【超超感謝】★1250記念SS ③

「それでは10分休憩に入りまーす」


 スタッフの声によって、スタジオ内の緊張が緩むのを感じた。

 撮影開始から2時間、戦場さながらの慌ただしさだった。


 モデルの女性が二人交代で、衣装を着替えては撮影に入る。

 一つの衣装に対して4から8ショットの撮影。それぞれの衣装・ポーズに対して照明が指定されていて、指示書に合わせてスイッチと位置を変える。


「照明!照度を2下げて!4センチ左!」


 大きな声でファインダーを見たままカメラを構えた山野が叫ぶ。

 このように時々、指示書に対して微調整が入る。

 海斗は慌てて指示の通りにスイッチを切り替えて照明の位置を変える。


 パシャ

 パシャ


 ポーズに合わせてシャッターを切る音。

 撮り直すことはほとんどなく、次々と撮影していく。


「はい、次ね!」


 そしてモデルが交代する。

 今まで撮影していたモデルの女性は、慌ただしく衣装を着替えに入る。


 そして、撮影がどんどん進んでいくのである。

 休憩に入るまでの2時間で、20着くらいの衣装を撮影しただろうか。


 休憩に入って、壁際の床に海斗は座り込んだ。

 思った以上に、ハードな仕事である。


「おう、お疲れ。どうだ?プロの現場は?」


 海斗に山野が声をかけてきた。


「山野さん。思っていたよりも大変ですね。スピード感が・・・」

「時間が限られているからな、モデルの確保している時間も、クライアントから与えられている時間も決まっているからな。時間短縮のためにあらかじめ、衣装の色・形からポーズや照明を決めているんだ」


 海斗は、渡された指示書に細かく決められていた指示が記入されていた理由に納得した。事前にシミュレーションして照明やカメラの設定なども決めていたのであろう。

 

「そういえば、撮影に連写は使わないんですね。てっきり、プロの撮影は連写するものと思っていました」

「馬鹿言え。そんなことしたら、使う写真を選ぶ手間が増えるじゃないか。あっちを見てみろ」


 山野が顎で促した先には、スーツ姿の男女がパソコンで忙しそうに作業していていた。


「あれは、撮影した写真をWebサイトに反映しているんだ。クライアントとしては一刻も早く販売を開始したいんだ」

「え・・・、今撮影した写真を?」

「明日には、販売が開始される予定だからな。ビジネスっていうのはそんなもんだ」


 当たり前のように言う山野の言葉に、海斗は驚いていた。


「すごいですね。山野さんは全然撮り直しとかしていないじゃないですか。それをすぐに使うのですか・・・」

「あのな・・・プロの仕事っていうのはそういうもんだ。料理人が毎日同じ味の料理を提供するように、プロのカメラマンっていうのは、いつでも同じクオリティの写真を提供できないと仕事にならないんだよ」


 海斗は、目から鱗が落ちる思いであった。

 海斗がバイト代わりに自分で撮った写真をフリー素材として売っている。しかし、それはたくさん撮った写真の中で出来の良いものを使っていた。


 海斗は、プロのカメラマンと自分の間の差をまざまざと体感した。


「さ、撮影を再開するぞ」

「あ・・・はい。あとどれくらいですか?」


 指示書を見る限り、半分くらいは終わっていると考えていた海斗。

 しかし、山野の回答は想像を超えていた。


「全部で200アイテムあるからまだまだ先は長いぞ。そうそう、指示書はあと4冊あるからな」


 えぇ・・・!?



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