第18話 見定め


「…シルヴィア?」


見上げて様子を伺う。


[ハクも了承してあの者をマリーの護衛に着けているのかい?]


「ええ、そうよ?

急を要するからアンのところには自分が行くって…」


[……そうか。

ハクは認めてるのだな。


マリー、

あの者を私の所へ連れてきておくれ]


「え?ここに?!

いやいや、そんなことしたら……」


[連れてこないと言うなら私が出向くまでだ]


「え?どうして…

森には入ってないでしょ?」


[うん、そうだね。

でも、気になるから…]


「シルヴィア、待って!

私、納得出来ないわ!

彼は、ただの仕事の依頼者なのよ?

あなたが心配するような間柄じゃないわ!」


[マリーが、そうであっても向こうはそうではないようだよ?

マリーからまだ新しい私の知らないオスの匂いがするし、まだ薄いが欲の匂いがある]


「……え?

シルヴィアそれは…どう言う……」


[話しはここまでだ。

マリーは、暫く眠ってておくれ]


「え?…シル…ヴィ…ア?……」


〔催眠〕を掛けられ、倒れるマリーをシルヴィアは優しく支え、寝床へとテレポートさせた。


[私のマリーも巣立ちの時なのか。

それもあのか……]







マリーが森へ入ってから数分たった頃。

森がザワザワと騒ぎ出し、奥から凄い気配が漂ってくる。

そして音もなく俺の前に現れたのは、白銀のユニコーン。


[お前が、マリーの依頼者かい?]


柔らかな口調に対して圧が凄い。

大気がビリビリと震えている。


「はい。セージと申します」


膝を折り、挨拶をする。


[私は、シルヴィア。

お前と話したい。ついて来なさい]


「はい、承知しました。

あ、あの、シルヴィア様、マリー様はどちらに…」


[心配ない。私の寝床で眠っているよ]


そう言うと、後は無言で森の奥へ奥へと進んでいく。


暫く歩くと開けた所に出る。

そこでシルヴィア様は止まる。


[セージ…だったね。

お前、マリーが好きかい?]


ストレートなその言葉にどう答えたらいいのかと詰まるが、何かしら確信があっての言葉のような気がする。ただの問いでないのならば下手に隠すのは得策ではない。


「はい、知り合ってまだ数日ではありますが…、マリー様に惹かれております」


正直に答える。


シルヴィア様は少し考え、

[これまで、マリーよりも見目麗しい高貴なご令嬢がお前の周りには沢山いたのではないのかい?]


「確かに……

そのような方々はいらっしゃいましたが、と崇められ、勝手な理想を押し付けられて話も噛み合わないそんな方々には全く興味は湧きません。


その点、マリー様は、私を勇者と知った上で一個人として対等に接してくださいます。

知り合ったばかりではありますが、私にとってマリー様は気を許せる大切な方です」


所詮、あの人達は自主的にしろ、周りから責っ付かれてにしろ肩書きに群がっているだけだ。どんなに言い寄られても煩わしく嫌悪感しかなかった。

そんな人達と彼女を比べること自体ありえないのだけど…


[…気持ちはわかったよ。

少し…私の都合に付き合ってもらいたい。

一戦、よろしいかな?]


俺に答えを委ねている様でいて、しかし、拒否権は鼻から無い問い掛け。


「…はい、よろしくお願いします」


〔強化〕をかけ、剣を鞘から抜き構える。


[ほぉ…、自身と剣に〔強化〕か。

魔力もなかなかあるのだね。

流石は勇者だ。

では、遠慮はいらないかな?]


そう言い終わらない一瞬の間。

嫋やかな見た目とは裏腹に音も立てずあっという間に距離を詰めて角が迫ってくる。

それを既の所で避け、間合いをとると同時にたくさんの〔氷の槍〕がこちらに向かってくる。〔盾〕で防御し、防げなかったものを剣で捌きつつシルヴィア様へ距離を詰め、小さな隙を見つけると〔烈火〕を纏わせた剣をシルヴィア様目掛けて振り下ろす。


ピシッと音を立ててシルヴィア様の〔氷の盾〕にヒビが入った。


[おぉ!

コレにヒビが入ったのは久しぶりだね]


いつの間にか本来の嫋やかなシルヴィアに戻り、面白そうにヒビの入った〔氷の盾〕を見ている。



[セージ、付き合わせてしまってすまなかったね。そして、ありがとう。

どうしても自分で確認したかったのだ。

マリーの事もあるが、勇者セージ自身も知りたかった]


「…それはどう言う事でしょうか?

私は、シルヴィア様とは面識は無いと思うのですが…」


[ああ、確かに直接の面識はないよ。

しかし、私の末の同胞はらからがお前に…いや、貴方に助けられたのだ。

戦っただろう?先の戦で沢山のキメラと…]


そう言われて、フラッシュバックするかの様に鮮明に思い出される。

沢山の魔物と戦ったが一番最後まで苦戦したのは、元の形も何だったかもわからないキメラ達だった。








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