第四幕 深夜高速の天使(2021.1.13)
(1)仙台北環状線・セレナーデ
僕は天使様と一緒に深夜の高速道路をドライブしたことがある。
彼女は自身を
車窓を流れる
僕は、
* * *
第四幕
深夜高速の天使
* * *
天使様と初めて遭遇した日のことを話したい。あれは……夜空に美しい満月が浮かぶ23時の仙台北環状線での出来事だった。
僕は街路灯が点々と灯る県道に愛車ラシーンを走らせていた。仕事の疲れから心身共に
他に覚えていることといえば、多くの住宅街を
断片的にしか聴いていなかったが、どうやら県内に住まう有名な若手プロピアニストがインタビューを受けているようだった。
『ピアノを始め……きっかけを……えてください』
『はい、母がピアノの講師をしてまして、物心ついた頃から……ピアノに触れる機会があり……』
『
『地方のコンサートや結婚式場、病院などの施設から依頼されて演奏をすることが多……ですね。私も母同様にピアノ講師をしていて、小中学生の生徒さんの家に家庭教師のような形で教えに行っていました。今はコロナ禍で演奏活動が減って……残念に思いますね。生徒さんにはリモートでピアノを教えています』
インタビューが終わると若手プロピアニストが演奏を始めた。作曲者グレン・ミラーの『ムーンライト・セレナーデ』のピアノアレンジ。スピーカーから心落ち着く曲が流れる。
「うっ……まずいな……」
睡魔が襲い大きな
車が
車から前方、五、六メートル先に横断歩道を渡ろうとしている女性の姿が見えた。
「危ないッ!」
急ブレーキをかけたものの、車はすぐに止まることが出来ず、女性が立っていた場所から何メートルか超えて停止した。
心臓が激しく脈打つ。
「あああ、やってしまった……」
きっと顔を青ざめていた。頭上から足の爪先にかけて冷たい何かが駆け抜けるのを感じた。人気も車の通りも完全に無い交差点の中心で僕の車は停止していた。車のヘッドライトが照らす先やバックミラーを見ても横たわる女性の姿が見えなかった。僕は思わず
「車の……下か……?」
身体がひしゃげて、血塗れになっている女性が車両を
『はい、宮城県警です』
「あ、あの……ひ、人を車で轢いてしまいまして……」
僕は
『では、車両の下に女性がいるかもしれないってことですね。実際に確認はしましたか?』
「いえいえ!! 怖くて下見れないですよ!!」
『生きている可能性が有れば救急車を呼ぶので本当に女性がいるのかどうか一刻も早く確かめてください』
「はい……」
震える手でドアを開けて車から降りると、アスファルトの地面に手をついて恐る恐る車両の下を覗き込んだ。車両の下には……何も無かった。
「……?」
立ち上がって周りを見回したけれども横たわる女性の姿が無く、僕は首を
「何も……無かったです」
『分かりました。今パトカーがそっちに向かいますので待ってて下さい』
「はい……」
電話をしてから10分も経たずにパトカーが事故現場にやってきてマスク姿のガタイの良い警察官二人に事情聴取された。一人は僕と会話を続け、もう一人は車両の下を覗き込んだり周りを見回していた
「名前を教えてください。職業も」
「
「あー、あのでっかいビルの。で、その女性がどんな格好をしてたか覚えてます?」
「え、えーと……」
僕は女性の容姿を思い浮かべた。事故を起こしてしまったことに気が動転していて何も考えられずにいたが、当時の状況を思い浮かべると女性の格好が異様だったことに気付く。
「金髪で、ブラウンのニットワンピースを着ていて、頭の上に金色の輪っか……それに背中には……大きな……」
警察官が
「大きな翼が生えてました。天使の格好をしてましたね……」
この発言に僕は頭がオカシイ奴、危ないクスリをやっているとでも思われたらどうしようと思った。警察官が二人でヒソヒソと何か話し合っていた。
「ハァ、これで……六回目っすね……」
「ああ、全くだ。あんヤロウめ」
「……」
二人の警察官が何を話し合っているのかよく分からなかったが、結論を導き出したようで、こちらを見ると険しい顔を
「いやいや、災難だったね君! 見間違い、気のせいだ。今後、安全運転を心がけなさい」
「は、はあ……」
警察官が書類にさらさらと簡単そうに記入すると現場から引き上げていった。人気の無い交差点付近で僕はポツンと
「僕が見たものは一体何だったんだ……?」
この出来事が僕の人生の中で最も長い、長い夜へと話が続いていくことになる。
僕は一度、天使様を
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