第3話 お弁当を作ってきてくれました。
「あれ?明と卯月さんって知り合いなのか?」
いやいやそんな訳ない。高校に入学してから話したこともないし向こうだって何の面識もないはずだ。
それなのになぜお昼に・・・・
いや、もしや・・・・
「もう、明君、昨日のライン見てないんですか?お弁当を作ってくるって言ったじゃないですか!あ、でも今日はちゃんとお弁当を用意してないみたいですね。よかったです♪」
お前が「あなたの恋人♡」かあああああああああ!!!!!
「おい卯月さん、君は何で俺のラインアカウントを知ってるんだ?」
「んふふ、それはぁ~ひ・み・つ、ですよ♡」
うぜえええぇ・・・・
可愛くもない子から言われるひみつってこんなに腹立つものなんだな。
「おいおい明、お前もしかして女子にお弁当作ってもらったのか!?やるなぁ~さすがは俺の親友だ!じゃあ今日は部活の奴らと食ってくるわ!!」
おい待て守、今お前に離れられたら確実に気まずいことになる・・・・って教室出ていくの早いな!?
「明君のために精一杯作ってきたんです。だから・・・一緒に食べてくれませんか?」
くぅっ・・・地味子のくせに・・・上目遣いは反則だろ。
「はぁ・・・分かった。じゃあ屋上で食べるか?」
「はい!行きましょう!」
それにしても何でこんなに嬉しそうなんだ?今まで話したことなんてないし、実は幼い頃に会ってましたなんて事も恐らくない。
色々とこいつには聞いておかなければいけないことがあるな・・・先が思いやられる。
___________________________________
晴天。ここしばらくどんよりした天気が続いていたから今日は絶好の外出日和だ。
これほど良い天気の下屋上で食べるお昼はさぞかし良いものなんだろう。
・・・・この状況を除けば。
「はい、明君。あ~ん」
「・・・・・」
「明君?お腹すいてないんですか?次の授業は体育なので今のうちに食べておかないと。はい、あ~ん」
「・・・・・」
普通に食べさせてくればいいものを、なぜあ~んしなければいけないのだ。
「明君・・・私のお弁当、美味しそうに見えませんか?今日のために丹精込めて作ったんですけど・・・シクシク・・・」
おい・・・そんな表情するなよ。俺が悪者みたいじゃねえか。
はっきり言って卯月の作ってきた弁当は彩り豊かでとても美味しそうだ。唐揚げ、ポテトサラダ、その他にも俺の好物がたくさん入っている。
・・・・気のせいだろうか、こうも好物がたくさん入っているとなんだか・・・いや、気にしたら負けだ。
「いや・・・美味しそうだよ、ただなぁ・・・出来れば普通に食べさせてくれ」
「ふふ・・・分かりました。今回は私のお弁当を食べてくれるだけでも我慢しなきゃ、ですね」
巾着袋からもう一膳箸を取り出し俺に渡す。
あるんだったら最初から渡してほしかった。
うじうじしてても昼休みの時間が削られていくだけなので一番美味しそうな唐揚げを食べてみる。
小麦色に包まれた衣はちょうどよい揚げ具合を表している。
やべぇ、気づいたら涎が。
「どう・・・ですか?」
・・・・旨すぎる。
今まで食べてきたどの唐揚げよりも旨い。
パリパリの表面を突き抜ければ揚げたてと勘違いしそうなほどジューシーな肉が待っている。
しかも俺の好きな濃い味付けだ。
何でこんなに俺好みなのか・・・
そこまで調べつくされてる・・・・?
「・・・旨いよ。」
「わぁ!よかったです!早起きして作った甲斐がありました!他のおかずも自信作なのでどんどん食べてくださいね!」
それから俺は自分でも引くくらいの勢いで弁当を食べていく。
そんなにお腹空いてなかったんだけどなぁ・・・これが手作り弁当の力か。
「はぁ、ご馳走様」
「はい♪お粗末様でした。お味噌汁を用意してあるのでどうぞ飲んでください♪」
くそ、何でこんなに用意がいいんだ。こんなことされたらあっさり堕ちてしまうではないか。
俺はそんなチョロインになったつもりはないぞ。てか味噌汁もめちゃくちゃうめえ・・・。
「・・・なあ、何で俺なんかのために弁当を作ってきてくれたんだ?」
「そんなの決まってます。明君が好きだからです♪」
「・・・・・はい?」
「だ~か~ら~、明君が好きなんです♪何度も言わせないでください・・・」
頬に両手を添えもじもじしている卯月を見ながら俺は呆然とする。
何だと・・・・・
今さらっと告白されたよな?
卯月が俺を好き・・・?
俺こいつに何かしたのか?今まで接点なんて何もなかったのに。
「好きって・・・・友達としての好き、か?」
「もう、違います!私は明君を1人の男として見てるんです!」
やっぱりそうですよね~。
まさか入学早々告白されるとは思いもしなかったぞ。
だが浮かれるな、俺。相手は学校一の地味女だ。まあ、好意を持たれるのは?嬉しいですけど?
だが地味だ!いかんせん地味!
浮気をされてもまだ美紅の方が可愛いと思えるレベルだ。というか、そもそもあいつはアイドル並みのスペックだったからなあ。付き合えたことが奇跡だな、今思えば。
はぁ・・・またあいつを思い出してしまった。
あんな酷い事されても、やっぱりそう簡単には忘れられないよな・・・・。
そんな風に落ち込んでいると、卯月が包み込むように俺の左手を握ってきた。
「明君、大丈夫ですよ。過去は過去です。今までにどれほどの苦労があったとしても、きっと素晴らしい未来が待ってます♪」
何だろう・・・この安心感は。
全てを受け入れてくれるようなこの包容力。
こいつは俺の過去を知ってる?
いやまさかな。多分俺の暗い表情が顔に出てたのかな。
でも何だか・・・こいつには全てを見透かされている気がする。
見透かされたうえで、こいつは俺の全てを肯定してくれているような・・・・。
というか・・・女子に手を握られるのって・・・・恥ずかしいな。
この状況に気恥ずかしさを感じているとちょうど昼休み終了五分前のチャイムが鳴り響いた。
「あ、もうこんな時間なんですね。それじゃあ明君教室に戻りましょう。それと明日からは私が毎日お弁当を作ってきますね。期待しててください♪」
「え、いやそれは申し訳ないって」
「大丈夫です!彼氏の健康管理は愛すべき彼女の役割です!」
いつから俺がお前の彼氏になったんだよ・・・
この調子だと俺が何言っても押し切られるな。
「はあ・・・分かった。じゃあ明日からよろしくな。」
「はい♪頑張ります!」
こうして俺たちは昼飯を一緒に食べるようになった。毎日作ってくるにも関わらず弁当のクオリティは高いままだ。
卯月曰く、「これが愛の力です♪」だそうだ。
愛の力ねえ・・・・。
俺と美紅の間にはそういったものはあったのだろうか。
・・・ってまたあいつのことを考えてるよ。
いい加減忘れた方がいいのに。
でもすんなり忘れられるほど俺とあいつとの時間はそう短くなかったからな。
この先どうなっていくのか。
ただ一つ確信していることは、今後の高校生活に卯月は必然的に関わってくるだろうという事だ。
どんな形になるにしろ、俺はおそらくあいつから逃げられない。
だけどそう考えた時自然と頬が緩んでしまうのはなぜなのだろうか。
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