第8話 ポーション作りの見学



作業部屋に入ると、独特な匂いがする。

然程広くは無い部屋でまず目に入ってきたのは、壁一面の薬棚。そして、薬学書や薬草図鑑などの書物がずらりと並べられ、沢山の遮光瓶と色とりどり大きさも様々な鉱石と魔石。

中央には作業台、その奥には魔石コンロと流し場があり、鍋や理科の実験器具のような物がある。


薬棚の引き出しから慣れた手つきで材料を取り出して中鍋に水魔法で魔力をたっぷり含んだ水を満たすと材料を入れて火にかけていた。


「もしかして、ここの薬棚全てに状態保存が付いてませんか?」


薬棚から出される材料は、どれも素人目にもわかるほど状態が良いものばかりだった。


「はい、そうです。よく気づかれましたね。

短期間の条件付きですけどね」


質問すると答えてくれるが視線は鍋に集中していた。

鍋に手をかざし、魔力を注ぎながら混ぜること数分、中火からとろ火に調節して少し隙間を開けて蓋をすると、作業台にあった大きめの砂時計をひっくり返しす。


「薬棚は、調薬に最適な状態のものを入れると二週間だけはその状態をキープするんです。

先々代がまだ健在の頃だから…10年前くらい前からありますね」


「そんな前から?

状態保存付きの魔道具は、私が来た頃から普及し出したと聞いていたのですが…」


「私もまだ子供だったので詳しくは覚えていませんが、先々代が高齢の為と先代が研究でここを開けることが多かったので、先々代が無理しないようにと先代がご友人達と一緒に製作したと聞いています」


「そうなのですか!?

先代魔女薬師殿は多才なのですね!」


そう口にすると、先代は本当に凄い方なんですよ!と嬉しそうに話しながら、マグカップを出してシロップを入れ、お湯で割ったものを「どうぞ」と俺と自分の前に置き、俺の向かいの椅子に座る。


甘さは控えめでガツンと辛めの生姜とレモンの爽やかな酸味が癖になるジンジャーシロップだった。

好みの味だったので、シロップは自作なのかと聞いたついでに、今、何を作っているポーションはどんなものか聞いてみる。


「ええ、シロップは自作です。

寒い時はお湯で、暑い時は冷やすと美味しいですよ。


今作っているのは、一番需要のある初級ポーションです。とても万能で、庶民でも手に入りやすい価格ですからね」


そう話している横で、砂時計の砂がサラサラともう少しで落ちきってしまいそうなのを確認した彼女は立ち上がり、鍋の蓋を取って木べらで混ぜ、掬っては垂らし掬っては垂らしと状態を見ている。

中火にして3分程煮詰めた後、ティースプーンで掬い取って味見をすると小さくうんうんと頷いていた。

どうやら完成したらしい。

鍋を火から下ろして濾した後、鍋に何やら白い粉を入れ始める。


「それは何ですか?」


怪しげな白い粉がつい気になって聞いてしまった。


「ふふ…、気になりますよね?これ。

これは苦芋をすり下ろして絞って出た水分を分離させ、沈殿したものを乾かした粉で、苦い片栗粉みたいなものです。

少しだけとろみをつけるのとポーションを苦くするために入れるものです」


白い粉を混ぜる前にティースプーンで少し味見させてもらうとほんのり甘くて美味しかった。こんなに美味しいと俺だったらジュース的な感覚で飲んでしまうかもしれないなと思っていると、

「実は、代替わりしたばかりの頃に苦芋の粉を入れないポーションを売った事があるんです。どうしてわざわざ苦くする必要があるのかがわからず、飲みやすい方が絶対いいに決まってると思い込んで…

しかし、…結果は裕福層の嗜好品のような扱いになってしまい大量注文を受けたことで発覚して…それ以来必ず苦芋の粉を入れています。

たとえ、初級ポーションだろうと薬は薬。

何ともない元気な人が飲み続ければ体が慣れてしまい、本当に必要な時に効果が出ないって事になりかねないですからね…

どんなことでも何かしらそうする理由があるのだと言うことを学びました。今ではいい教訓です」と苦笑いで話す。


苦芋の粉をしっかり混ぜ合わせたものをポーション用の小瓶へと詰めていく。

薄緑色の液体は、効き目はいつも通り。

見た目も味も沢山は飲みたくないと思わせる狙い通りの仕上がりのようだ。


注文は20本だそうで、商人から預かっているポーションの保存箱に納めていた。

残りは店の在庫として保管すると注文分の保存箱より高性能そうな保存箱に直していた。


ポーション作りを見てみると、純粋に彼女の薬師しごとに興味が出てくる。

俺の薬もこの様に作るのだろうか?

そんなこと考えていたら、彼女は片付けを手早く済ませて、在庫のポーションを地下に運ぶと言う。

それならと、俺は保存箱を持ち、一緒に保管場所の地下室に行くことにした。


お礼を言われ、

「私は、晩ご飯の準備に入りますね。

できるまで自由にお過ごし下さい」と地下室の入り口で彼女と分かれた。










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