第2話 先代からの連絡



薬神ダクリの涙”を採取してから数日。


レア薬材を採取した事が夢のような気がしてつい、日に何度も実を確認してしまっていたけど、やっと現実なんだと実感が湧いてきていた。




今日は早朝の採集をしないので少し遅めの起床。


紺色の飾りのないシンプルなリネンロングワンピースに生成りのエプロンスカートを重ね、手早く身繕いをする。



「今日もいい天気!

よし、今日もぼちぼち頑張りますか」


朝食の前にいつもの作業だ。

乾燥させて使用する薬草の乾燥具合をチェック。

まだ乾燥が不十分なら吊るす方向や配置などを調整して、十分乾燥できているものは作業場の薬棚へそれぞれ直す。

それから、最近購入してまだ浄化が完了していない鉱石と魔石、それと代々浄化を引き継いでいる魔鉱石の浄化だ。

昨日まで川の流れでの浄化だったけれど、今日から太陽光での浄化に入るので木陰に魔法陣を描いた敷物置き、その上へそれぞれ置いていった。





作業を終え、朝食を食べ終えた後に紅茶を飲んでいると……


ピーヒョロロロー ピーヒョロロロー…

鳥の鳴き声が2度聞こえた。


「あ、先代アン従魔ウェントだ!

珍しいなー。こんな早くに…」


テーブルの横にある出窓を開け、お水とおやつを用意する。

従魔ウェントは、窓の止まり木に静かに降り立ち、お水とおやつに口をつけると首から下げていた袋から器用に封筒を置くと口を開けた。


【…おはよう、マリー。ハク。

久しぶりだね。元気?】


従魔ウェントから“アンジェリカ”こと“アン”の声が尋ねる。


アンは、この森の先代魔女薬師で私の兄弟弟子であると共に実質的な師匠でもある。

元は貴族のご令嬢だったらしいが、母親の病がきっかけで薬に興味を持ち、死別を機に家を飛び出して勘当同然で先々代おばあさまに弟子入りをしたそうだ。

私が、この年齢でこの森を継ぐことになったのもアンの“薬の研究をしたい!”という長年の夢を叶えるため。

今は、王都で精力的に薬の改良や新たな薬の開発に日々取り組んでいて、この数年でいくつもの改良や新薬を発表している魔女薬師界の中で知らない人はいない有名人なのだ。

そんなアンはかなりの美人。私とは親子ほども年齢差があるのだけれど、私が物心ついた頃から見た目がほとんど変わらない。若返り薬使ってるんじゃないの?と思うくらいに…

一言で表現するなら、豪快なサバサバ系 美魔女キャリアウーマン

でも、研究しごと以外はさっぱり出来ない残念女子様なんですけどね。


(薬に関してはすごいのに……)


当然モテるんだけど、本人は薬の研究命だから研究しごとに理解ある人じゃなきゃ無理だし、最近は、恋愛が面倒臭くなってしまったらしく研究しごと一筋のようだ。腐れ縁みたいな友人は、王都に何人かいるようで楽しくやっているみたい。



「おはよう、アン。私もハクも元気だよ。

アンは、元気? ちゃんとご飯食べてる?」


ハクは興味なさそうに私の側で伏せてはいるが、耳をピンと立てて尻尾を振っている。


【そう!元気でなによりね。

私も元気だよ。ご飯はきちんと食べてる!

マリーは、いっつも心配性だなー。】

アハハーっと豪快に笑っている。


「だって、アンはすぐ研究しごとに没頭しちゃって食べるの忘れちゃうでしょ!

メイドジョアンナさん達を困らせないでよね!」


【分かってる、分かってるって!

ちゃんと食べてるから心配しないでー。


そんなことより用事があって連絡したんだ!

3日前、私の所に知り合いから紹介された依頼者が来てね。

診察したんだけど、私よりマリーの方が適任かと思って紹介したよ。

詳しい事は、従魔ウェントが持ってきた手紙に書いておいたから目を通しておいて。

きっと、マリーとも話しが合うはずだよ。

そろそろそちらに着く頃だからよろしく!】


詳しく聞こうとすると、手紙に書いてるし、会えばわかるからと教えてもらえない。

どうして教えてくれないのかと膨れっ面になりながらも、とりあえず“薬神ダクリの涙”を採取したことを伝える。


【そっか…、やっぱりこの依頼しごとはマリーが適任ね。

大丈夫、大丈夫!マリーなら完遂できるよ。

薬神様は、使えるものにしか“薬神ダクリの涙”は与えないんだよ。自信持ちなさい!】


激励するとアンの従魔ウェントはぺこりと頭を下げて枝から飛び上がり、家の周りを一回りした後、王都へと帰って行った。



片付けが終わってから従魔ウェントからの封筒を開けて手紙に目を通す。



「…あぁ……


この内容が本当なら依頼者はかなりの大物じゃない…


確かに話は合うかもだけど……」


気が重くなり、長いため息をついてしまった。








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