4.『鍋の集い』

 やっと一通りの思考が済み、こちら側に戻って来た日高が我に返ると、レンガが敷かれた並木道を歩く2人の背中を身体がクルーズコントロールで追従しているところだった。

日高の自転車は沙織が押して歩いてくれている。


 身体の制御を奪い返すと、2、3歩駆けて2人に追いついた。


「おかえりたけちゃ〜ん。そんで、どうなのよ?ライトカーブやれそう?」


「ちゃんと計算してみないと確実な事は言えないが、たぶんウチで持ってる望遠鏡じゃ充分な精度が得られない。もっと大きい筒が必要だと思う」


「望遠鏡ってレンタルとか無いの?」


「えー、聞いた事は無いな。非常に高価な物だし…、そんな大口径の機材、借りていきなり使いこなせるとは思えないな」


「そうねー、北山くんも鬼教官に随分トレーニングされてたものね。慣れない機材となると、不安があるわね」


「一つ、心当たりがあるんだ」


「なに、日高?」

「天文台なんかで、アマチュア向けに設備を使わせてくれる仕組みがあるって話を聞いた事がある」


「なるほど、大口径を操作のプロごと借りるって寸法か〜」


「俺が聞いた話では、講習とか受けて各自で許可を得て操作するような感じだったと思う。たしか、美空天文台だったかな。岡山の」


「ん?? 美空天文台って、どっかでみた事ある。 うーん、、えーっと、あぁの古いやつ読んでる時に、誰かが『美空天文台に就職します』って書き込んであった。3、4年前の分だったと思うけどー」


「なんでそんな昔のノートまで読んでるんだよ…」


「いや、空きコマで暇だったからさ。時々すっげえ上手いイラストとか、けっこう恥ずかしめの連載ポエムとか書いてるから面白くってついつい読み込んじまった」


「ーーその、はよくわからないけど、とりあえずボックスに向かったのは正解だったわね。ノートを探してその就職したOBさんを特定しましょ」





 ボックスは今朝、機材庫に機材を放り込んだ時のままの姿だった。椅子から床の上まで段ボールやら銀マットやら得体の知れない布やらが溢れ、通路から機材棚の前までの無理に押しのけて作ったであろう空間がモーゼの海割りのようである。


「あなたたちのサークルには掃除ができる子が居ないの?…いくらなんでも荒れすぎじゃない?」


「スペースに対して人数とモノが多すぎるんだよ。物理的に不可能だ。片付かない」


「それはやらない人の言い訳よ?ひーだーかー?」


「そうだ、そんなに気になるなら沙織が天研に入って掃除してくれればいいじゃないか。お笑いサークルのマネージャーは引退したんだろ?」


「どんな理由で勧誘してるのよ、、北山くん、誰かにプロポーズする時はもう少しマシな理由を考えなさいね」



「そうだ!! ひ〜だ〜か〜。機材下に戻さなきゃいけないじゃん〜」


「ーーそうだな。俺はグーを出す」

「ー俺はチョキだ」

『さいっしょはぐーっ! じゃんけんっ』




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 戦いは結局日高の二敗で終わり、地下第3倉庫を施錠した足で事務所に鍵を返しに行った日高より先にボックスに戻った2人は、とりあえず机の上のモノをかき分けてスペースを作ると横の本棚から爪先立ちで引き抜いた5年分のーーボックスを訪れた会員が、その印を残す記録ノートーーをどさっと置いた。


「というか、多いわね。5年でこんなにノート進むかしら?」


「今は年2冊くらいしか進まないけど、過去のノート見ると悪戯書きとかで一度に5ページくらい浪費してる時があったりするから圧倒的に今より進み方が早いみたいたぜ」


「なるほど、いかにも大学生がやりそうな事ね。さ、探しましょ。私は4年前あたりを見てみるわ」


「というか、この赤ペンが入った謎の詩集はなんなの… 読んでて恥ずかしくなるわね」


「国民的電気ネズミが大量に書かれているページもあるんだよな。大学祭の時に展示室に来てくれたお客さんの数をカウントしてるらしいんだけど、意味がわからないぜ」



 2人はしばらくノートをめくっていたが、ボックスの入り口から足音が聞こえてきたので顔をそちらに向けると、日高と一緒にコートを来た男が向かってくるところだった。


「やぁやぁ君たち〜いらっしゃ〜い」

「そこで大西先輩に会ったんだ」


 このコートを来た男こそが天研の現会長を務める大西剛志だ。


「やぁやぁ、さおりちゃん。いらっしゃい。寒くないかい? ほら、ヒーター使って使って」


 大西は隅の方で首を振っていたヒーターを引き寄せると、沙織に熱線が当たるように固定する。


「あ、あぁ、ありがとうございます。会員じゃないのにいつもお邪魔しちゃっててすいません


「いいんだよ、会長の私が許可しよう。いつでも存分に使ってくれたまえ」



「せんぱーい、さむいっすよ〜」


 熱源を奪われた北山が不満の声を上げる。


「我慢しなさい北山くん。女の子はね、身体を冷やしてはいかんのだよ。これは大西家に代々受け継がれる教えなのだ。それで、今日は3人揃って何か調べごとかい?」


 机に積まれたノートに目をやりながら大西が尋ねる。


「先輩、うちのOBさんで美空天文台に就職された方ってご存知ないですか?」


「あぁ、伊勢崎先輩の事だね」

「大西先輩ご存知なんですか!!」


「去年まで大学院にいらっしゃったからね。このサークルの神様だよ」


「えっ、神ってこの方の事だったんですか?」


 日高は、スチールラックの側面に磁石で磔にされた厚紙製の人形ロボットを見上げる。


 胴体には黒マジックで大きく

『神』と書き込まれている。


「おでこに『I』って書いてあるじゃないか、伊勢崎先輩のIだよ」


「これアルファベットだったんですが、模様だと思ってました。っていうか、何で神なんですか? やっぱり天文への知識が凄かったんです?」


「そうだね、最大の理由はやっぱり技術と知識が凄かった事かな。自分でも撮影用の望遠鏡やカメラ持ってたし、雑誌のコンテストとかでもしょっちゅう入賞してたよ。あとは、サークルで色々と大変な事を、、ノート読めばわかるよと思うけど、私も新歓合宿の時に高知の海に向かって犬のおまわりさんを大声で歌わさせられたりして大変だったよ〜」



「何か、今の静かなサークルのイメージからは考えられないですね。1年生も2人しか居ないですし」


「さおりちゃんは中々痛い所を突いてくるじゃないか。ぜひ、我が天研に入部しないかい?さおりちゃんが来てくれれば、この寂しいボックスの雰囲気も明るくなると思うよ!

 事実、私は今非常に暖かい気持ちだ!!」



 さおりに向き合って座っている大西には、ヒーターの熱が全く届かないためか、コートの下の膝が左右に震えているのを沙織は見なかった事にした。


「それはさておき、実は大西先輩、相談があるんです」


「相談か〜、前その切り出し方で時計購入の話だったよねー。経費出すのに瀬川説得するの大変だったんだぞー!」


「その節はどうもありがとうございました。えーと、今回も多少お金がかかる話ではあるんですが…」


 日高は大西の方を向いて居直ると、本日3回目となる掩蔽観測結果の説明をしていく。


「ーーつまり、ライトカーブを十分な精度で得るには美空天文台で講習を受けて、1m鏡で撮影するしかないんです。講習代や交通費がかかると思うんですが、サークルの方から補助が出たり…しませんかね?」


「なるほど… 何というか、君たちはやっぱり持ってるな。僕はね、ボックスで望遠鏡を勝手に分解して瀬川から怒られている君たちを見た時から、これからの天研はこういう若者が引っ張っていくべきだって思ってたんだよ。ーーうーん、個人的には是非天研の活動として支援してあげたいけど、大蔵省がなー。瀬川を説得できればいいんだけど…」


「先輩、今はもう財務省ですよ」

 沙織がぼそっと突っ込む。


「そうだ!! 日高くんが自分で瀬川に交渉してみてはどうだね?」


「うーん、もちろん我々からもお願いはしますけど、瀬川先輩って難攻不落じゃないですか…。大西先輩の力添えが無いと難しいですって。ああ見えて、瀬川先輩は大西先輩の事結構好きですからね。信頼されてるんですよ大西先輩は」


「日高、瀬川副会長が苦手だから必死だな」

「そんなに怒られたの?」


 横で北山が沙織とささやき合っている。




「そうか! うーん、そうかもしれない。けどなー、どうやって話しようかな…」


「もー、大西先輩。じゃあこうしましょう。大西先輩が予算もぎ取ってきてくれたら、私天研に入部しますから! これでやる気になりました??」


「おぉ!! 本当かい!? ありがとうさおりちゃん!! 天体観測研究会はあなたの入部を歓迎します!!!」


「まだですよ大西先輩。予算取ってきたらですからね」


「そうだった、あ、じゃあ早速準備をしないと。日高くん、北山くん、伊勢崎先輩を紹介するから、直接相談して掛かる経費の見積もりを用意してくれるかい?」


「わかりました。紹介はメールですか?」

「そうだね、先にアドレスを教えていいかどうか承諾を貰うから、その後で送るよ」


「沙織、良かったのか? 今まで入らないって言ってたのに」


 日高が珍しく真剣な顔で問いかける。



「いいのよ。何かコレは面白くなる気がするの。あー天文台なんて行くの初めて!ワクワクしてきたわ」


「えっ、さおりちゃんも行くのかい??」


「当然です。その時には天研のメンバーなんですから」

「いや、でも旅費が…」


「そんな所でケチらないで下さいよ〜。私はそんなに安くないですよ!」


「わかった、わかったよー。恐ろしいな君たちは…」


 頭を抱える大西の向こうで北山がニヤニヤしている。あの表情は、『さすが沙織』といったところか。



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「じゃあ、連絡お願いします」


「わかった、返事がきたらすぐ送るよ」


 サークル棟の前で大西と別れると、3人は大学の北門ーーとはいえ車用のゲートがあるだけだがーーを抜けて、学生街の中にある小さなスーパー併設のショッピングモールへと歩き出した。



「しっかし、沙織が天研に入るって言い出すとは思わなかったぜ」


「私だって、地質惑星専攻に来たんだから天体だって別に嫌いじゃないのよ…」


「まぁ、そうだよな。沙織は何で地惑受けたんだ?」



「ーー別に、そんなに深い理由じゃないのよ。理系には居たんだけど、進路選ぶ段階になってもそんなに興味が湧く分野が無くて…。

 そんな時に、当時好きだった人が星を見せに連れて行ってくれたの。そこで朝まで宇宙や元素の循環や生命の可能性や色んな話をしてくれて、知らない事がいっぱいあって私すっごくワクワクしたのよ。それで、地学勉強してみようかなって思ったの」


「へーーっ 沙織のそんな話聞くの珍しいな。で、その彼とはどうなったんだよ?」


「あら、北山くんもそういう話に喰いつくのね。珍しいでしょうね、初めて話したもの。その人は、先輩で先に卒業してしまったわ。何にもなかったわよ。今は連絡も取ってないし、どの大学に進んだかは知らないわ」


「ーー失恋??」


「どうでしょうね。私から告白もしてないし、向こうもそういう意識があったとは思わないわ」


「何か甘酸っぱいな−。なぁ日高」


「あ、あぁ」


 俯いて後を歩いていた日高が生返事を返す。



「話聞いてたか?あの沙織も恋をするんだぞ?」

「あのって何よ!!」


「だって沙織、全然そういう話ないじゃんか。地惑なんて男女比偏ってるんだから先輩の話なんか聞くとフリーな方が珍しいみたいだぜ。沙織だって、ーーそんなに…見た目も…悪い方じゃないんだし、声かけられてるんだろ?」


「北山くん…あなた本当に女の子と話す時は気をつけた方がいいわよ。まぁ、誰でもいいわけじゃないのよ、私にも選ばせて欲しいものね。しかも先輩とかだと断りづらいのよ…めんどくさい。でも男2人と仲良くつるんでれば割って入るのも殆どいないし、楽で助かってるわよ」


「げ、俺たちは虫除け代わりか?それは酷いよな〜ひだか〜」


「あぁ、そんな理由で俺たちとつるんでいたとは…」


 日高が引きつった顔で沙織を見ている。



「ちょっと、間に受けないでよ! 半分は冗談よ、半分は!」

「半分!?もう半分は何なんだよ!おい!」


「もう、何だっていいじゃない。ほら、早く自転車置いてきなさいよ!タイムセール終わっちゃうわよ!」


 郊外の小型ショッピングモールの見本のような店舗は、1階のほとんどをスーパーが占めていて、残ったスペースに100円均一とクリーニング屋が押し込まれている。2階は衣類と文具コーナーがあるが、客は少なく閑散としている事が多いようだ。


 揃って自動ドアの出迎えを受けると、レジ前の空間にドーナツショップの巡回販売が来ていた。小さなキャスターの付いたショーケースに何種類かのドーナツが並べられているのが見える。


「あら、甘いものもいいわね」


「えー、鍋にドーナツはどうなんだ」


「最近食べてないのよー。地元にいた頃は駅前にあったのに、ここじゃ市内まで行かないとお店が無いんだから」


 ここで言う『市内』とは広島市内の事であり、自転車で15分近くかかる駅から電車で更に30分近くを要する距離である。


「まあな、でも今日はパス」

「そうね。食べたいけど、今日じゃないわね」



 沙織は生クリームと粉砂糖の誘惑を振り切ると、買い物かごを手にとった。




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 オートロック付き8F建のアパートの3Fにある、沙織の借りている部屋でリビングに通された北山が感嘆の声をあげている。


「相変わらず片付いてんなー」


「そう?常にこのくらいには維持したいわね。あ、洗面所はダメよ。片付けるからちょっと待ってて。週末だから洗濯物溜まってるのよ〜。先に食材冷蔵庫に入れといてね」



 そう言い残すと沙織は小走りに廊下を駆けていき少し遅れてバタンと洗面所のドアが閉まる音が響いてきた。


「沙織んちってWi-Fiあったっけ?」


「どうだったかな。掲示板見るのか?」

「もうそろそろ動きあるかなーと思って」


 日高がリビングの円卓にパソコンを立ち上げてみると、Wi-Fiが自動的に接続された事を知らせるポップアップが浮かんできた。


「前に来た時に繋いだみたいだ。設定残ってた」


「で、どうだった?」

「ちょいまち」



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ID:soreIka Fri Jan 27, 2023 05:45 pm

h-hidakaさん報告ありがとうございます。観測者は1名だけでしょうか?また観測者の誤差補正は可能ですか?

時刻から考えると、誤差の存在に関わらず2回の掩蔽があった事はほぼ確実と言えると思います。


ID:sdoifuu Fri Jan 27, 2023 06:13 pm

衛星というより連星(小惑星の場合に使って良い言葉かわかりませんが)の様なサイズと間隔に思えますね。高知と広島は3317のほぼ最大径に近い部分ですが、南側の観測結果が予報通りなのが不思議です。


ID: troll-kL Fri Jan 27, 2023 06:55 pm

一応、私も自分の機材を確認してみますね。


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「目新しい内容は特に無いなー」


「そうだな、一応質問への返信は打っておこう。後は…小惑星カタログの事も聞いてみるか」


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ID: h-hidaka Fri Jan 27, 2023 08:06 pm

>>soreIkaさん

2名で観測しました、1人が望遠鏡、私が双眼鏡で確認しています。望遠鏡での観測を行った観測者は事前の確認で、約0.25秒の安定した反応遅れを持つ事を確認しています。

>>皆様

(3371) Mithere の小惑星本体についての情報を知りたいのですが、スペクトルやライトカーブなどが見られるサイトをご存知ないでしょうか。もしご存知の方がいらっしゃれば、教えていただけると嬉しいです。



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日高が新たな投稿を追加し終わると、見計った様に声が飛んできた。


「はいはーい、おふたりさん。そろそろ机空けてちょうだい。お鍋持ってくわよ」


 エプロンをかけた沙織がミトンに手を差し込みながらキッチンから呼びかけている。鍋には既に火が入り、食べられるばかりになっているらしい。


「おお、すまん。夢中になってて」


慌てて日高がパソコンを閉じ、床に移して円卓の上に鍋が着地する場所を空ける。



「何が書いてあったかは後で聞かせて頂戴。とりあえずご飯にしましょ?」


 沙織が鍋敷の上にどっかり座った土鍋の蓋を取ると、ふわっと蒸気が上がる。身を乗り出した2人の視界が晴れると、豆腐、白菜、つみれに鶏肉が黄金色の出汁に揺れていた。仕上げの春菊が一つかみ、散らされていく。


「おおー、旨そうだ。さすが沙織」


「どうって事ないわよ。鍋なんて切って加熱するだけよ?もうつくねも煮えてると思うからどれでも食べていいわよ」


 2人の前に、取皿と割り箸、レンゲを置きながら沙織が言う。




「うめぇ!!うめぇぞ!鶏肉につくね豆腐、ならびに白菜は俺のものだ!!!」


「なんだ北山、俺様は春菊だけ喰ってろってか!?」


「何やってるのよ…、野菜もつくねもまだ残ってるから仲良く食べなさいよー。出来ないなら私がよそうわよ?」



「ーー何か、沙織って母性あるよな?」


「北山君気持ち悪いわよ?私はあなたのママじゃないわ」


「いや、そういうんじゃなくて、、自炊ちゃんとしてるし、部屋きれいだし、タイムセールの時間も把握してるし、面倒見もいいし、何か大学生っぽくないよなー。ちゃんとしてるっていうか、、」


「しどろもどろになるぐらいなら言うなよ…」


 日高が目を背けながらつっこむ。


「日高だってちょっと思ってるだろ?沙織んちで料理食べると実家を思い出すとか言ってたじゃんかよ!」

「俺を巻き込むなよ!別に俺は実家を思い出すって言っただけじゃないか!母性とか言ってないぞ!」


「ーーそれ、大西先輩にも言われたのよね」


 泥の塗りあいをする2人の横でぼそっと沙織がつぶやく。



「え?大西先輩が?」


「そう、『さおりちゃんって、なんかお母さんみたいな安心感あるよね〜』って」


「おおぅ…何と言うか…それは」


「ちょっとね、大西先輩ね…」

「気持ち悪い?」


「まぁ、ちょっと気持ち悪かったわ」


「あー、うん。何かあの人そういう所あるよね」


「悪い人では無いんだけどなー」


 3人は揃って首を傾げて考え込む。



「まぁ、そんな事はどうでもいいのよ。仲良く食べましょ? あと、私はあなた達のお母さんじゃないから食べ終わったら洗い物はお願いするわよ。働かざるもの食うべからず!」


「そういう所だぞ、沙織」




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「ふぅー喰った喰った。あぁーおこたが気持ちええー」


「ちょっと北山君、食べてすぐ横になると消化に良くないわよ。あと、コタツで寝ると風邪ひくわよ?」


「そういう所だぞ、沙織。お母さんかよ!」


「うっ…、、やめてよもう〜。それで、掲示板はどうだったのよ?」


「やっぱり、衛星説とか連星説が出ていたけどハッキリ説明できる人は居なかったな。小惑星についてはカタログを紹介してもらえるように依頼しといた」


「ーーカタログ?」

「通販じゃないぞ、天体は種類に応じてデータベースにまとめられている事が多いんだけど、それをカタログって言うんだ」


「あぁ、そういえばメシエカタログもそうだな」


「それで、今回小惑星を検索できるカタログを探してみたんだけど、結構専門的でうまく見つけられなかったから…」


「なるほどね。あと、OBさんの連絡先は来たのかしら?」


「うん、さっき大西先輩から来てたよ。今日は遅いからこっちから連絡するのは明日にしようと思って」


「それがいいわね。じゃあ、今日はお開きにしましょ。明日、9時から中央図書館のグループ室を取ってあるわ。ロビー集合ね?」


「りょーかい。そんじゃ、お暇しますか」




 玄関で見送った沙織に別れを告げて、日高と北山はそれぞれの下宿へと自転車にまたがった。しんしんと冷えた1月の空気が鍋で火照った身体に心地よい。



 学生街のささやかな街明かりを吸い込むように、今夜も黒々とした宇宙が空を覆っていた。




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