第6話 耳掃除をしてもらいました。

休日明けの学校は憂鬱な気分で登校するのが毎度のお決まりだ。


そもそも2日程度の休日で気が休まるはずもなく日曜には地味子との散歩もあり、今週は中々落ち着かない日々を過ごす羽目になった。


守のやかましい挨拶に迎えられ、淡々と授業をこなしていけばもう昼休み。

特に体力も使わず空腹でもないので昼休みは中庭のベンチでのんびり昼寝でもしようか。


そう考えていた矢先に”あいつ”は来た。


「明君、ちょっといいですか?」


「なんだよ・・・別にいいけど」


会う度にドキドキさせられ、こっちの身にもなってくれよと心中毒気づくにはいられない女、地味子こと卯月千歳のお出ましだ。


「よかったらお昼休み、中庭のベンチへ行きませんか?やってみたいことがあるんです。あ、もちろんお弁当は用意してますよ?」


俺が向かおうとしていた所を先手を読むかのように誘導してくる手際もさながら、お弁当も持参してくるという用意周到さ。


こいつは将来会社の頼れるリーダーになれるのではないかと薄々感じている。



「はあ、わかったよ。じゃあいくか」


「はい♪」


逃げ道を塞がれ贅沢美味の(愛妻)弁当も持参されては天下の草刈正雄とて及ぶところではないだろう。


何だか嫌な予感を感じつつも俺はしげしげと付いて行くことにした。



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「どうですか?私のお弁当」


「美味しい・・・」


「良かったです!朝早起きして作ってきた甲斐がありました♪」



やはりこいつの作る弁当は美味でしかない。

日本人に合った素朴かつ程よい塩加減の味付けに目を引くような盛り付け、唐揚げやハンバーグなど男の好みを掴んだセンスの良さに健康面を考えてか、野菜を仕込む部分も忘れない。


なんだろう、俺ってもうとっくに堕とされているのではないだろうか。



「さて、お昼ご飯も済んだことですし、明君、私の太ももに頭をのせてくれませんか?」


「は?頭?太ももに?」


「はい、太ももに、です♪」



こいつは自分の言っていることが分かっているのか。

自らの太ももに男の薄汚い頭をのせるだと?

ただなあ、女子の太もも。相手は超美人。プラス女子の太もも。


う~ん。

よし、のせよう(負けた)。


「はい、どうぞ?」

パンパンと張りの良い音が太ももから出されている。女性の太ももなんて小さい頃母親の弛んだそれに頭を預けた以来だが、一体若者の太ももとはどういった感触なのだろう。


疑念が期待に負けるのは容易いもので、俺はそろりそろりと地味子の太ももに頭を近づけていった。


太ももまでまだ距離があるのにも関わらず地味子からは柑橘系の良い匂いが漂ってきている。

男心をくすぐる女性特有の匂い。

やがて頭と太ももの距離が近づくにつれ、早くも瑞々しさのような物が感じられる。

まだ肌と肌が触れ合っていないのにも関わらずだ。

全く、JK恐るべし。


そしてとうとう俺の頭は地味子の太ももに到達してしまった。

いや、着陸したという表現が正しいのかもしれない。

アポロ11号が月面に着陸する際、僅かに機体と地面の間でクッションのような反発が起こっていたが、今まさに地味子の太もも上ではその壮大な一部始終が繰り広げられているのだ。


ガガーリン曰く、「地球は青かった」なんてことはなく眼前には地味子のじみ~な顔が映るのみ。

端の方から陽が差し込み、地味子を何とも良い女に仕立て上げている。

もしやこの光景すら計算の上なのではないかと勘ぐってしまうのが俺の悪い所だ。

だがこいつならありえる。もはや計算外の事象すらすべて計算の上だ(困惑)。


「ちなみになんだが・・・お前のやりたいことって何だ?」


「よく聞いてくれました!今日私がやりたいことは・・・・これです!」


そういってどこからともなく取り出してきたものは・・・・そう、耳かきだ。


「今日は明君の耳掃除をしたいと思います!」



なんと、耳掃除とは。

布団に寝そべりながら雑に耳穴をかっぽじるのが耳掃除と認識している俺にとって女子から、しかも超がつくほどの美人(今は超地味)から耳掃除を提案されるなんて。

今日をもって俺の人生が終了したとして未練はあまりないかもしれない。


「耳掃除・・・!!優しくしてくれよ・・・」


「はい♪」



顔を横に向けながらつくづく思う。こいつといると興奮が収まらない。

地味子が今どんな顔をしているのかは分からないが、耳かきが耳のすぐ上まで近づいているのはよくわかる。

あと2秒もすれば俺の耳穴にこいつの細長い棒がおぉ~っと!!??


くすぐったい!!??

いや、気持ちいい~


思わずため息が出てしまうが今更恥と外聞なんか捨てたも同然だ。

ただただこいつの魅惑的な耳かき術に身を任せるのみ。

やがて行き着く先はかのピートドハーティも夢見た桃源郷。

リバティーの名のもとに今日も俺は地味子にアナキズムを踏みにじられているのだ。



「どうですか?お耳、気持ちいですか?」


「あぁ・・・これはやばいかもしれない」


「ふふ、明君顔が蕩けてますよ?」


「うるしぇぃわい・・・てか見るんじゃない」


右へ左へ縦横無尽に掘り進む耳かきを視線の端にとらえながら、俺は遠く山の向こうへと飛び立つ鳩を見届けていた。

あいつの純真無垢な雄姿に伝えたい、思いよ届け(アへ顔)。



「はい、終わりました。結構ありましたね!」


「・・・ったく、人の耳くそ事情に首を突っ込むんじゃああああああ!!!??」


吹いた!!今風が!!俺の耳穴に!!


「お前、何人の耳穴に息吹きかけてるんじゃああああ!!!」


「ふふ、サービスです♪」


「サービスって・・・まあ確かにちょっと気持ちよかったけども」


実際はすごく気持ちがよい。背筋がゾクっとするあの感じ。

出来ればもう一息二息お願いしたいところだ。


「さあ、もうすぐお昼休みも終わりますし、早く教室に戻りましょう!」


「はいよ、・・・ったく、俺の身にもなってくれ」



好きかどうかは分からない。

ただこの短期間で俺はますます地味子に惹かれているのも事実。

果たしてこの先どういう道に進んでいくのか、どんな結果が待っているのか。

考えてみると怖いもので、俺は蓋をするようにその想いを胸の奥底へ沈めた。


いつかこの想いを取り出す日は来るのかな。


そして俺の耳穴から取り出した耳くそを地味子はどこに仕舞っているのかな。










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あとがき


こんにちは!

久しぶりの更新であります。長らくお待たせいたしました。

ただいま仕事がひと段落着いたのでぼちぼち続きを書いている次第であります。


中々自分の思うようにはいかないもので、仕事は辛い、やる事も多い。

パンク寸前の3歩手前くらいのような状況なのですが今後も暇を見つけては書いていきますので、どうかよろしくお願い致します。

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