第4話 地味なクラスメイトとお勉強をしました。
卯月とお昼を一緒に食べるようになってから一週間が経った。
相変わらず卯月の作る弁当は美味しい。
毎朝早起きして作っているらしいので無理してないのかと聞いてみたのだが
「大丈夫です。これが生き甲斐ですから」
と返されてはこちらとしてもどうも言えず、卯月の好意に甘えている。
今日も屋上にて弁当を食べている。
「二人ともお熱いねえ!!」なんて守に茶化され少々腹立たしい部分もあるが、何だかんだ満足している自分もいる。
入学する前はまさかこんなことになろうとは思いもしなかった。
卯月に告白され、毎日弁当を作ってくれて。
だが俺は疑問に思っている。というか、卯月の好意を拒否しているというか。
あいつの俺への思いは何となく本物であると分かってはいる。
だけどやはり中学時代のことがあってか、素直に受け取ることはできない。
心のどこかで思ってしまうのだ。
こいつも美紅と同じではないか、こいつもいずれ俺から離れていくのではないか。
卯月と過ごせば過ごすほどそう感じざるを得ない。
幸いなことに、あいつは引き際を分かっているようだ。
まるで疑問に思っている俺を配慮するように。肝心なところまでは踏み込んでこない。
やはりこいつは俺の過去を知っているのではないか。だとしたらどうやって俺の過去を知りえたのか。
時が進めば進むほど疑問は募るばかりだ。
「明君、今週の土曜日空いてますか?」
「特に予定はないけど・・・・何で?」
「もしよかったら・・・勉強を教えてくれませんか?数学がちょっと不安なんです」
数学か・・・。
確かにやや分かりにくい部分はあるが今のところ難しいほどでもない気がする。
それに卯月は勉強が出来そうな気がするんだけどなあ。
「別にいいけど。そこまで難しいか?いまやってるとこ」
「すごく難しいわけではないんですけど、明君と一緒に勉強したらはかどる気がするんです・・・」
なんだよその上目遣いは。
前から思ってたけどこいつは女の武器を最大限利用している気がする。
見た目のおかげでころっと堕ちるようなことはないが、これが美紅だったら・・・・
くそっまただ。
あいつなんてどうでもいい。
「わかったよ。じゃあ駅前の図書館でやろうか」
「はい!とても楽しみです♪当日は気合を入れてお弁当を作ってきますね!」
ただでさえ凝った弁当なのにこれ以上気合を入れたらとんでもないものが出来そうな気がする。
俺は卯月の献身ぶりに苦笑せざるをえなかった。
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土曜日。やや雲が多いが所々日差しが照りつけている。
やっぱり晴れの日はいいな。気分が高揚してくるのがわかる。
待ち合わせは午前10時を予定していたのだが20分早く着いてしまった。
特に何もすることがないので駅前のベンチに座りスマホをいじっている。
本当にここら辺は何もないな。強いて言えばこじんまりとしたゲームセンター。
放課後たまに守と遊びに行くがあまり人の入りはよくない。
大丈夫なのかと少し心配になる。
「お待たせしました!」
この声は・・・早くないか?
まだ待ち合わせまで15分もあるぞ。
「おい、お前少し早すぎ・・・・・」
え・・・・・・
「お前・・・・卯月・・・だよな?」
「ふふ、そうですよ。あなたの恋人の卯月千歳です♪」
そこに立っていても普段教室の片隅で本を読んでいる地味で冴えない女の子・・・ではなく。
純白のワンピースに身を包んだ、天使のような女の子。
艶やかな黒髪にぱっちりした瞳、色っぽい唇にモデルのようなスタイル。
こいつ、本当に卯月なのか。
「どうしたんですか?そんなに私に見惚れちゃって。とうとう私のことを好きなってくれましたか?」
「いや・・・なんていうか、普段と違うから」
俺は必死に本心を隠す。
今も喉まで出かかっている。
可愛い。綺麗だ。君の虜になった。今すぐ抱きしめたい。
でも本心を言ってしまえば、俺は卯月を認めたことになってしまう。
今は無理なんだ。
やっぱり・・・・怖いから。
「頑張っておしゃれした甲斐がありました。ここで立っているのもなんですし、図書館に行きましょう!」
卯月は俺の手を引っ張り「早く早く!」と連れていく。
さながら映画のワンシーンのような、可憐で魅惑的な光景。
何も考えられない。何も答えられない。
ただただ彼女の美しい笑顔に見惚れていた。
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図書館に着くと俺たちは空いている席に座りさっそく教科書を広げた。
休日とあってか、席はかなり埋まっている。あと一時間来るのが遅かったら座れていなかったかもしれないな。
「で、どこがわからないんだ?」
「ここなんです。自分だけではどうしても解けなくて・・・・」
卯月が質問し、俺が答える。
しばらくの間はこうして教えていたのだが、俺は先ほどから気になっている点を指摘する。
「あのさ・・・なんか距離近くない?」
「そんなことないです。適切ですよ」
「いや・・・どう考えても近すぎるというか・・・」
お互いの肩がぶつかる距離まで近づいているし、何より卯月からとてつもなく良い匂いがして平常心ではいられない。
美紅といた時も思ってたが、なぜ女の子はこうも良い匂いがするのだろうか。
だめだ・・・このままでは・・・俺のリビドーが・・・
「・・・少し休憩しないか?外にテラスがあるからさ、そこでコーヒーでも飲もう」
「そうですね。明君も教えっぱなしで疲れているでしょうし、少し休みましょう」
そうして俺たちはテラスに移動し、ようやくこいつと適切な距離でいられると思ったのだが、現実はそう甘くないらしい。
「おい・・・」
「何ですか?」
「もうちょっと離れてくれ・・・その・・・暑いから」
何でこいつはここまで俺に引っ付いてくるんだ。
卯月の温かみを感じて顔が熱くなっているのは確かだがこのままでは俺の心が持たない!!
「ふふ・・・そうですね。今日はここまでにしときましょう♪」
何やら不穏な言葉を残しつつ卯月は向かい側の席へ腰を下ろす。
やっと解放された。だけど胸の高鳴りはまだ止まないようだ。
こんなにドキドキしたのはいつ以来だろう。
それにしても・・・・
「なあ、一つ聞いていいか?」
「はい、何でしょうか?」
「お前、そんなにその・・・容姿が整ってるなら・・・何で学校ではあんな芋臭いんだ?」
とてもじゃないが可愛いとは言えない。
言った瞬間に怒涛のいじりが始まるのではないかと考えると不用意な発言は出来ないな。
「あの見た目の方が過ごしやすいんです。周囲の目も気になりませんし。それに・・・」
「それに?」
「明君には、一番綺麗だと思える私を見てほしいんです♪」
真剣な眼差しで俺を見つめる卯月。その瞳からは微かに魅惑的な雰囲気も感じられ、俺の心を鷲掴みされそうになる。
女の子の目力っていつになっても慣れないな。
こんなこと続けられたら俺の理性がもたねえよ。
「明君、今ドキッとしました?」
「・・・・してねえよ」
「本当ですか?」
「・・・・ちょっとな」
ついつい本音を言ってしまう。いや、本音を言わされているといった方が正しいか。
こいつの前では何も隠し事が出来ない。俺ってこんなにチョロかったのか。
「ふふっ、素直な明君も大好きです」
「言ってろ」
初夏が近づき、自然と体温も高くなる。今顔が熱いのはそのせいだと、必死に自分の中で言い訳をする。
じゃないと答えなんてすぐ出てしまうから。
今はまだそんな心境に陥りたくない。
過去に引きずられ、前を向こうと決意してもついつい揺らいでしまうような今は。
「そろそろやるか。行こうぜ、卯月」
「はい、もっとイチャイチャを楽しみましょうね!」
強引なまでに俺を翻弄するこいつにどうすれば平常心でいられるか、今はまだ何も思い浮かばなかった。
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