第16話 宿にて


次の村で馬をそれぞれ借りて先を急ぐ。


日暮れまでに次の街に到着した。

急いで宿を探さなければ。

人の良さそうな門番さんにいい宿がないか尋ねると、良心的な価格でご飯が美味しいと言う宿を紹介してもらい、部屋を取った。

それぞれの部屋に荷物を下ろして身を清めた後、1階の食堂に向かう。


「宿のお客さんだね。

最初に話したけど、宿のお客さんのメニューは決まってるんだ。でも、飲み物は1杯ずつ付いてるから好きなの頼みな。

2杯目からは別料金。もし、他に食べたいものがあればそれも別料金で頼めるからね。

今日は、カトブレパスの肩肉と野菜がたっぷり入ったポトフとスパニッシュオムレツと黒パンだよ。

さぁ、好きな席に座りな!」


ふくよかなおかみさんが、テキパキと説明してくれた。

メニューが決まってるのは残念だけど、飲み物が1杯付いてて選べるのはいいな。

周りを見渡せば、どの料理も美味しそうだ。

席に着くと店員さんが飲み物の注文を聞きに来た。


「俺は、エールで」

「私は、炭酸水をお願いします」


「わかりました。

メニューの他に何か頼まれますか?」

「いや、大丈夫だ」


暫くお待ち下さい。と店員さんは奥は消えて行く。


「誠司さんは、お酒お好きなんですか?」


「まぁ、好きかな。

こちらに来てから呑めるようになっとけと教わった。解毒作用もあるしね。

父方も母方もみんな酒豪でね。だからなのかどんなに飲んでも酔い潰れたことはないよ。

マリーは呑まないの?

こっちは16で成人だし問題ないよね?」


「そうなんですね。

私は、前に先代が帰ってきたときに一度だけ。でも、あんまり美味しくなくて…それっきり呑んでないです」


「そうかぁ。

ご飯食べた後、部屋でちょっと軽くて甘いの少し呑んでみない?せっかくの機会だし。

食べた後なら酔いにくいよ」


「そうですね。

甘いのだったら呑んでみたいかも」


「じゃ、後で頼んでおこう。

あ、ご飯来たみたいだよ。

さあ、食べよう」


テーブルに置かれた料理はなかなかの量。

でも、男性は、それでも足らない人が多いようで他のメニューも頼んでいるようだ。


(私、食べきれるかな…)


「こんなところの料理は量が多いんだ。

食べきれないようなら俺がもらうよ?

食べきれそうな量だけ残して俺のお皿に入れて」


そう言う彼の言葉に甘えて、大盛りのポトフの具とオムレツを半分ずつ彼のお皿に乗せる。


「すみません、お願いします」


「気にしないで。

知ってると思うけど、俺よく食べるんだ」


そう笑いならが言うと彼は、いただきますと食べ始めた。

不思議に思ってたんだ。

いつもたくさん食べるのに、メニューの他には頼まなかったから。

それも私が手をつける前に分けるように促した。私が手をつけた後だと食べ残しをあげるのは…って無理して食べるかもと思った?

彼がそこまで考えてるかはわからないけど、提案されなければ私は無理して食べたはずだ。


彼の気遣いが嬉しかった。


「ポトフ、美味しいね。

このスパニッシュオムレツも食べてみなよ。

きのこや野菜がゴロゴロ入ってて食べ応えあるよ」


ゴクゴクっとエールを飲み、満面の笑み。

私もそれにつられて微笑み返した。


「ええ、ほんとに美味しい!」





ご飯を食べ終えると、頼んでおいたお酒と2人分のグラス、つまみを店員さんが持ってきてくれ、呑んでしまわれたら部屋の外の机に置いておいてくださいね。と言うと、片付けをして奥へと帰って行った。





「見た目の可愛いワインですね」


私の部屋の方で呑むことになった。

テーブルに置かれたピッチャーは、チェリーやラズベリー、桃が入ったピンク色のロゼワインのサングリアというものらしい。


「そうだね。低アルコールで甘くて呑みやすいものをって注文したから君の為だろうって向こうも思ったんだろうね」


グラスに入れて、どうぞ。と私へ渡す。


「改めてマリーのお酒再デビューに乾杯!」


「か、乾杯!」


こくりと口をつける。

ワインとフルーツと蜂蜜の甘さ、そして前に呑んだ時よりも控えめなアルコール感。


「わぁ、ジュースみたい。呑みやすい!」


「俺には完璧ジュースだな。

はい、はい!グイグイ呑まないよ。

ジュースみたいに呑みやすいかもしれないけど、呑み過ぎたら大変な目にあうぞ!」


お互いつまみを食べながら、こくりとサングリアを呑み、明日のルートの事やハクの事などを話す。


サングリアが残り1/3ほどで、ストップがかかった。


「もう、この辺で止めとこうか。

もう眠たくなってきたんじゃない?」


「ん…そうかも?」


「慣れない馬での移動で疲れただろう?

明日も馬で移動だし、今日はもう休もう。

じゃ、俺が残りは呑んで片付けとくよ」


「すみません、お願いします」


入り口まで送りますと椅子から立ち上がると、おっとっと…


「あっ…」


よろけて倒れそうだった私を誠司さんが抱き止めてくれた。


「ごめんなさい。

もう…大丈夫です…」


「足元が危ないから…見送りはいいよ。

おやすみ、また明日ね」


バイバイと手を振り、ドアが閉まる。

ガチャリと私の部屋の鍵が勝手に閉まる。


(ああ、誠司さんが魔法で締めてくれたみたい)


そこで記憶はプツリと途絶えた。









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