第二幕 New Worldの天使(2020.12.5)

(1)New Worldへようこそ



 須藤薫すどうかおる? そんな奴知らんよ。


 俺の名前は中田吉秋なかだよしあきってんだ。俺も九里香に会ったよ。あいつは不思議な奴だ。どこから来たんだって聞くと青空を指差して「私は『ソラ』から来た」って言うんだ。


『ソラ』って何だろうな。きっと天国や天上の国みたいな摩訶不思議な世界の話をしているんだと思う。頭の上に輝く輪っか浮いていて、背中には大きな翼が生えてるしな。


 この前、九里香の頭の上に浮かぶ天使の輪っかが気になってじっくりと見つめてみたんだよ。一体どういう原理で浮いてるんだろうなって思ってさ。俺は驚いたよ。あれは天使の輪っかなんかじゃなかった……。


「魚」だ……!


 耳を澄ますと「ヒュンヒュンヒュン」って微かに風を切る音まで聞こえてくる。金色に光り輝く魚が目で追うのもやっとな速さで高速回転して円を描いていたんだ。それが……天使の輪っかを形作っていた。


 九里香はいったい……何者なんだ?


 そもそも『使』って何だよ!?



 * * *



 第二幕

 New Worldの天使



 * * *



 目を開けると世界は真っ暗闇だった。寝ぼけ眼で目を擦り、身体がぬくぬくとしていて暖かく、どうやら布団の中に潜っているようだった。


 昨日の夜から点けっぱなしにしていたテレビから朝のニュースが流れている。


『東京都で先日、新たに過去最多となる534人の新型コロナウイルスの感染が確認されました。それまでで最多だった493人から41人増え……』


 ハァ……まーたこれだ。コロナコロナ、いつになったら終息するのやら。


 2020年、。新種のウイルスが蔓延して世間を震撼させる恐ろしい時代になるなんて誰も予想できなかっただろうさ。


 新型コロナのせいで咳き込む人を恐れる。


 いついかなる時もマスク&アルコール消毒。


 外出自粛。大学閉鎖。


 24時間営業の店が時間短縮で早めに店じまいする……。


 2020年以前の日常は完全に消え失せてしまった。


 ま、それでも俺は平気で外出歩くんだけどさ。「ニューワールド」が俺を待ってる。雨が降ろうが槍が降ろうが誰にも止めることはできない。これは俺の「死活問題」だからだ。人生、最後の最後までたっぷり楽しく生きようや。


 もぞもぞとヤモリの如く布団から這い出て、備えつけられている梯子はしごに手をかけてロフトからリビングへ降りていく。


 テーブルのそばにあるゲーセンでGETしたアニメキャラが描かれたクッションに座り、牛乳をかけたチョコ味のシリアルを食べながらテレビ画面の左上に表示されている時刻を見た。8時か、まあまあな時間に目が覚めたな。


 高校時代に使ってたジャージから外に出てもギリ許せる服に着替えて黒のショルダーバックを肩にかけると朝支度を済ませた俺は玄関扉を開けて外へ出た。


「さらば、俺だけの世界!」


 この世界は「──」に囲われている。


 扉を閉める前に最後に見た光景はロフトの柱から吊り下げられた白いロープが風に吹かれてゆらりゆらりと揺れているところだった。


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