第6話 契約と安堵




〔契約〕も終わり、そろそろ本題の〔解呪〕について話す。


「契約も済みましたし、これからについて説明します。

まず、毎朝〔診眼〕で進行度などを確認するため診察を行います。

診察に関わらず、いつでも何か気になることや体調に少しでも変化があればどんな些細なことでも言ってください。


基本は、調ことです。

次に呪いの剥離と体の浄化を促す薬を作り、飲んでもらって薬の効き方を見ながら呪いを解呪を行い、最終的に呪いはクリスタルへ封印するという流れになります」


「あの…呪いを解呪するだけではダメなのですか?」


「はい、解呪するだけでは呪いを野放しにしてしまうので。

もう、剣は封印されていますよね?」


「はい、この呪いの原因だと分かった時点で封印していただきました」


「そうでしょうね。

なので、クリスタルに封印してゆっくり浄化して無呪化するまで見守ります」


「無呪化するまでにどのくらいかかるのでしょうか?」


「さぁー…どのくらいでしょうね?

私の代で無呪化できればいい方でしょうか。

大丈夫ですよ。次の代になってもきちんと引き継ぎますので」


「そんなに…かかるのですか?

成功しても、大変じゃないですか…」


「いえいえ、そういうのがうちにはあるので通常の仕事の一部ですよ。お気になさらず」


にこりと笑う。


「そうなのですか…」


(仕事の一部だと説明したけれど、何やら重く受け取られているかな?)


小声で、これは秘密なんですけど…と話し始める。


「呪いを封印した鉱石は魔鉱石と呼ばれ、浄化すると強力な人工魔石として高く売れるんです。

うちの大事な資金源なんですよ。

だから、逆にありがとうございます!って感じです」


ちょっと戯けた感じで彼に笑いかける。



伊達に長い歴史があるわけではない。

歴代の方々が封印した世界級が1つ、王都級が3つ、他にも程度の軽いものがいくつか今も絶賛浄化中なのだ。

呪いを完全に浄化した人工魔石達は、加工して身を守る為の強力な魔導具となる。

この人工魔石が、この森の魔女薬師の主な資金源なのだ。なので通常の依頼料は、ほぼ材料費。それに少しの手間賃を上乗せした良心的なものになっている。

こんな森の中でやっていけるのも、この人工魔石のおかげなのでのだ。


「そ、そうなんですか?!

それは…どういたしまして…ですかね?」


硬かった表情が、多少ほぐされたようだ。







「それでは、契約が完了するまで滞在してして頂く部屋にご案内します。


1階は、先程入ってこられた店と続き部屋の応接室、ダイニングキッチンと奥には調薬の作業場があります。

地下もありまして、そこは薬の在庫や材料、食料品や生活用品などの保管場所になってます。


2階に滞在して頂くお部屋があります。

セージ様のお部屋は左手のゲストルームで、お風呂とトイレは部屋に付いています。

では、どうぞ」


説明をしながら階段を上がり、ゲストルームへ通す。


「部屋はお好きなようにお使いください。

私は、これから先に注文を受けているポーションの作製に入りますが、セージ様はどうされますか?

長旅でお疲れでしょうから、部屋でゆっくり休まれるようでしたら…」


「あの…その作業の見学はできますか?」


「ええ、まぁ、一般的なポーションですから構いませんよ。

では、荷解きが終わられましたら1階に来てください」


「わかりました」


部屋を後にし、私は1階へと降りる。


荷解きが終わる頃には少し早いが昼食の時間だ。

手軽に食べられるものをもう少し作ろう。







はぁぁぁーー…


ベッドに腰掛け、安堵で大きく息を吐いた。


「…依頼、受けてもらえて良かった……」


依頼を受けてもらえるのか、解呪ができるのかという不安と、信頼している後見人の紹介という少しの安心感が振り子のように揺れていたから…


しかし、魔女薬師様が転生者だったとはびっくりした。

その存在は話には聞いていたけれど、今まで転生者に出会ったことはなかったから半信半疑だった。


これまで、この世界で出会った人は良い人達だったと思う。

だけど向こうの世界の家族友人、慣れ親しんだもの全てから切り離されて見知らぬ世界に一人。

たとえ同じ人間だったとしても根本的な世界ものが違うという漠然とした疎外感があった。それも最近では感じなくなってきていて馴染んできたんだと思っていた。

しかし、同じ世界を知っている存在に予期せず出会ってしまった。

頭では諦めていたけれど、やはり心は元の世界を忘れられていなかったようだ。

出会って小一時間しか経たず、魔女薬師様のことをほとんど知らないのにもかかわらずこんなにも親近感を抱き、安心感がある。


それに、あんな若くて可愛らしい子だなんて…


後見人と同い年の王都の魔女薬師殿の兄弟弟子だと聞いていたから確実に俺より年上だと思っていた。

こちらの世界の基準で考えると親子と言っても差し支えない年齢差。

きっと、共に教えを乞うことはなかっただろう。兄弟弟子では無く自分の弟子だと言っても障りは無いように思うが、そこは師匠である先々代への敬意の表れなのか…


ともかく、何もかもが予想外で困る。


今までの固く閉ざしていたものを緩ませる小さな熱が生まれた感覚。

だけど、俺は見て見ぬふりをする。

僅かに揺れてしまった感情おもいに再びしっかりと蓋をする。


俺はここには解呪の為に来たのだ。

これからもこの世界で生きる為に。


自分にそう言い聞かせてアイテムボックスを開いて、これからの生活に必要であろうと思われる物を出していく。


「急いで荷物を解いて下に行こう。魔女薬師様を待たせるわけにはいかない」








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