34話 その後


その後もアンとハクに揶揄われながらも最後のひとときを過ごした。


その後、アンは山積みな仕事の為、緊急転移陣で。

誠司さんは、解呪の報告と例の罪人達とその他諸々の片付けがあると王都へ帰って行った。全て終わったら追加報酬を必ず払いに来るから返事もそのときまでに考えていてほしいと言い残して。



それから私は、入っていた注文分を作り終えるとハクを伴ってユニコーンのシルヴィアの所にお礼と報告に行く。

シルヴィアに報告すると、[そうか…]と一言言うと、長いまつ毛に縁取られた瞳を閉じて黙ってしまった。


いつもならのらりくらりと滞在日数を延ばされるけれど、今回は早々に帰された。

仲間のところに行かないといけない用事があるらしい。


アンと約束していた王都にもハクと遊びに行った。

アンも仕事を早めに切り上げ、服をオーダーメイドしたり、おしゃれして観劇や早起きして朝市巡り、王都の魔女薬師の方々にも会って情報交換もした。

長めに居たつもりだったけど、誠司さんとは結局会えずじまい…王都に居たらもしかしたら会えるかもって思ったんだけど…


帰ってからは大変だった…

こんなに休んだ事なかったから、お知らせと薬の作り置きはしておいたんだけど依頼が山のよう…

アンが、緊急転移陣で帰れって言った意味がわかった…。普通に帰ってたらすぐに仕事には掛かれなかったはず。

お陰で、忙しくて誠司さんの事を思い出してしまうことは少なかった。

それでも、夢の中にはたまに出てくる。

喋ってくれないし、後ろ姿だったりだけれど…




誠司さんが警戒してたように、あれからトマスは何度も求婚にきた。

その都度、きっぱり断ったけど。

最終的に諦めて紹介された取引のある商家の三女さんと婚約。来年には結婚式を挙げるそうだ。

一度お会いしたけど、美人だけど気さくで物事をはっきり言える人だった。

トマスは、尻に敷かれる未来しか見えないなぁ。



誠司さんはいつ来てくれるのだろ?

答えなんてもうとっくの昔に決まってるのに…







王都へ戻った俺は、王からの内々の招待に答えて後見人であるシオール領の領主で王弟殿下であるグレフェリス様と共に王城へ。


正式な場ではない為、始まりは和やかなだったけど、本題に入り王の顔に戻る。


「セージ殿には、我が国を救っていただいた到底返せぬ多大な御恩があるにも関わらず、お命を狙われると言うあってはならぬ状況を作り出してしまった事、国を代表して謝罪する。

本当申し訳なかった」


王からの謝罪。

この世界で一番重い謝罪だろう。

それから王は、徐ろに王冠を下す。


「それから…

その一端に我が息子が関わっていた事、父親として謝罪いたします。

セージ殿、本当に申し訳ございませんでした。

息子の処遇は、対外的には病による療養となっておりますが、城の敷地内にある塔に幽閉しております。この塔より一生出ることはありません。

もちろん、呪詛返しの刑も課されております。

誠に勝手な願い事ではありますが、これで手打ちにしていただけないでしょうか…」


俺の前に膝を折り、一人の親としての謝罪と懇願。


「……謝罪を受け入れます。

はい、構いません。

これで終わりにいたしましょう」


毅然とした態度で返答する。

昔の俺なら慌てふためいている状況だ。

今だって手汗がすごい。

だって相手、王様だし。

しかし、俺は国を救った勇者。王と同等の扱いだ。


「寛大な御心に感謝いたします」

深々と一礼して元の席に戻る。

それを確認してグレフェリス様が話し始めた。


「では、セージ殿。近況を報告する。

先に連絡していたとおり、関わっていた主要な人物には術祖返しが発現している。

今の段階で把握できているのは国内で27人。国外は30人ほど。この数には、すでに死亡していた者も含まれる。まだまだ増えるかもしれない」


「わかりました。

引き続きよろしくお願いします。

それから、なるべく早く解決していただきたい。お待たせしている方がいますので…」


「あい、わかった。

この件、早急に解決する事を誓おう。


…して、お待たせしている方はどなたかな?

もしメデュシラの森の乙女ならば、例え勇者様でも容易ではないのだが…」


「メデュシラの森の魔女薬師様は、この国にとって重要な方なのは存じています」


「魔女薬師様方は、国の力が及ばない存在なのだ。その中でもメデュシラの森のお方は特別。婚姻となると…先ずは先代様に…」


「もう、先代様には了承を得ています」


懐に大事にしまっていた封筒を取り出して、中の書を確認してもらう。


「あい、分かった。

では、出来うる準備は整えておこう。

貴殿も、このままではいられなくなる。

王女と婚姻することよりも難しい事だ。

その覚悟はあるか?」


「はい。

どんな重責であろうとも謹んでお受けする覚悟です」









誠司さんの解呪からあと少しで1年になろうとしている。


結局、あれから誠司さんとは会えずじまい。

しかし、月に1度は近況を知らせる手紙が必ず来る。


暗殺の件は、半年ほどでほぼ解決したそうだが、もうこの様に侮られることがないように誠司さん自身の地位の確立?をするため、ずっと忙しいらしい…

確かに勇者様の事は広く知られているけど、勇者の誠司さん自身のことは、黒髪・黒眼ということ以外、ほぼ知られていなかったから。


こちらの常識とかマナーとか歴史とかは、こちらに来た時に多少教えて貰っていたけど、改めて勉強していると始めの頃の手紙に書いてあったけれど、最近では、私よりこの国に詳しいんじゃないかと思う。



トマスがいつもの定期便を届けに来た。


「その手紙、アイツからなんだろう?

…ったく、アイツいつまでマリーを待たせるつもりだよ」


私のお願いしてた品物と一緒に届けられた手紙。


「誠司さんは、忙しいのよ!

トマスは、こんな所でお喋りしてないで早く次の所へ行きなさいよ。

帰りが遅くなるわよ!ほらっ!」


追い立てるようにトマスを送り出すと、手紙を確認する。


届いた手紙には一言だけ。


もうすぐ会いに行く。と…






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