第4話 診察



存外、“呪い”は目に見える形で現れるものも多い。

それは、可視化する事で手っ取り早く恐怖心を煽り、呪いを受けたことを自覚させることにより、より強固になるからだ。


これは、昔も今も変わらない。


勿論、可視化しないものも当然存在する。

こちらの呪いは、少しずつ着実に呪いを浸透させていくもの。“呪い”と気づかず、不治の病として亡くなることも多い。


この様に、呪いには種類や構築の程度に差があるため解呪には2パターンの方法がある。

比較的軽度な呪いは、魔術師の魔法により解呪が可能。

可視化しない呪い・古い呪い・複雑な呪いは、私のような魔女薬師の薬と魔法陣で解呪を行う。



「解呪が出来るか出来ないかは、診てみないことにはわかりません。

とりあえず、今の呪いの状態を確認させてもらってもよろしいでしょうか?」


その言葉を合図に、気配を消して後ろで控えていたハクが、鋭い眼光で私の横に座る。診察に集中すると無防備になってしまうからだ。


ハクを気にしつつも、わかりましたと手袋を外して袖をまくり上げる。

手の指先から肘の上辺りまで表現し難いどす黒い痣がまだらに広がっていた。


失礼しますとそっと彼の手を取り、状態の観察しながら診断を始める。


「症状が現れたのは、どのくらい前ですか?

始めの状態は、どのようなものでしたか?

痛み、痺れなど感覚の有無等、何かありますか?」


「い、痛みや痺れなどはありませんが、怪我などした時の感覚は少し鈍いような気はします。


症状が現れたのは、…3年前くらいです。

始めは親指の付け根あたりにコイン大の痣で、戦闘中に痛めたのだと思っていました。

痣は治らず広がりだしたのですが、痛みもありませんでしたので、そのまま半年程放置していました。

…戦中は怪我人が沢山おりますから痛みも無いただの痣など気にしてられませんので。


しかし、ある事をきっかけにこの痣が知られて医官に見てもらったところ、これは痛めたのではなくだと言われて…。調べてもらったところ私が使っていた剣が原因だとわかりました」


〔診眼〕でも診てみると、確かに親指の付け根を起点に絡みつく根のように張り巡る呪い文字が確認できた。


「結論から言えば、‟血染めの聖剣”の呪いで間違い無いと私も先代魔女薬師と同じ見解です。

このは、心の有り方で症状が進行、または停滞する古い呪いの典型です。

ですが、私が予想していたよりもはるかに進行が遅いですね。

つまり、今の状態は、セージ様の精神力の強さが作っていると断言できます。

このような古い呪いは、単純が故に強力で普通ならこの倍くらいは進行していますし、心の弱い方なら死の淵にあるような呪いです。

よくここまで頑張ってこられましたね。


セージ様。

この解呪の依頼 、私、正式にお受けしたいと思います」



「…魔女薬師殿、ほ、本当ですか……?!」


依頼は受けてもらえないかもと半ば思っていたのかもしれない。

半信半疑で漆黒の瞳が揺れる。


「セージ様が王都で頼られたのは、長い歴史があるこのこの森の先代魔女薬師です。

その先代より私が適任だと判断し、紹介されたのでしたら、それを信じてお任せしていただくほかに私に出来ることはございません」


私は、深く被っていたフードを下ろし、しっかり見据えて言葉を紡いだ。



一瞬、目を見開きびっくりした様に見えたが取り繕うようにすぐに普通に戻った。


(きっと、思っていたよりのだろう。いつものことだ)



暫くの沈黙の後、

静かに椅子から立ち上がり私の元で跪いて私の手を両手でそっと握る。


「…わかりました。

私は、魔女薬師殿を信じ、御心ままにをお任せ致します。

どうぞ、よろしくお願い致します」


もう迷いはないと、力強く爽やかな笑顔で私を見つめている。





顔と身体がカァーと火照るのを感じる。


(わぁぁぁぁ〜!

何で…何でフード取っちゃったかな…私…

手が真っ赤だわ。きっと顔も……)



『セージ殿、我が主の手を離して頂こうか』


言葉は丁寧だが、ピリピリと殺気を発するハク。

殺気でハッと顔色を変えると、私の手をそっと下ろして謝罪をする。


「魔女薬師殿、従魔殿、申し訳ございません…

嬉しさのあまり……

どうか、無礼をお許しください」



顔色の悪さと萎縮してしまっている姿が可哀想で、

「セ、セージ様、謝罪受け入れます。


こちらも私の従魔が失礼しました。

私は森暮らしが長い為、こういう…事には慣れておらず、私の動揺が…従魔に伝わってしまったようです。


まずは、椅子にお掛け直しくださいませ。

これから〔契約〕のことを話さなければなりません」


努めて笑顔で話す。


「…はい、お許しありがとうございます」


まだ表情は固かったが、改めて席へとついてもらった。

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