第17話 到着


はぁー…寝れなかった…

寝れるわけないじゃないか…

あんな不意打ち



咄嗟に抱き止めた時の柔らかさとふわりと漂うパウダリーな甘い匂い。

アルコールでほんのり熱った耳やうなじが目の前にあって…

上目遣いで俺を見上げる長い睫毛に縁取られた少し潤んだ深緑の瞳。ぷるんとしたさくらんぼの様な唇……


ダメだ…

思い出しただけでいろいろと…


すぅーーはぁぁぁーーーーー…


落ち着け、俺…


何の心構えもなく咄嗟に支えてしまい、淡い好意だけだったのに、もう欲も含む好意に急成長…

色々吹っ切れてから進行早いな……


はぁ…俺…

こんなに自制きかないヤツだったか?

前はもっと理性的だったよな…



頼む、ハク!早く合流してくれ!

今、抑止力になるお前が必要だよ!!!







カーテンの隙間の明るさで目が覚める。

見覚えのない部屋。


(あれ?ここどこだっけ?)


暫く考えて、

(ああ、昨日宿に泊まったんだった)

と思い出し、起き上がる。


(そうそう、誠司さんとお酒を呑んでて…

誠司さんが部屋を出てから記憶がないな)


覚えてる限りはやらかしてないと思うし、大丈夫だよね。



身支度を整え、出発の準備をしているとトントントンとノック音。


「おはよう、マリー。具合はどう?

朝食は、バイキング形式らしいよ。

食べれる?」と、尋ねてきた。


ドアを開け、

「おはよう…ございます、誠司さん。

二日酔いはないみたいなので、朝食食べに行きましょう」





しっかり朝食をとり、いつもの朝の診察をしてから馬に乗って出発する。


「昨日、飲んでる時も話しましたけど、今日ユニコーンの森に着くと思います。

打ち合わせしていた通りに、一つ前の街で馬を返して誠司さんは宿を取って徒歩で森に行きます。誠司さんが来れるのは、森の入り口までです。後は、街に引き返してください。

私は、ユニコーンのシルヴィアと会って角を貰えるようお願いしてきます。

帰りはシルヴィアが送ってくれますので心配は無用です」


「街からユニコーンの森までは馬では行けないの?二人乗りして行けば早く着くんじゃない?」


「行けないことはないんですけど…馬がオスでもメスでも関係無く興奮しちゃうんです。

だから徒歩しかなくて…」


「そうなんだ。じゃ、…仕方ないね」


何だか誠司さんがしょんぼりしている。

…早く済ませて帰りたいのかな?


「大丈夫ですよ、誠司さん。

シルヴィアには事情を話して早く帰してもらいます。直ぐ家に帰れますからね」


「え?…あー…うん。わかったよ」


「さあ、少し急ぎましょうか」


常足なみあしから駈歩かけあしへと馬の歩法を変えた。




予想より速く街に着き、馬達を返して宿を決めた。

ここからは徒歩だ。そんなに遠くないから半時間程。

途中にを取ったけど、昼過ぎに森の入り口に到着した。


「ここからは、私だけで行きます。

絶対、森に入ってはダメですよ。

私が居る森で男性が入ると、その男性はユニコーンの攻撃対象になってしまいますからね」


「わかったよ。

シルヴィア様に事情を説明して早く帰るつもりなんだよね?

じゃ、もしかしたら今日そのまま帰れるかもしれないなら夕方までここに待機しててもいいかな?」


(確かにシルヴィアに上手く説明出来れば今日帰れるかもしれない…)


「そうですね…お願いします。

でも、上手くいかない可能性が高いのであまり粘らず宿に帰ってくださいね」


わかったよ。と、私を見送ってくれた。



何度も訪れた森なので勝手はわかっている。

鳥達のさえずりを聞きながら森の奥へと進む。木漏れ日が心地いい。


ガサガサッと、葉擦れの音と生き物の気配。



[久しいな、マリー。息災であったか?]


白銀の体軀とサラサラの立髪に立派な角。

バサバサと音がしそうな長いまつ毛に縁取られる真っ青で吸い込まれそうな瞳のユニコーン。


「シルヴィア、お久しぶり。

私は見ての通りよ。あなたも元気そうでよかったわ」


鼻面を私の頬に擦り寄せてくるシルヴィアに私は抱きつきハグをする。


[今日はハクはいないようだな。

どうした?]


「ああ、ハクは、仕事で使う材料の事でアンのところにお使いへ出してるの。

その仕事の件で、シルヴィアにもお願いがあって今日来たんだけど…」


[ああ、角かい?]


「そうそう、ちょうど切らしちゃって。

この前来た時にあるって言ってたよね?」


[あるにはあるが…


その仕事の依頼者は入り口にいる者かい?]


眉間に皺を寄せて尋ねるシルヴィアの視線が痛い。


(あぁ…、やっぱり宿に居てもらった方がよかったかも……)


「…ええ、そうよ。

今回は、ハクの代わりに護衛もお願いしてるの。


ほ、ほら!隣国ジベルタとの戦争を終わらせたのは異世界からの勇者様だって知ってるでしょ?

その勇者様、聖剣の呪い受けてるって噂あったけど、それ本当だったみたいで今回の仕事はその解呪なの。

今はまだ状態は落ち着いてるけど、いつ急変するかわからないから、今回は角を貰ったら直ぐ帰りたいの。

仕事が終わったら、真っ先にお礼にくるわ。

だから、ね?お願い、シルヴィア」


説明をして、精一杯お願いをする。

いつもなら仕方がないなとお願いを聞いてくれるシルヴィアだが反応がない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る