(5)Memoryと違う君
翌日、気が引けるがいつものように格闘ゲームをプレイするために仙山線の電車に揺られ、仙台駅に到着した。
「はあ……」
これから始まるクリスマスのキラキラムードにため息をつきながらいつものように東西自由通路を歩いてゲームセンター「ニューワールド」へ向かう。歩きながら昨日の正午に出会った天使のコスプレをした人物「九里香」のことを考えていた。
「結局何だったんだよ、あいつ」
仙台駅東口のエスカレーターを降ってバスターミナル付近を歩いていると、不意にトントンと左肩を叩かれた。
「はい? うえっ!」
振り向きざまに背後にいた人物の綺麗な細い人差し指で頬が突かれた。
「にひひ」
にやりと悪巧みでもするような笑みを浮かべる九里香がそこにいた。
「ああっ! 九里香!」
俺は腕を振り回して九里香を遠ざけようとした。
「おい、昨日『俺の前に二度と現れるな』って言ったよな!」
「前じゃなくて、後ろから現れたよ」
「おい!」
「じゃん、けん、ぽん!」
九里香が腕を振り上げるので思わずつられてしまった。直感で咄嗟に出した俺の手はパー、九里香はチョキ。俺の負けだ……。
「勝者の言うことが絶対なんでしょ? 今ので私の勝ち」
「……」
「君の昨日の言葉、
くっ……クソがあ。不意をつくなんて卑怯な奴だ! けれども「勝者の言うことが絶対」という絶対服従の言葉には何事にも変えられない。俺は素直に従うしかなかった。
「ねえ、後ろから頬をつついたのも勝ちに含めていい? 君がゲームやってるところ見ていたいな」
「なんで俺に……付き纏うんだよ……!」
「だって君、吉秋君でしょ?
「えっ!? なんで俺のこと知って……それに兄貴のことまで……」
「ゲーム画面見てたら『YOSHIYA』って名前書いてあったんだもん。吉弥さんは私が救いの天使の活動を始めた時に初めて会った人でね、弟さんがいること話に聞いたことあるんだ」
エクステⅦにはゲームセンター内で発行したICカードを読み込むことで自身の対戦記録を登録する機能がある。
俺の持ってるカードは自分のものではない……『YOSHIYA』のデータ、本当は兄貴のものだ。そのことを初めて他人に気付かれたことに俺は酷く動揺してしまった。
「それにスマホについてる必勝のお守り、吉弥さんと一緒に
俺はポケットからはみ出していた紫色の必勝のお守りをサッとしまった。
「その肩にかけてる黒のショルダーバッグも弟さんの誕生日プレゼントのためにって吉弥さんが仙台駅前のビルで買ったものだし、君が着てる服、吉弥さんが前に着てたものと全く同じで──」
「わ、わかった! やめろ! も、もう勝手にしろ……俺ニューワールドに行くからな!」
一緒に歩きたくなかったので早足でその場から離れると後ろからバサバサと鳥が羽ばたく音が聞こえ俺は驚いた。九里香が背中の大きな翼を広げて俺の頭上を翔けていき複合商業ビル「delta」の入り口前に降り立ったんだ。
「私も行くからねー、先行ってるよー」
唖然とした。天使のコスプレじゃない。あれは……本物の翼だ……!
「お、おい待てよ!」
慌てて九里香の後を追った。
複合商業ビル「delta」に向かって走っていく最中、辺りを見回すと九里香ににこやかに手を振る者や俺と同様に驚き戸惑ってる人の姿があった。非現実的な出来事に頭が変になりそうだった。九里香に追いついて色々と問い詰めてみたが多くを語ろうとはしなかった。
「飛びたいと思ったから飛んだ。ただそれだけ」
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