第5話 もう両手の指では足りない数

「おはよう。三崎、どうした?今日は目の下に隈ができてるぞ。体調悪いんじゃないのか?」

「おはよう、松島。いや大丈夫だから」

窓際の自分の席に座ってると、松島リクがやってきて声をかけてきた。

「ならいいけど、本当に大丈夫か?昨日からおかしいぞ?」

昨日もミキさんと何度も。

おとといからだと、もう両手の指では足りない数している・・・ちょっと寝不足なだけです。


ミキさんは今日は仕事だということで、朝にアパートで別れた。

「じゃ、海斗クンメッセージ頂戴ね。私も送るから」

と言って、別れ際に濃厚な熱いキスをした。


昼休み、幼馴染の山中奏良が教室にやってきた。

今日は雨なので教室でお昼ご飯を食べるのだ。

奏良は、やってくると怪訝な顔をしてクンクンを僕のにおいを嗅いできた。

「な・・・なに?」

「なんか・・化粧のにおいがする」

「き・・気のせいじゃないの?」

女って、勘が鋭いなぁ。

「まぁ、いいわ。ご飯にしましょう」

リクと奏良と3人でお弁当。

「あれ?海斗がサンドイッチじゃなくお弁当って珍しいね」

「今日は、なんとなく作ったんだよ」

嘘・・・

このお弁当は、朝にミキさんが作って持たせてくれたものだ。

パカッ とお弁当のふたを開ける。

バン! すぐに閉じる。


ご飯の上に書かれた大きなハートマーク。

ミキさん・・・なんでこんないたずらを?

リクや奏良に見られなかったか?


ゆっくりとふたを開け、隙間からご飯をかきまぜる。

これで、証拠隠滅できただろう。

ふう・・・

「お、うまそうじゃん」

「海斗、いつからそんなに料理できるようになったの?」

「一人暮らしだから、料理ぐらいできるようになるよ。節約のために自炊だし」

本当は、簡単なものしか作れない。

でも、このお弁当はおかずの種類も豊富で色どりが綺麗。

とっても美味しかった。特に卵焼きが、めちゃくちゃ美味しかった。


お弁当を食べ終えたあと、リクと奏良はおしゃべりをしていたが、僕は自分の席に戻る。

「ほんと大丈夫か?疲れてるみたいだけど」

「ん・・大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから」

リクも奏良も怪訝な顔をしているけど・・・ちょっと眠いんだ・・


授業が終わるとリクがやってきた。

「海斗、一緒に帰ろうぜ」

「いや、今日も先に帰るよ。リクも奏良と二人で遊びに行ってきたら?」

「そうか?気をつけて帰れよ」

教室を出て、階段を降り下駄箱に向かう。


階段のところに、奏良がいた。


「ちょっと・・こっちに来て」

空いている教室にひっぱって行かれた。

「海斗、ちょっと変よ。昨日からどうしたの?」

「いや、なんでもないよ。寝不足かな」

すると、奏良はきながら

「海斗、彼女ができたとか?」

そうだとしても、なぜ睨まれなきゃいけないんだろう。

それに、まだ彼女では・・たぶん、違う。

「それだったら、ちゃんと私に相談してよ」

なんで相談しなきゃいけないんだろう・・・

「そんなんじゃないよ、疲れてるから帰るね」

「あ・・海斗、待ちなさいよ」


僕は逃げるように下駄箱に走っていった。


雨が降っている・・・

僕は傘をさして家まで歩きながら、ぼおっと・・考え事をする。

奏良と僕はどんな関係だ?

奏良はリクと付き合っている。

じゃあ、僕とはただの幼馴染・・・だよな。

ミキさんは?

彼女?・・・多分違う。まだきっと、そんな関係じゃない。

会ったばかりだし。



あぁ・・よくわかんないや。みんな、僕にとって何なんだろう?



ポケットのスマホが震えた。

取り出して画面を見る。

『ミキさん:やっほー、大好きな海斗クン。そろそろ学校終わりかな?私は休憩中だよ。』

底抜けに明るいメッセージ。

どう答えたものか。

『今帰っているところです。お弁当美味しかったです。』

すると、すぐに返事が返ってくる。

『お疲れさまー、おいしかった?ありがとう!』

ありがとうの文字がうれしかった。

『いえ、こちらこそありがとうございます』

だめだ、心が落ち込んでいる。

いたずらっ子のように笑う明るい笑顔。涙を流した時に慰めてくれた真剣な顔。

ミキさんに会いたくなる。今朝別れたばかりなのに。彼女でもないのに。


スマホが振動する。

画面を見る。


『ミキさん:なんか暗いなぁ。そんな海斗クンにはお姉さんが夜ご飯をご馳走しちゃうぞ!20:30に待ち合わせね!』


雨の中、思わず涙が流れた。



◇◇◇◇◇

次話は明るくなる、はず。

きっとミキちゃんが明るくする。

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