29話 襲撃の理由
黒装束の人達はハクに任せ、私は誠司さんのもとに駆け寄る。
息はしてるけど意識が無い。
「誠司さん!誠司さん!
しっかりして!!」
あちらこちらに切り傷があるもののどれも刃が軽く掠る程度のもの。いくら複数人に襲われたからと言っても誠司さんは勇者。普通ならこんな状態になるはずがない。
[診眼]で観察すると…
ああ、やっぱり…毒。
それもバジリスクの毒だ。
本気で誠司さんを殺しに来ている。
こんな希少な毒を入手出来るのは、皇族か上位貴族…
「……っ、…マ、マリー?」
気を失っていた誠司さんが目を開けた。
「誠司さん!よかった。
一体何があったの?」
「いやー…油断した……
今回は、毒まで使っちゃうとか…アイツらも相当焦ってるな。
…ホント、しつこくて参っちゃうよ……」
まだ顔色はあまり良くないが、意識ははっきりしてきているようだ。
独り言のように軽い感じで話してるけど、聞く限り襲撃を受けるのは初めてじゃ無い口ぶり…
普通、バジリスクの毒は即死レベルだけれど、怪我の巧妙と言うべきか呪いの剥離と体の浄化を促す薬 “
猛毒だったため、気を失ってたのもよかった。気を失わずに動き回っていたら毒はあっという間に身体中に回り、浄化も追いつかなかかったかもしれない。
『セージは、本当に運が良いな。
結界の境目の内側で倒れたんだぞ。
倒れたのが結界の外側だったら、間違いなく殺されていた。
アイツらは、何者だ?』
黒装束の人達を森から追い出したらしいハクが合流した。
「ああ、ホントに運がよかったよ。
アイツらは、宰相ジザニオの暗部部隊の者達だ。
俺が、この世界に召喚された経緯は知っていると思うけど、主導したのは宰相ジザニオとこの国スヴェアセアータ国の第一王子ダルッド殿下なんだ。
表向きの理由は、隣国ジベルタ国と魔族の王が結託して攻めてきた為だけど、裏で魔族と繋がり、ジベルタ国を唆したのは宰相ジザニオだという証拠を掴んだ。
操りやすいダルッド王子を王太子にと目論み、不人気だったダルッド王子の実績と好感度集めのためだったらしい。
当初の当てが外れて、ダルッド王子の好感度は差ほど上がらず、目障りになる俺を呪いで始末するはずがまだ死んでない。
今、宰相様は俺の暗殺と自分の保身に躍起になってるだろうね」
「…そんな……
そんなことのために誠司さんは召喚されたの?!
もう、元の世界に帰れない…
家族とも友達とも一生会えないのに!!
それに、当てが外れたってことは、誠司さんに《血染めの聖剣》を渡して呪われるように仕向けたのは、その宰相ってこと?!!」
「そうだ。
自分は、勇者に相応しい剣を用意するようにと部下に言っただけで、その剣がまさか《血染めの聖剣》だとは知らなかったって言い張っているけどね」
なんてひどい話だ!
自分さえよければ、他人なんてどうでもいいと言うことか!
怒りで震えが止まらない。
きつく握っていた私の手を誠司さんがそっと包んだ。
「マリー、そんなに強く握っていると手が傷ついちゃうよ。
…ありがとう。俺のためにそんなに怒ってくれて。
起こってしまったこと変えることはできないから、それを償わせるために俺の後見人であるグリフェリス様と第二王子のヴェガニア殿下が動いてくださっているんだ。
公にされるのも時間の問題だよ。
でも、…俺は少しだけ、ほんの少しだけこの呪いに感謝している。
この呪いのおかげでマリーに出会えたからね」
柔らかく微笑み、包んでいた私の手にキスを落とすと、優しく熱を孕んだまなざしで私を見つめる。
そのまなざしに囚われて逸らすこともできない。
『………そ、その…取り込み中すまん…な。
その……わ、我は向こうに行っているから…
マリー、ちゃんとセージに話せよ』
すっかり存在を忘れていたハクが、きまり悪そうに去っていく。
「……ハ、ハク?
……え?…ぁ…ちょっとぉ…
何もこんな時に話さなくても……」
「何?俺に話って?」
握られた手から誠司さんの熱を感じる。
自分とは異なる温かな体温。
意識すると感覚が更に研ぎ澄まされてしまい、私の手はそこが心臓かのようにドクドクと激しく脈打っているし、手汗も酷い……
「……えっ…とね。
誠司さんは、ただ自分の気持ちを知って欲しいだけだって言ってたけど…
それじゃ、フェアじゃない気がして…誠司さんのことを私はどう思っているのか考えてみたの。
気持ちを聞いた時はびっくりしたけれど、それと同時にそれまでの誠司さんの言動が腑に落ちたし、その好意が正直嬉しかった。
…でも、私は一人の女性である前にこの森の魔女薬師。生死に関わる依頼中に他のことなんか考えちゃ…」
「うん、わかってるよ。
大丈夫。ちゃんとわかってるから。
俺だって…本当は今の状態で気持ちを伝えるべきではないことはわかってた…
わかってたんだけど、トマスのことがあって気が気じゃなくて…
ごめん……困らせて…
俺の告白は保留にしてくれていい。
今は考えなくていいから…この呪いが解呪出来たら…もう一度考えてもらえる?」
「……うん…」
困っていた私に負担をかけないように、でも、告白が無かったことにならないような提案をされれば、了承するしかない。
「あー、よかったぁー!
無かったことにしてくださいって言われたらどうしようかとヒヤヒヤした。
あ…れ…
なんかホッとしたら……」
小刻みに体が震えている。
顔色は蒼白で苦痛に耐えるように眉間に皺を寄せ、よく見ると冷や汗が流れている。
いけない!毒が浄化しきれてないんだ。
「ハクー!
お願い、ハク!
誠司さんを家まで運んで!!」
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