アナザー・サイドストーリー 卒業式

「彼女ができた」

 海斗から告白されたその言葉に、幼馴染の奏良と親友のリクは絶句した。

 本来ならば、祝福しても良いのであろう。だけれども、二人とも頭が真っ白になって、何も言うことができなかった。




(Side 奏良)

 私は、何をしてたんだろう。


 幼馴染の海斗。いつも一緒にいた。幼稚園の頃から言っていた言葉。

「海斗、いつも一緒だよ。いつまでも一緒にいてね」


 その通りに、小学校・中学校といつも一緒にいた。一緒に遊んで。一緒に学校に行って。海斗は私の物。誰にも渡さない。


 高校生になって、リクが加わった。3人で遊んで。3人で学校に行って。


 それは、リクに告白され、リクと付き合うようになっても変わらなかった。海斗はいつまでも一緒にいてくれると思っていた。


 海斗は私の物。同級生にも。他のクラスにも。下級生にもそう言ってきた。海斗にはだれも近づけさせない。海斗はもてるようだったけど、それは許さない。


 なんて都合の良い考え方。


 ところが、海斗が話があると言ってきた。リクと私で昼休みに屋上で聞いた。

”彼女ができた”


 私は頭が真っ白になった。いったい、どこのクラスの女?下級生?

 すると、全く予想外の回答。

 この学校の女ではない。それどころか、高校生ですらない。全くの想定外。


 思わず口から出る数々の汚い言葉。

”絶対騙されている”

”すぐに捨てられる”


 海斗は言ってきた。

「絶対に別れないよ。僕も彼女が好きだし、彼女も愛してくれている」


 それから、海斗と疎遠になった。私が海斗を避けるようになったのだ。


 海斗は私の物だったはず。

 なのに、どんどん海斗は遠くに行ってしまう。

 

 自業自得。そんなことわかっていた。





(Side リク)

 俺は、何をしてたんだろう。


 親友のの海斗そして奏良。いつも一緒にいる彼らに嫉妬していた。

 だから、自分がその間に割って入ろうとして、奏良に告白した。


 本当は、奏良は海斗のことを好きだということなんかわかっていた。きっといつかは奏良は海斗の元に行く運命。それまでの間でいい。つかの間の3人の関係でいさせてくれればそれでよかった。


 ところが、海斗が話があると言ってきた。奏良と一緒に昼休みに屋上で聞いた。


”彼女ができた”


 頭が真っ白になった。なんで、そんなことになるんだ?いつも一緒にいたのに、そんな相手がいたなんて聞いてない。相手は誰なんだ?


 すると、全く予想外の回答。

 年上の社会人の女性。どうやって、そんな相手と知り合ったのか?全く想像ができなかった。


 思わず口から出てしまった言葉。

”遊ばれているだけだ”

”からかわれているだけに違いない”


 海斗は言った。

「絶対に別れないよ。僕も彼女が好きだし、彼女も愛してくれている」


 それから、海斗と疎遠になった。奏良の気持ちを考えると、海斗に話しかける気にならなかった。


 俺と奏良は一緒にいても、会話が減っていった。一緒にいても、思うのは二人とも海斗のこと。


 海斗は、いつか戻ってくる。そう思っていた。だけど。

 海斗は俺たちと違う大学を受験して合格。

 そして写真のコンクールで受賞。モデルは彼女だという。


 写真を見た。ものすごい美人だった。


 その表情。少し照れたような、恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうに微笑む女性。それだけで幸せが伝わってくる。

 その写真を見たら、もうわかってしまった。海斗は俺たちの元からもとっくに羽ばたいて行ってしまったのだ。


----

 卒業式の日。教室で見る海斗は、晴れ晴れとした顔をしていた。


 俺は奏良に勇気を出して伝えた。

「奏良、卒業式の後に一緒に来てほしい」

「え?どこに?」

「俺たちは、決着をつけないと。このまま卒業したらきっとダメになる」



 卒業式の後、海斗を屋上に呼び出した。

 俺と奏良が屋上に行くと、海斗は先に来ていてフェンスからグラウンドの方を眺めていた。


「海斗、呼び出してごめん。どうしても決着をつけておきたくて」

「決着?」

 不思議そうに俺たちを見る海斗。まるで、いままで何もなかったかのように。

「俺たち、このまま卒業したらバラバラになる。それじゃあ、ダメなんだ。だから・・・

 海斗、俺たちと仲直りしてくれないか?」


 すると、海斗は微笑んで言った。


「やだなぁ、リクも奏良も。僕は別に喧嘩してるつもりはないよ?僕たち、卒業しても友達に決まってるじゃないか」

 そう言って、にっこりと笑った。

 その言葉・表情を見て、言葉が出なかった。拍子抜けしてしまった。

 

 そうか・・・

 海斗のことを勝手に避けていたのは俺たち。海斗は、それに対して何も思っていなかったかのよう。


 黙っている俺たちに、海斗はもう一度言った。

「卒業しても友達でいようよ。奏良・リク。よろしくね」


 奏良はぽろぽろと涙を流し泣き始めた。俺の頬にも涙が流れた。

 海斗は困ったように頭をかいて、言った。

「ほら、クラスのみんなが一緒に写真を撮ろうって言っていたからそろそろ行かないと。さあ、早く行こうよ」


「そ・・そうだな・・」

 奏良の背を押し、俺は歩き始めた。

「ちゃんと涙を拭いてね」

 背後から海斗の優しい声がかかる。


 俺と奏良は、海斗の方を振り返った。

 俺と奏良を微笑みながら見ている海斗は、俺たちよりもはるかに大人に見えた。


 あぁ・・そうか。

 海斗は、学校という狭い箱庭の世界をとっくに飛び出していたんだ。

 奏良や俺はまだ子供のまま。だけど、海斗は社会という広い世界に出て、いつの間にか大人になっていた。

 大人になった海斗に対して、俺たちは勝手に拗ねていた。ただそれだけ。



 今日は卒業式。

 学校という閉ざされた世界から解き放たれ、これからは社会という広い広い世界の中で生きて行かなくてはならない。


 俺たちは、海斗みたいな大人になれるだろうか?

 それは、わからない。でも、これから俺は奏良と二人で海斗に追いつけるように頑張っていこうと思った。



◇◇◇◇◇

これで、アフターストーリーも完結とさせていただきます。

読んでいただき、誠にありがとうございました。



これからは、下記の作品とかでは、たまにミキちゃんや海斗君も出てくると思います。

よかったら、読んでみてください。



参考作品


『日本ワインに酔いしれて』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897721872

   これを読むと、ミキさんがなぜ草食系をあんなに嫌ったかわかるかも



『瀬戸美月(24)がんばる!! ~日本ワインに酔いしれて スピンオフ』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054934815283

   これを読むと、ミキさんと親友の関係がちょっとわかるかも

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