第2話 新しい友達が出来ました。
高校入学から早いもので1か月が経った。
簡単なオリエンテーションや部活動紹介などが終わり、授業が始まる。
俺は受験後の春休みも気を抜かず高校課程を少し予習していたので授業にも問題なく付いていけている。
やはりここは県内でも有数の進学校とあってか、授業内容もかなりレベルが高い。
予習しておいてよかったよ、ホント。
「明~ここがわかんねえよぉ、教えてくれ!」
悩ましい顔で尋ねてきたのはクラスメイトの五条守。俺の初めての友達だ。
入学式の席でたまたま隣同士なったのをきっかけに話すようになり、今では放課後もちょくちょくゲーセンなどへ遊びに行く仲だ。
この男、いかんせん顔はいいので入学当初から女子たちにモテてはいるのだが、勉強が壊滅的に出来ない。
だから授業後毎回のように俺に聞いてくるのだが、こいつは何でこの高校に合格できたのかってくらい授業についていけていない。
思えば小学校や中学の頃もよくクラスメイトから勉強について質問されることはあったが、その時はただただ鬱陶しいとしか思わなかった。
だがこいつに関しては鬱陶しいと思うようなことはあまりない。
初めてできた友達だからなのか、俺も成長したからなのか。
だが授業後毎回聞いてくるのはさすがになぁ、なんて思ったりもする。
「ここはまだ中学で習った範囲を応用してるだけだぞ、お前本当に大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫!俺たちまだ1年だぜ?しかも明という家庭教師がついてくれるからな!いやぁ、俺はついてるぜ!」
こいつ・・・多分卒業まで俺に教えてもらうつもりだな。まあ頼られるのは嫌ではないが。
「はぁ、分かった。この後の単元も含めて教えてやるから、放課後うち来いよ」
「おっしゃ!やっぱ持つべき友は勉強もできて家に遊びに行けば真理さんがめちゃくちゃ美味しい手作りクッキーを出してくれる友達だよな!!」
こうして話すようになってから守は勉強を教わるためにちょくちょく俺の家へ遊びに来るのだが、最近はもはや母さんの焼くクッキーを食べるために来ているとしか思えない。
母さんも母さんだ。守が家に来るたびに最高級のおもてなしをしやがって。
「明が友達を連れてきたわ!!」って最初はすごく張り切ってたからな。
中学時代あんなことがあってか、母さんも俺に友達ができたことが嬉しくてしょうがないんだろうな。
まあ母さんが喜んでるならいっか。
「今日部活で軽いミーティングがあるから明は先に帰ってクッキーを用意しといてくれ。いやぁ部活終わりのクッキーはさぞかし上手いんだろうなぁ!」
部活終わりって言ってもミーティングしかやらねえじゃねえか。しかも用意するのは俺じゃなくて俺の母さんだからな。
ホームルームが終わり、部活動に励む者、そのまま帰宅する者、放課後クラスメイトと駄弁る者、色々な人たちがいる中でふと俺の視線はとある女子生徒の方に向いていた。
卯月千歳。いつも自分の席で本を読んでいる女の子。
艶やかな黒で覆われたロングへアにかなり度がきつそうな丸渕眼鏡、きちんと制服を着こなし誰かと仲良くするようなこともない。
綺麗な髪質を除けばかなり地味な印象を受ける子だ。正直席が近くなければ気づかないほど影が薄い。
でもなんだろう、彼女を見るたびに何か胸の中の突っかかりが取れそうな気がする。
そういえば美紅もあれくらい綺麗な髪の毛をしてたな。
はあ、前向きになったとはいえ時々あいつのことを思い出してしまう。
俺はまだ美紅のことが好きなのだろうか。あんなに酷いことをされても尚。一度は好きになった女の子だしな。
守は早々に部活へ向かい他のクラスメイトもほぼほぼ教室から出ていた。
さて、俺も家へ帰るか。ラインで母さんにクッキーの用意をお願いしないとな。
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「いやぁめちゃくちゃ助かったわ!ここ宿題にも出されたからピンチだったんだよ!今度何か奢るぜ!」
と言われて奢ってもらったこと一度もないんだけどな。
「あき、守君、クッキー出来たから少し休憩しましょ?」
ちょうどいい所で母さんがクッキーと紅茶を持ってきてくれた。このクッキー、お世辞抜きで美味しいんだよな。守がハマるのも頷ける。
「お!真理さんありがとう!本当に真理さんのクッキー旨いよなあ。うちの母ちゃんもこんくらい料理できればいいんだけど」
「ふふ、いつも美味しそうに食べてくれて嬉しいわ。守君ならいつでも来ていいからね」
おいおい母よ、それ以上こいつを甘やかすでない。こいつは甘やかせば甘やかすほどつけあがるだけだ。
「マジっすか!?じゃあ俺毎日来ちゃいますね!」
お前も少しは遠慮してくれ。
はあ、友達というのはこういうものなのだろうか。
しばらく3人で仲良く談笑した後、守は用事があるそうで少し早めに帰っていった。
今日は久しぶりに父さんが遅くなるので夕食は夜8時の予定。
それまで何しようかな。明日の予習は終わったし、アニメでも見るか。
パソコンの電源を入れホーム画面が表示されるまで待っている間、部屋の整理を少しする。
最近は何だかんだ掃除ができてなかったからな。今度の土日でしっかりやろう。
ピロン~♪
何だ?ラインの通知なんて珍しいな。守、何か忘れものでもしたのか。
スマホの画面を覗くと、得体のしれないアカウント名が表示されていた。
あなたの恋人♡
・・・・・は?
何だこのふざけた名前は。こんな奴追加した覚えはないぞ。
恐る恐るメッセージを開いてみる。
「明日はお弁当を作ってくるので、お義母様にはお弁当いらないよと伝えておいてください♪」
お弁当?お義母様?
間違えて送ってきたのか、それともいたずらで送ってきたのか。
いずれにしろ俺には関係ないので即ブロックと。
さて、今日は何のアニメを観ようかなあ・・・
ピロン♪
・・・・まさかなあ?今度こそ守だよな?そうだよな?あまりにもクッキーが美味しくて家に持って帰りたくなったんだよな?今日だけは許してやる、いくらでも持っていけ。
あなたの恋人♡
何でだ!!??
今俺ブロックしたよな?もしやアカウントを変えて送ってきたのか。
そうだとしたらとんでもなく悪質な野郎だな。
「もう、何でブロックするの??(ぷんぷん)私怒ってます!!」
・・・・何だろう、もうこのアカウントの主を探し出したら気が滅入るような気がする。
こいつもブロックしないと。この後も来たら放置しよう。
こういうのは反応したら負けなんだ。よし、潔くアニメを楽しもう。
それにしてもこの迷惑メッセージ、何が目的なんだ?
金を要求するわけでもなく、罵ってくるわけでもなく。
・・・まさか!
俺の学校に通っている美少女が密かに俺に思いを寄せていて、ふとしたきっかけで入手した俺のラインに送ってきたのか!!??
・・・・そんなわけないよな、アニメでもあるまいし。てかアニメでもこえーよ。
ただの迷惑メッセージだと言い聞かせながらも夕食時、母に「明日お弁当いらない」と言ってしまった。
・・・・やっぱり俺も男なんだな。
まあいいか、なかったらないでパンでも買えばいいんだし。
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こんなにそわそわした登校はいつ以来だろう。
あんなのただのいたずらだとわかっていてもついつい気になってしまう。
こんなに恋に飢えてたのか、俺。
授業中も中々気が入らず、先生が言っていることの2割も理解できていない。
まあ前日予習しているから授業を聞かなくても問題ないんだけどな。
そして来たる昼休み。
守がいつものように俺を昼食に誘う。
「明~、飯行こうぜ!俺もう腹ん中何もないわ!!」
そんなボケにも対応する余裕などない。なぜなら俺はいつ美少女が来てもいいように全方位に意識を傾けているのだからな。
だが5分経っても、10分経っても、美少女が来る気配はない。
そうだよな、あんなのただの迷惑メールだ。俺の心が純粋すぎただけなんだ。
「おい~、そろそろ飯行こうぜぇ、俺もう死んじゃうよお」
「そうだな、飯行くか」
美少女からのお誘いを諦めかけたその時、1人の女の子が俺の名前を呼んだ。
「明君♪」
ドクンっ!
心臓が高鳴る。体が硬直する。
まさか・・・本当に美少女が俺のために・・・
かつてないほどの希望に身を預け、俺は声のする方へ顔を傾け・・・・
「明君、お昼一緒に食べよ♪」
なんで・・・・・
地味子なんですか・・・・・・
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