(4)Extra stageの鏡決戦
眼鏡男DEUSがニューワールドに来なくなった代わりに、九里香と名乗る天使の格好をした女性がエクステⅦプレイ中の俺のもとに連日のように現れるようになった。
俺は初めて会った日から無視し続けてやった。だって気味が悪いし。そうしてしばらくすると話しかけることを諦めたのかゲーム画面を見て「へー」とか「ふーん」と俺の背後から感心しているような声を上げてばかりいた。そんなある時──。
『Challenger(挑戦者)が出現!』
ついに天使が俺に戦いを挑んできた。
「なっ!?」
身体を傾けて奥のゲーム筐体を見ると奴が「にひひ」と可愛げな笑みを浮かべながらこちらに顔を見せていた。
くっ、挑まれたなら返り討ちにしてやる。
俺は使い慣れた燃え盛る身体をもつ豪傑のキャラ「イフリート」を瞬時に選択すると、相手はふにゃふにゃとカーソルを動かしてキャラ選択を悩ませた後に俺と同じ「イフリート」を選択した。
『ラウンドワン ファイッ!』
両者同時に放たれる攻撃。続く乱撃の嵐。その最中、俺は不思議で奇妙な感覚に陥った。これは──俺の操作感にそっくりだ。まるで鏡、ミラー対戦だ。俺が操作したイフリートと相手のイフリートが全く同じ動きを繰り広げるのだ。
一度立ち止まってみると一瞬相手も立ち止まるが、そこから転じてコンボ技を仕掛けてこようとする。それは俺が得意とするコンボ技だった。
「なんだこれ? なんなんだ……?」
それに気づけばあとは簡単だった。俺の得意なコマンドは熟知している。それを逆手に相手の攻撃の合間、こちらの動きに対応できない瞬間を狙ってチクチクと刺すようにカウンターを仕掛ければいいのだ。決着は呆気なくついた。体力ゲージを大きく減らすことなく俺は勝利した。
『フィニッシュ!!』
「えー……負けちゃった……」
ゲーム筐体の奥からしょんぼりと奴の声が聞こえてきた。イフリートの奇妙な操作の仕方をする人物に俺は声をかけずにはいられなかった。
「何なんだよお前……俺と同じ動きしやがって……」
「あっ、わかった? ふふん。私はね、一度見たものを再現するのが得意なんだ」
その発言にやっぱりこいつは気味が悪い奴だと思った。なんだこの猿真似ヤロウ……早く俺の元から去ってくれという気持ちが強くなり奴に口調強めでこう言い放ってやった。
「勝者の言うことは絶対だ……もう二度と俺の前に現れないでくれ。うっとうしいから!」
──ガガーン!
ん? 頭の中に女の声が響いた気がして俺は思わず手のひらで額を押さえた。
目の前にいる天使の格好をした女はかなりショックを受けた様子で俯きながらゲーム筐体の椅子から立ち上がるとトボトボと暗い顔しながら俺の元から去っていった。少しばかり罪悪感を覚えたがそんなこと気にしない、気にしてやるもんか!
……誰も、どん底に堕ちた俺のことを気にしてくれやしなかったんだから。
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