第3話 「ふたりだけの秘密があるくらいの顔見知りです」

 週が明けると再び学校生活が始まる。

 午前中は一般教養や冒険者に関する座学を行った後、それぞれが専攻している科目に分かれて授業が行われた。

 昼休憩が明けると仮パーティーで行う授業が開始される。

 とはいえ、本日は仮パーティーで行う初日の授業。期日間近でパーティーを組んだ者も居るだろうと交流を深める時間に当てられた。

 交流の深め方はパーティーそれぞれであり、交流を深める場所もまたそれぞれだ。

 なので俺は、昼食時にも使われるテラスでパーティーを組むことなったメンバーと現在顔を合わせている。


「あたしから自己紹介します!」


 合流してからここに移動するまで、ずっとしゃべりたそうにうずうずしていたアイザワが火蓋を切る。


「名前はアイザワ・アイカ、斥候科所属、魔術資質は壊滅的で全生徒の中で最下位の自信があります!」


 事実なのかもしれないが、自信満々で言うことではない。

 ただ解釈の仕方によっては、本人が魔術資質が壊滅的なことにネガティブではないとも取れる。

 才能がある者ほど自身の力を過信し、引くべきところで引けないこともある。

 それだけに自分を素直に弱者だと言える、決して無理はしないだろうと言えるアイザワはある意味では強者なのかもしれない。


「一応戦闘は銃火器を使って出来るけど、弾が尽きたらそこで終わり。魔術を用いた高速戦闘とかになったら多分ついていけないのでそこんとこよろしく!」


 こいつ心臓強いよね。

 本人としては事実を言っているだけなのかもしれない。

 でも普通はここまで堂々と迷惑掛けますって言えないもん。


「いえ、よろしくお願いします。荷物持ちでも何でもするのであたしのこと見捨てないでください。あと物理的な鍵開けとかは割と得意です」


 急に卑屈というか下手になりやがった。

 テンションの上げ下げ激し過ぎだろ。情緒不安定か。

 何が出来て何が出来ないのかは十分に分かったけど。


「何か質問ある人? 一応バストサイズとか初恋の相手とかは言える」


 前者は男なら聞いておいて損ではない情報かもしれないし、後者はアイザワに気がある奴に限って言えば重要な情報になりえるかもしれない。

 でもまず俺達は、プライベートなことよりも冒険者としての理解を深めなければならないわけで。

 そういう意味ではアイザワのバストサイズや初恋の相手を聞かされても意味ないんだよな。


「え、何もない感じ? 本当に何もないの? クロサキくんはあたしのバストサイズとか気になったりしないわけ!?」

「そこで名指ししないで欲しいんだが」

「なら何か聞いてよ! 誰にも興味持たれてないみたいで悲しいじゃん!」


 悲しいって……こいつ、もしかして構ってちゃんなの?

 今の勢いで構って構ってってされるとさすがにウザいと思いそうなんだけど。

 つうか、何で同性よりも異性である俺に質問させようとするのかな。

 普通は同性相手の方が気軽に話せるものじゃないの?

 俺が男として見られていないだけ?

 それとも……残りの2人が才能溢れる白服さんだから怖気づいてるとか?

 うーん、全部ありえそう。


「じゃあ……アイザワって何で魔術資質が壊滅的なのにこの学校に入れてるんだ?」

「いきなりそんな人の核心に触れそうなところ聞きますかね!」


 聞けって言ったのそっちじゃん。

 この女、めんどくせー。


「あ、今絶対あたしのこと面倒臭いって思ったでしょ!」

「思った」

「そこは嘘でも否定しよ! 素直に言うだけが正解じゃないから。打ち解けるためにあえてやってくれてると考えれば許容できなくもないけど。それでも少し傷つく!」


 本当に傷ついてる奴はそんなリアクションはしないと思うんですが。

 こいつ、友達ちゃんと居るのかな? ハブられたりしてないのかな?

 もしかして……斥候科ってこういう奴の集まりだったり?

 こいつも本当はこんな奴じゃなかったのかもしれないけど、今日までの生活で違う自分になってしまったとか?

 どれかしら当てはまっているのだとしたら少しばかり同情する。


「ねぇねぇ、何で急に憐みの視線を向けるの?」

「アイザワを見てると色々と考えられて……例えばボッチだったりするのかな? とか」

「そこで何で例えを言うし!?」

「具体的に言わないと分からないと思って」

「ナチュラルにバカ扱いですか! あぁそうですか、ならこっちにも考えがありますよ。黒服のよしみで次の自己紹介はクロサキくんにさせてあげようと思ってたけど。そんなこと言う君は最後ッ!」


 何か罰ゲームみたいに言ってるけど、別に罰ゲームにならないんだよな。

 次しようが最後にしようがやることは自己紹介だし。笑わせたりする理由もないんだから気楽なもんよ。アイザワが無茶ブリしてきても無視すればいいだけだし。


「なので次は……えっと……」


 同性とはいえ関わりのなかった相手。

 それも自分とは違って才能溢れる白服を纏っている。

 それ故に自分が仕切るとか恐れ多いな、とか思っているのかミズノとセラの顔を交互に見るアイザワ。

 さてさて、彼女はいったいどちらの白服を選ぶのでしょうか。

 ねぇねぇ、何でこっちを見ているのかな?

 俺を最後にすると言ったのはそっちでしょ。俺に助けてみたいな視線を向けるんじゃありません。


「その……それじゃあ…………そちらの方で」


 そちらの方というのはミズノのことである。

 一応セラに行きそうな雰囲気もあったが、セラと視線が重なった瞬間には彼女の格上オーラに圧倒されてしまったのか、最後はもうアイザワの視線はミズノに一直線だった。

 まあどちらでもいいと言えばいいのだろう。

 でも……今みたいなテンションで他人行儀な言い方をされると、ネガティブな思考の持ち主だったらあれこれ考えちゃうかもしれない。

 これって俺の考え過ぎかな?


「ボクですか……分かりました」


 うーん……アイザワの発言をマイナスに受け取ったかはよく分からん。

 前髪で表情全体を確認できるわけでもないし。気が弱いからって人の発言を嫌な方向ばかりに考える人間ばかりでもないだろうし。

 そもそも、俺はミズノという人間がどういう人間なのかまだ分かっていない。

 故に今の状況ではどんなに考えても答えは出るはずがない。なら考えるだけ無駄だ。

 ただし、会話の隙間時間を埋められたと考えれば無駄ではない。

 なんてことばかり考えていないで目の前のことに集中したいと思います。多分このメンツの中で最も慎重かつ礼節を弁えて接しないといけない相手だろうし。


「名前はミズノ・ソラです。魔砲科に所属していて……得意な属性は水……というか、水以外の属性はダメダメです。ごめんなさい」

「えっと、ミズノさん? だよね。その別に謝る必要は」

「バストサイズとかも言えません。ごめんなさい」

「そこは教えて欲しかった!」


 アイザワ、何でお前が食いついてんの?

 何で男の俺よりも必死にミズノのバストサイズを気にしてるの?

 お前っておっぱい星人なの? おっぱいに可能性や夢を見る研究家か何かなの?

 お前のその欲望への素直さというかバカさ加減はある意味嫌いじゃないけど。

 もう少し距離感を考えて話そう。

 ミズノ少し怯えてるようにも見えるから。そういう話は時と場所を選ぼうな。打ち解けてからにしような。


「ねぇミズノさん、ここでダメならあとでこっそりと教えて」

「えっと……」

「大丈夫、ちゃんとあたしのも教えるから。ミズノさんだけに恥ずかしい思いとかさせないか……ちょっ!?」


 急にアイザワが驚愕の声を上げたのか。

 それは俺がミズノに迫ろうとするアイザワの首根っこを掴んだからだ。


「クロサキくん、何故あたしの首根っこを掴むし」

「どこぞの変態がこれからパーティーを組む相手に初対面にも関わらず、躊躇なしににじり寄ろうとしていたからですが」

「あたしのどこが変態だって言うのさ。おっぱいの大きさを教えて欲しいって言っただけじゃん。他の子のおっぱいの大きさ気になるじゃん!」


 大して親しくもない間柄で、それも自分の部屋でもない場所でおっぱいって連呼する奴は普通に変態だと思います。

 あとお願いだから「クロサキくんも気になるでしょ!」みたいな目でこっちを見ないで。

 確かに俺も男だから気になりますよ。気にすることはありますよ。

 でも時と場所は選んどるんよ。お前みたいに面と向かっておっぱいの大きさを教えて欲しいとか言わないんよ。


「どうしてその言い分が通用すると思っているのか分からないが、少なからずミズノはお前ほどバカ……バカな言動をする奴じゃない。だから気になるにしても聞くのは交流を深めてからにするべきだ」

「そうだよね……うん、あたし興奮のあまり自分を見失ってた。でもこれだけは言わせて。何でバカって言った後、言い直すこともせずまたバカって言ったのかな? そこだけは君に謝罪を要求したいんだけど!」

「お前のバカさ加減が直ったらな」

「その言い方からして直るとか思ってないでしょ! というか、バカって決めつけてるでしょ。そもそもあたしバカじゃないから。学校の成績は悪いけど、そこまでバカじゃないから!」


 俺が言っているバカってのは学校の成績とか地頭の良さとかじゃなくてですね。

 あなたのその必要以上に動く身振り手振りの部分、とか。

 異性に対して平然とバストサイズを答えられるって言っちゃうところ、とか。

 同性のお胸のサイズを男よりも気になる、って堂々と口にすることを言っているんです。


「分かった。お前がバカかバカじゃないかに関しては、今後のお前の行動で判断することにしよう。だから今は自己紹介を進めよう。な?」

「全然分かられた気にならないんだけど。面倒臭いから話題を逸らされているようにも思えるんだけど」


 そんなことはないよ。

 だって本当に面倒臭いと思っているならお前の相手とかしないもん。

 俺は心の底からパーティー交流を進めようと思ってます。


「まあ……クロサキくんとだけ駄弁ってても意味ないし。今回はそっちの提案に乗ってあげる」


 それがいい。

 いやはやアイザワさんが意外と大人で良かった。

 ナガレ先生とかが見回りに来て話の内容を聞かれようものなら何をやってるんだって小言を言われそうだし。


「クロサキくんは最後にしたからミズノさんの次は……」


 俺達の世代においてトップレベルの魔術資質をお持ちのセラさんですね。

 ……いやこっち見んなよ。こっちを見ても現実は変わらないから。 

 え、あたしがセラフィリアム・グランツ様に話を振らないといけないのかって?

 そうだよ。お前が仕切ってこういう流れになったんだから。

 俺はお前と同じ黒服だから話しかけやすいのかもしれない。けどセラとも今後同じパーティーとしてやっていくんだから覚悟決めて話しかけろ。粗相をしなければ厳しい返しとか来ないから……多分。

 なんて考えていたらアイザワに気を遣ったのか、さっさと自分の番を終わらせようと考えたのか、セラフィリアム・グランツ様が立ち上がった。


「それでは……請謁ながら自己紹介させていただきます。私はセラフィリアム・グランツ、守護科所属、以後お見知りおきを」


 スカートを摘まみながら優雅かつお淑やかな挨拶。

 その立ち振る舞いとセラ自身の美貌も相まって、まるで大企業のご令嬢またはお姫様だ。実際はそのへんを超越した天使という存在なのだが。

 まあそれは置いておくとして。

 アイザワ……いやアイザワとミズノは、セラの圧倒的美女オーラに骨抜きにされたのか見惚れた顔をしている。

 ちなみにさらっと出てきた守護科という単語だが、簡単に言えば攻撃系よりも防御や回復、補助系統の魔術を中心に学ぶコースのことだ。


「……これだけでは味気ないですね。何か追加で伝えておくべき情報……得意な魔術でしょうか。ですが私は大抵の魔術が使える。ならかえって伝えない方が混乱を招かないのでは?」


 どう思います?

 みたいに視線で訴えかけるな。それ以上にさらりとマウントを取るんじゃない。

 セラフィリアム・グランツという存在が、誰よりもあらゆる魔術に精通していることは周知の事実ですよ。

 お前のことを他よりも知っている俺やお前に憧れの念を抱いていそうなアイザワは、その発言に反感を覚えたりはしない。白服のミズノも性格的に張り合ったりはしないだろう。

 だから俺達の間では、今の発言でいざこざは起きないでしょう。

 でもね、多分才能溢れる白服の中にはあなたのことを一方的にライバル視している人も居ると思うんです。気に食わない存在だって敵視している人が居てもおかしくないと思うんです。

 だからさ、そういう発言は控えような。お前の性格的に無意識で言ってるわけじゃないだろ。ならやればできる。

 最後に……お前の訴えに反応するつもりはないから。すぐ周囲がちょっかいを出しそうな言動をするのはやめろ。


「……私からあれこれと言うより質問があれば、それに答える方が賢明ですね。質問がある方はいらっしゃいますか?」

「はいッ!」


 うるさい。

 元気が良いのは認める。だけど素直に言って非常にうるさい。

 何でアイザワさんは距離感を考えない声を出しちゃうかな。もう少し黙って……セラさんに見惚れてくれても良かったのに。


「あたしから質問してもよろしいでしょうか? セラフィリアム・グランツ様」

「どうぞ……ただその前に一言だけ。私のことはセラとお呼びください。様も要りません」

「え、いや、でも……あたしみたいな落ちこぼれが呼ぶのは」


 ハードルが高い。

 そんな風に続けられそうな雰囲気だったが、その前にセラが口を挟む。


「アイザワさん」

「は、はい!?」

「あなたが私との魔術資質の優劣を気にするのは勝手ですし、それであれこれと考えてしまうのも自由です。ですが……」


 一呼吸置いたセラは、少しアイザワの方へ歩み寄り……


「これは私からあなたに望んでいること、あなたにお願いしていること。何より私とあなたは今後同じパーティーとして共に活動していく仲間ではありませんか。仲間同士が親しく呼び合う、そこに何の問題がありましょう」


 まさしく天使の微笑み。

 いやまあ、真実を知る俺からすれば比喩とかではなく事実なんだけど。

 それを知らないアイザワからすれば、セラ様の優しい笑顔なんて破壊力抜群ですよ。

 天使……まるで天使が目の前に居る。とでも言いたげな顔をしていますよ。

 だから多分アイザワさん、今日家に帰ったらこのこと思い出してひとりニヤニヤするんじゃないかな。ベッドの上でバタバタとかしちゃうんじゃないかな。


「私のことセラと呼んでくださいますね?」

「は……はい」

「ありがとうございます。では質問をどうぞ」

「あ、えっと、その、ちょっと待ってくださいね!」


 どうやらアイザワさん、セラの笑顔で質問しようとしていたことが吹き飛んでしまったらしい。

 そんで落ち着くためか知らないけど、むっちゃこっちを見てくる。

 俺はあなたの精神安定剤じゃないんですけど。俺を見るより俯いて自分の殻に籠った方が安心すると思うんですけど。


「えーと、あの、そのですね」

「はい」

「答えたくないのなら答えなくていいんですが……セラさんはクロサキくんとどういう関係なんでしゅか!」


 噛んだな。

 思いっきり噛んだな。口元に手を運んでいるから舌まで噛んだのかもしれない。


「と言われていますが?」


 どうします?

 って目をこちらに向けるのはやめてもらっていいですか。そういうことするからこういう質問が出るんでしょ。


「グランツさんへの質問なんだからグランツさんが答えるべきでは?」

「グランツさん、だなんて他人行儀ですねクロト」

「クロト? クロトッ!?」


 それってクロサキくんの下の名前じゃん!

 と言いたげなアイザワさん。そうですクロトは俺の名前です。

 いやはや、本当この天使様はさらっと人の嫌がることしてくるよね。


「いつもみたいにセラと呼べばいいじゃないですか。あ、お前でも良いですよ」

「セラ!? お前!?」


 はいそこ、いちいち良い反応しない。

 セラって呼び方に関しては、あなたもそう呼べって言われたばかりでしょ。

 お前って呼び方に関しては、ただの二人称なので気にしない。


「やややややっぱりふたりはそ、そういう関係だったりしちゃったりするんですか? するんでしょうか!」


 全力でハァハァすんな。

 女子にこういうことは言いたくはないが、率直言って気持ち悪いぞ。


「そうですね……クロト、私とあなたの関係はどういう関係なんでしょう?」


 だから何で俺に振るの?

 何でそんなに楽しそうな顔で俺にアイザワの問いかけを投げつけてくるの?

 お前って本当に俺のこと困らせるの好きだよね。天使の皮を被った悪魔だよね。俺の観察とかほっぽりだして天界に帰れよ。


「ちょっとトイレ」

「させるか! 尿意も便意もないくせにトイレとか絶対に行かせん!」


 俺本人でもないのに尿意や便意がないとか断定すんなよ。

 それ以上に女の子が平然とそういうこと言っちゃうのどうなの。


「放してください」

「断る!」

「一般的に当たってはいけない部分が思いっきり押し付けられているんですが?」

「あたしのおっぱい程度でこの話が聞けるのなら安い」


 こっちが濁したのにさ、何でこの子ははっきり言っちゃうかねぇ。

 おかげでミズノの顔が赤くなったじゃん。

 俺とセラとの関係であれこれ考えて赤くなっていた顔が、別の理由でさらに赤くなったじゃん。

 だからアイザワ、自分の身体を安売りするような発言はやめよう。

 俺もお前も、そして周囲の人間も誰も幸せにならん。


「というか、この話を聞かない限りあたしは今日眠れない。この時間を終わらせることができない」

「そっちが眠れなくても俺は困らないし、この時間の目的は俺の自己紹介が完了すれば達成される。それで終わり」

「いや終わらないから! 絶対に終わらせないから。終わったとしても放課後を使って全力で聞き出すから。というか、君の名前とか所属とかだけの自己紹介なんて聞かなくていいし。この話を絶対に最後まで聞き出すし!」


 深掘りして欲しくない話にその熱意はどうかと思うんですが!

 気になるのは分かるよ、分かりますよ。

 でも俺が聞いて欲しくないなって顔をしているのはそっちも分かるよね。

 人が嫌がることをしたらダメって教わってないの? 教わってるよね?

 というか、ホールドしている腕をグイグイ引っ張りながら顔を近づけてくるのやめて。

 あなたと俺の唇が触れる事故が起こりそうで怖いから。今も懸命に事故が起こらないように抗っているから。


「聞き出すも何もここに入る前からの顔見知りってだけだ」


 明確に絡み出したのなんてナガレ先生にパーティーを組めと言われてからだし。

 それなのにアイザワさんは納得していないご様子。


「顔見知りって……その程度の関係で親しい呼び方しますかね」

「気軽にセラと呼べってあなたも今しがた言われたと思うんですが」

「それはまあ……でもセラさん、クロサキくんのことだけは下の名前で呼んでるじゃん」

「それはここに入る前から知り合いなんだから多少の違いは出るだろ。ただ交流した時間なんて本当に微々たるもの。だからセラとの関係は顔見知りって言葉が的確なんだ」


 マジでこれ以上に的確な表現ないもん。

 これにはさすがのセラさんも同意するはず。

 ちょっとセラさん、あなたからも何か言ってくれませんか?

 あ、でも必要なのは肯定だけなんで。事態を悪化させるようなことは言わないようにお願いします。


「まあそうですね。交流した時間だけで見れば顔見知りという言葉が的確です」


 セラの同意にアイザワさんのホールド力が少し弱まる。

 どうやらセラの発言には文句は言えないらしい。同じ黒服で同じクラスなんだから俺の言葉もそれくらい信じてくれればいいのに。

 なんて安心感を覚えたそのとき――


「ただ……より正確に表現するなら」


 意地悪めいた視線が真っ直ぐにこちらを射抜く。


「ふたりだけの秘密があるくらいの顔見知りです」


 意味深にしか取れない声と顔。

 直後、弱まっていたアイザワさんのホールド力も復活。それどころかさっきまでより興奮しているようで、一段階上のパワーになりました。

 もしもアイザワさんにそこそこなお胸がなかったらマジでただの拷問だったね。

 今でも拷問と言えば拷問って言えるけど。


「そそそそれは世間一般的に顔見知りとは言わないと思います! ね!」


 おい、そこでミズノに振ってやるなよ……むっちゃコクコク頷いてる。

 ミズノ、お前という奴は会話には参加しないくせに話は聞きたいというのか。顔を真っ赤にしながらも俺とセラの関係を掘り下げたいというのか。

 このミズノという女……案外むっつりさんなのかもしれない。むっつりスケベなのかもしれない。


「クロサキくん、本当はどういう関係なの? 答えて!」

「答えて……ください」


 ついにミズノまで加わったんだけど。

 何で俺が追及されるの?

 これって俺だけじゃなく、そこで澄ました顔をしているクソ天使さんも関わってる話だよね?

 なのにどうしてクソ天使さんは、女子ふたりに圧を掛けられる俺を他人事のように見ていられるんですか。それって不公平じゃないですか!

 と思うのと同時にこのパーティーのヒエラルキーが分かる俺であった。



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