幼馴染
たなゆう
第1話
幼馴染
夜のファミレスで史帆は1人、泣いていた。正確に言うと1人ではなかった。テーブルの向かいでミラノ風ドリアを食べているメガネの男がいる。
男の名は西坂良一。会社の同期社員である。結衣が1人で泣いているところをたまたま、やってきた西坂に見つかってしまった。
「話なら聞くよ。だって俺たち幼馴染じゃん」などと馴れ馴れしく話しかけられた。家が近所で学年が一緒だったくらいで「幼馴染」扱いされては堪らない。小さい頃に一緒にどこかに出かけた記憶もないし、登下校を共にしたこともない。
ただ、小中高と地元の同じ学校に進み、同じクラスになったことも何度かあった。高校の時、史帆は髪を茶色に染め、化粧をするようになった。もともと容姿が整っていたこともあって、クラスでも俗に1軍と呼ばれるような派手なグループに所属するようになった。
高校1年の夏、階段の掃除をしていると、同じエリアの掃除を割り当てられた同じクラスの湯浅という太った男に話しかけられた。
「加藤さんって、西坂と幼馴染なの?この前、西坂から聞いたんだけど」
努めて普通な感じで話しているが、震えた声から緊張していることはしっかり伝わってきた。
「違うよ。」
史帆は短く返した。西坂の5軍男子内部でのマウンティングの為に自分の名前を使われたくはなかった。
湯浅は驚きと安堵の入り混じった表情を浮かべて。
「そりゃ、そうだよねー。」などと分かったようなことを言っていた。
湯浅によると、西坂は、史帆のことをあいつ呼ばわりして、自身と史帆の超断片的な交流エピソードを得意げに話していたらしい。
思い出すだけで、虫唾が走る。気づくと、史帆は泣くことも忘れて、目の前の小男を睨んでいた。
高台で花火を見た後、上司の若林のクルマでアパートの近くまで送ってもらったが、そのまま帰る気になれず、近くのファミレスで夕食をとることにしたのだった。注文したパスタに手をつけることもなく、史帆は泣いていた。ただただ、涙が溢れて止まらなかった。そこに西坂がやってきたものだから、周囲の客からはまるで、史帆が西坂に泣かされてるみたいに見えているかもしれない。
西坂が急に立ち上がる。
「ちょっと、トイレ行ってくる。」
史帆は黙って店を後にした。
幼馴染 たなゆう @71093232
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。幼馴染の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます