30話 回復
あれから3日。
一時は意識が無い状態だった誠司さんは、解毒薬を追加投与することで意識を取り戻すと、あっという間に起き上がれるまでに回復した。
「誠司さん!
また、抜け出して鍛錬してたでしょ!!
体動かすのはまだ禁止って言ってるのに!」
「いやいや、…し、してないって。
ちゃんと寝てたから」
そう言ってる誠司さんは少し汗ばんでて、ただ寝てたにしては脈が早すぎる…
(全然隠せてないよ、誠司さん…)
はぁ〜とため息をつきつつも、〔診眼〕で確認する。
呪いの痕跡以外は、全て正常値。
バジリスクの毒が完全に無毒化されていた。普通なら何かしらの後遺症が残るほどの猛毒なのに…
本当に“
「誠司さん、もう、体を動かしてもいいよ。
だけど、普通なら後遺症が残るほどの猛毒だったんだからあと2、3日は軽めの運動で無理はしないこと。これは、必ず守ってね!」
そう聞くと、表情がぱっと華やいだ。
「マリー、ほんと?
ほんとに体動かしても怒らない?」
「怒らないよ。
だって、誠司さんにこのまま行動制限かけてると私が知らないうちに無理して鍛錬しそうだもの。それなら、私が把握できる方が安心だわ。でも、本当に無理は禁物だからね!」
うんうんと頷いている。
キラキラエフェクトが付いていそうなくらいの満面の笑みで。
本当はもう少し安静にしていてほしいけれど仕方ない!
体調が戻って“揺らぎ”も進めば〔解呪〕が行えるんだからストレスフリーを優先で!
*
本当に誠司さんの回復力にはびっくりだ。
行動制限を解除した翌日には以前とほぼ変わらない状態に戻っており、ここ数日で解呪の準備段階“揺らぎ”もはっきりとわかるようになっている。
(さぁ、どうかなぁ…)
今日の診察を始める。
いつものように、私の両手に両手を乗せてもらう。
今では、ただ診察だからと割り切っているけれど、初めはコレもなかなか恥ずかしかったのか緊張してたよね。
魔力を流しながら〔診眼〕を発動。
(おおー!
これはもういいかもしれない!)
木の根の様に張り巡り、絡みついていた規則正しい呪い文字の羅列は見る影もない。
所々消えていたり、文字が変形していたりと“揺らぎ”が順調に進んでいる。
「誠司さん、呪いの“揺らぎ”かなり進んでるよ。ここまで進んでるなら、〔解呪〕も出来ると思う」
「ほ、本当?!
いつ…いつ〔解呪〕する?
俺は今からでも……」
私の手に置いていた手は、私の手をしっかり握り締め、いつもより大分距離が近い。
「誠司さん、落ち着いて。
〔解呪〕は、これからする。
でも、一旦落ち着こう。
落ち着ける様にハーブティー入れるね。
ちょっと待ってて」
ラベンダーやカモミールなどの鎮静効果があるハーブをブレンドしてティーポットへ。
これ、効きすぎると寝ちゃうから魔力は使わずに入れる。
あとは、好みで蜂蜜を入れて。
「香りを感じながらゆっくり飲んで。
飲み終わったら〔解呪〕の準備に取り掛かろう」
私も冷静になるために一緒にティータイム。
今、命の危機があるわけでは無いけれど、それでも早く解放してあげたいって気持ちが強かった。でも、そんな時こそ努めて冷静であらねばならないのがこの仕事。早る気持ちは冷静さを欠き、見極める力を鈍らせる。
私は、香りを意識的に感じながら持っていたカップに口を付けた。
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