魔女薬師マリーの非日常
雪橘
第1話 貴重な薬材
「こ、これ…もしかして…
“
私は、震える手を必死に抑えつつ実を傷つけないよう慎重に採取した。
*
いろんな鳥のさえずりと風が揺らす木々の葉音。
まだ朝霧の残るしっとりした森の空気を肌に感じながら、従魔のハクといつものように薬材を採集中。
手に持った年季の入った採集専用の蔓かごの中には、朝露と魔素をたっぷり含んでキラキラと光る草花やきのこや木の実でいっぱいだ。
この世界に点在する森は、多少の差はあるが魔素が溜まりやすく魔物が生まれ住まう場所とされている。
魔素の影響は魔物だけに止まらず、自生する植物やきのこなどの薬材も魔素の影響を受け、森以外で採取された薬材と比べて効能が高いため、大体どの森にも魔女薬師が住む。
そんな森の中でも私が住むメデュシラの森は他の森とは比べものにならないほど魔素が多い。
そのため、魔物も多いがこの森独自の効能を持つ物や元々の効能が特出したものが育つ魔女薬師の起源と言われる森。
そのメデュシラの森の
今代の魔女薬師 “マリー”
それが
私には前世の記憶がある。所謂、転生と言うやつだ。
しかし、名前や年齢など細かいことは思い出せず、大雑把な記憶だけなんだけれど…
魔素や魔物が存在するのだから、人にも大抵は魔力がある。
魔力の優劣にランクがあり、最高ランクの赤から始まり、紫、青、緑、黄色となる。魔力量には個人差があるが、努力次第で増せることはわかっている。
属性はその人の気質に左右され、得意不得意がある。
私は、転生が影響しているか魔力量が膨大で最高ランク“赤”。
この“赤”の魔力持ちだったため、捨て子だった私は
その時の溢れ出る魔力を制御出来ずに自分を傷つけては治すという私の状態を見て、両親は貧しい平民で高価な魔力封じの魔道具を買うことができなかった人達だったのでは?というのが
両親を知らないのは少し寂しいけれど、でも、私は
通常、高ランクの魔力持ちは、10歳ならないうちに親元から引き離されて魔術師として死ぬまで国に囲われる。
だけど、私は、この森の後継者として例外的に
『マリー、今日の採集はこのくらいにしよう』
そう話す従魔のフェンリルの“ハク”は、とても優秀なパートナだ。
この魔物が多い森の中を採集して回れるのもこの森の主であるハクのおかげ。
私の従魔になって10年以上。私の体力も把握していて帰りの体力も考えた上で採集のストップをかけてくれるのだ。
友であり、兄妹であり、私を守る騎士のようである唯一無二の存在。
「わかったわ。
でも、あの低木にある薬材反応が今まで見たことない反応なんだよね…
気になるからそれを採取してからでいいかな?」
『ああ。いいだろう。そんなに気になるなら仕方ないしな。
でも、もうそれだけだからな』
「うん!ありがとう、ハク!」
ハクからお許しを貰ったので、〔探索〕でマークされた低木のところに近づいて探してみる。
「こ、これって…もしかして…
“
木々の葉に隠れるように生っているピンポン玉程の透明な実を見つけた。
“
重篤な状態異常をも回復させる効果を持つ実
実は劣化することはない
上位ポーション、解呪補助薬、若返り薬の材料の一つ
慌てて〔鑑定〕をすると、目の前にこの説明文が現れる。
“
効能が特出していて寄生する条件も定まっていないため本当に薬神の力が働いているのではないかと言われ、素材専門の
私も見たのはこれが2度目。
1度目は、先代の超お得意様の依頼の調薬の時で、先代がポンっと気軽に私の手に置いた物がこの“
闇オークションに出品するとお城が買えるくらいの価格になることもあると聞いて、私は実を乗せたまま極度の緊張で石像のように動けなくなってしまったっけ…
そんな“
興奮を抑えきれないままドキドキしながら観察する。
寄生して実らせる実は、基本一個。
私は、震える手を必死に抑えつつ実を傷つけないよう息を殺して慎重に採取し、蔓かごへ入れた。
「……や、やったぁー…
“
嬉しさのあまり両手を振り上げ、つい叫んでしまう。
『“
それを使わないといけない依頼者が来るかもしれないな…』
そう呟いたハクの言葉が、舞い上がって小躍りしていた私を現実へと引き戻す。
そうなのだ。
魔女薬師が自分で“
「そんな危機的な状態の依頼者が来ないことを切に願うわ……」
一生に一度は採取したいと思っていた貴重な薬材を採取できたけれど、気は重くなりながら帰路に就いた。
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