(2)Challengerが出現
仙台市街地郊外にある俺が住むアパート近くの国見駅から中心部に位置する仙台駅へ15分程ガタガタと電車に揺られる。
山形から仙台を繋ぐこの仙山線は国見駅から仙台駅まで大学や専門学校が駅近にあるために、朝の電車内は通学中の学生達でひしめき合っている。なんとも居心地が悪い時間帯だ。俺はパーカーのフードを被って窓際の座席で小さく縮こまっていた。
「ウエッ、エフッ、エフッ!」
隣に座るおっさんがうっさい咳をしたため俺は付けていたマスクを大きく広げて少し距離をとった。新型コロナ移されたら堪らんよ。
仙台駅に到着すると改札を出て東西自由通路を歩いていく。向かう先は仙台駅東口にある複合商業ビル「delta《デルタ》」だ。
通路を見回すと装飾がされたクリスマスツリー飾られていた。サンタやトナカイのラメ入り加工のキラキラステッカーが店先に貼られていて、駅構内のスピーカーからジングルベルが流れている。
ほんの二、三週間前まではハロウィンの装飾がされていたのに、いつの間にかクリスマスムード一色に染まっていた。この時期は仙台駅前にカップルが大勢行き交うから苦手だな。一人孤独にトボトボ歩いているのが恥ずかしくなってくる。
すれ違っていくカップルが「この世で一番幸せな二人組」と言わんばかりにマスク越しでもわかるような満面の笑みを浮かべていた。
バスターミナルに続く東口のエスカレーターに乗って、ぼんやりと考え事をしながら
「今年もあと少しで終わりか──」
* * *
2020年、今年は本当に奇妙な年だった。
未知の殺人ウイルスが世界に蔓延したことも驚いたが、6月に仙台市街地の上空に現れた「あれ」にも驚かされたな。未確認飛行物体のことだよ。
昼頃からニュース番組で報道され始めてネット掲示板でも話題沸騰になった。当然、俺も目撃した。
アパートの窓から青空を見上げると宙に浮かぶ白点が見えた。最初は誰かが手を離してしまった風船かなんかだと思った。
目の前の道路を歩いている人や他の建物の窓から顔を出した人達が皆、空を見上げていた。ヘリコプターや飛行機が飛んでいたけれども、その飛行物体はそれらよりもさらに超えた高度で浮遊していたように見えた。
ネットニュースに飛行物体を拡大撮影した写真が掲載された。それは気球のような見た目で、その気球の下にアンテナやソーラーパネルのような物が備え付けられていることが分かった。
コメント欄を見ると、九州地方にある大学が飛ばした気象観測用のラジオゾンデなんじゃないかという結論で話を終わらせる人が多かった。
ところがここからが面白い。大学側がその飛行物体の関与を否定したんだ。
国土交通省仙台航空事務所は飛行物体に対して、「航空法に基づく届け出は出ていない」と公表した。仙台管区気象台も「気象台のものではない。正体が全く分からない」と困惑。
調査に乗り出した宮城県警も不明、陸上自衛隊も不明。
翌日になるとその飛行物体は空から消えて無くなった。結局、正体が何なのか分からない。行方知れずのまま話題が途切れてしまった。
* * *
バスターミナルを横切った先にある複合商業ビル「delta」に設置された電光掲示板が音楽番組を流していて今週売れた曲のランキング発表をしていた。画面の右側に朝9時と表記されている。まあまあな時間に到着したな。
ビルの中に入って、エスカレーターに乗り二階に向かう。このビルの二階にはファミレスと小さな映画館があって、そしてもう一つ、俺の目的地であるゲームセンター「ニューワールド」がエスカレーターを上がった先に見えてくる。
俺は格闘ゲームが大好きで毎日のようにここに通っている。開店したばかりだから
クレーンゲームや音ゲーの筐体を横切った先、店奥にあるのが去年から稼働が始まったアーケード版対戦型格闘ゲーム『エクストラステージⅦ』だ。通称エクステⅦ。
勝利して稼いだスコアはランキングに登録される。店内ランキング1位、そして全国ランキングの順位も上々、俺はそれなりに強い位置いると自負していた。
トレーニングモードを選んで入店してから一時間ほど対戦の練習をする。相手が扱うキャラがどんな技を、戦術を、コンボを繰り出すのかイメージトレーニングするのが日課だ。
練習を終えると全国対戦モードに切り替え、会ったこともない相手と対戦に夢中になる。胸踊る最高の時間の幕開けだ。
そうして時間も忘れるほど遊び倒し、ゲームセンターに設置されている時計の針が十二時を回った頃になると……「奴」がやってくる。
『Challenger(挑戦者)が出現!』
ゲーム筐体の画面にデカデカとその言葉が表示された。
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