33話 呪いの行方



朝告鳥が鳴いている。


(もう、朝かぁ…

ん?私、いつ寝たっけ?)


重い瞼を開けるといつもの見慣れた自分の部屋だ。


(私、何してたっけ?えーと…)


「あっ!」


思い出して、寝てる場合じゃないとベッドから降りようとして身体が思う様に動かず転げ落ちてしまう。

その音を聞きつけて凄い速さで階段を駆け上がってくる足音が部屋に近づいてノックする。


「マリー!気がついた?大丈夫?

部屋、入ってもいい?

あ…、俺ダメならハクが入るから…」


さすが、あんな凄い勢いで階段を駆け上がっても息切れ一つしてないなぁーなんて的外れな事を思いながら、一応、自分の姿を確認する。

ベッドはそこまで乱れてないし、パジャマだけど横にあるカーディガンを羽織ればいい。

髪は、手櫛で整えて。

心配されていることがひしひしと伝わってダメだなんて言えないよね。


「はい、ハクも誠司さんもどうぞ」


躊躇いがちにドアを開けて入り、ベッド横にあった椅子に誠司さんが座り、その横にハクが座る。


『マリー…、心配したぞ。

5日も目を覚さないから…』


「え?私…そんなに眠ってたの?」


どおりで身体が強張って動かしづらかったのか…


『翌日には起きるだろうと思ってたが、マリーは起きる気配が全くないから心配になってアンに見てもらったら、ほぼ魔力がははは残ってなくて休眠状態になってるから10日は起きないって言われた』


「私、人より魔力多いからね…

戻るのも時間かかるよね。

あれ?でも、寝てたの5日って言ったよね?」


『日数を半分にできたのは、セージのおかげだ。

毎日、セージが自分の魔力をマリーに分けていた。もちろん、アンの指導のもとでマリーに負担がかからない程度でな』


「そうなんだ。

誠司さん、ありがとう。

ごめんなさい、迷惑かけて」


「迷惑なんて全く思ってない!

元は、俺のせいだし…何よりマリーに早く目を覚まして欲しかったから…

俺がやりたいってアンさんにお願いしたんだ」


「…そうだったんだ。

ありがとう、誠司さん」


なんだか誠司さんに凄く見つめられてて恥ずかしいけれど、経緯を知ってもう一度お礼を伝えると、誠司さんは私の手を取ると自分の手で挟み、

「こうやって魔力を送ってたんだ。

お陰で魔力操作の練習にもなって俺も魔法の精度が格段に上がったんだよ」と、嬉しそうに言ってくる。


『本当はな、もっと効率いい方法もあったのだが、セージが頑なに拒否してなぁ…。

一度するのも二度するのも変わらないのに…』


「ちょっ、ちょっとハク!

それは俺の意思だけじゃダメだからって言っただろう!

最初のは生死に関わるからやむを得ずでで…」


「え?何?

どんな方法なの?」


「いや、マリーは聞かなくて…」


「それはね、キスだよ!マリー♪」


「アン!」


「やっとお目覚めだね、お姫様!

心配したけれど、顔色もいいし、大丈夫そうだね。よかった、よかった。

一通り見てもいい?」


真っ赤で固まっている誠司さんを押し退けて診察を始める。


「うん、問題ない!

マリーとセージの魔力と相性がいいようだね。ここまで目覚めが早いとは思ってなかったよ。

ん?どうしたマリー?

真っ赤なりんごみたいだぞ?」


ニマニマしながらそう言ってるアンが憎たらしい。ハクまで後ろ向いてプルプル揺れている。どう見ても笑ってるよね!


「マリーもセージも真面目で初々しくてこっちが恥ずかしくなるよ。

ほら、二人っきりにしてあげるからゆっくり話しなさいな♪」


そう言うと、アンとハクは部屋を出て行ってしまった。


「せ、誠司さん、アンとハクがごめんね」


「いや、俺が変に隠そうとしたから…


まだ、俺の気持ちを伝えてるだけなのに、さすがに了承も得ずにキスは……

唇じゃなくてもいいって言われたけど、唇じゃなくても俺が止められなさ…

今の無し!ごめん!今の忘れて!」


真っ青になって謝る誠司さんに、忘れてと言われたことを反芻してしまって真っ赤になる私…


「…ごめんなさい……忘れてください」


「はい……」


頭の中はぐるぐるだけれどそう言うしかない。

別の話題を振らなければ…


「そ、そう!の、呪いはどうなった?」


しどろもどろになりながら、一番肝心なことを聞く。


「そ、そう。そう!見て!」


腕まくりすると、そこにはドス黒い痣など初めからないと言うように、よく鍛えられた腕があるだけ。


「ああ…よかった。成功してたんだね」


「うん、大丈夫。解呪も封印も成功だよ。

一応、アンさんにも見てもらったけど、全く問題ないってお墨付きをもらった。

封印に使った水晶は、川で浄化中だよ」


「そうか…わかった、教えてくれてありがとう」


「こっちこそ、本当にありがとう。

命懸けな依頼になってしまったこと謝罪させて。

本当に申し訳なかった」


深々と頭を下げて謝罪する誠司さんに居た堪れなくなり、

「そんなに謝らないで、誠司さん。

多かれ少なかれ危険があるのは承知の上。

今回は、見積もりが甘かった自分のせいだから気にしないで」と、ありのままを伝えるしかない。


そう言ってもまだ気にしている感じだったけれど、何かを思い出したように話出す。


「報酬の件なんだけどね。

アンさんに提示された報酬はここにあるんだけど、魔力枯渇で命を危険に晒してしまったことに対する追加報酬を国からも出してもらえるらしい。

国と言っても、罪人ジザニオの所有物を換金したものからなんだけど」


「その人、捕まったんだね!」


「ああ、呪詛返しを受けてのたうち回ってるジザニオを始めとする各地に散らばっていた十数人をまとめて捕えられたそうだよ」


「そうなんだ!でも、どうしても呪詛返しってわかったの?」


「ああ、それは、みんな左腕にドス黒い痣があったからだよ。俺にあったような…ね」


「なるほど…でも、それじゃ呪いに飲み込まれてしまうんじゃ……」


「それも心配いらないよ。死なない程度で呪いの状態だけ“時戻し”の魔法をかけるらしい。刑が終わるまでそれが続く」


“時”の魔法は、禁術だ。

限られた数名しか継承されない魔法。

その禁術を使ってまで行う刑。

それだけの重さはあるはずだ。

誠司さんに対する数々の仕打ちを考えれば足らないくらいだけど…




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