは考えたこともなかった。ただ、カメラマンになればなんとかなるのではと考えていたのだ。
「底辺さ。お前はカメラマンの仕事ってどんなのを想像してたんだ?」
「なんとなく、雑誌とかのイメージはありましたが・・」
「雑誌ね。確かに、ちょっと前までは花形だったが今じゃあ雑誌が全然売れなくて厳しいらしいぜ」
「・・・確かに、そうですね」
海斗自身、最近は雑誌を買うことは減ってきている。買っていたカメラ雑誌も少しずつ廃刊になり種類が減ってきている。
「さあて、俺らの業界がそんな状態なんだがお前はカメラマンになってどんな仕事をしたいんだい?」
「どんな仕事・・・・」
大学1年生の海斗は、カメラマンとしてどんな仕事に就くかなんてまだ考えてもいなかった。
ただ・・・
その時、ふっと・・・ミキの笑顔が脳裏に浮かんだ。
ミキは、最近忙しそうだが仕事を頑張っている・・・その笑顔はとても輝いていた。
「あの・・・漠然としたイメージなんですが・・・美容関係とかヘアメイクとかの撮影とかでしょうか」
山野は、ニヤッと口の端を持ち上げた。
「なあるほどね。美容関係とかはまだまだニーズがあるんじゃねえか?ポスターや広告用の写真なんか必要だしな」
「そうですか・・」
「ま、今は経験を積むこったな」
「・・・ありがとうございます。今回はとても勉強になりました」
少なくとも、今回のアルバイトでカメラマンお仕事の過酷さと厳しい現実を知ることができた。
それだけではない。
山野には、そんなぎりぎりの時間の中で確実に仕事をやり遂げる実力があるのは間違いなかった。
海斗は、自分にはまだそんな実力がないことを思い知ることができたのだ。
海斗は山野に頭を下げた。
「あぁ・・そういうのいいから」
山野は手をひらひらとさせて、また目を閉じた。
その後、海斗は山野の仕事を何度も手伝うことになる。そして、撮影の技術やカメラマンとして必要な能力を身に着けていくことになるのであった。
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