第一幕 金木犀の天使(2019.10.6)
(1)私、金木犀の天使と出会う。
人を想う清らかな心は未来へ紡がれていく。
これは──自分の人生の道しるべを新たに掴み取るための『私』の物語。
* * *
秋の夕暮れ、茜色に染まる空の下。
私は、北仙台の駅のホームから夕空に交差する飛行機雲を眺めていました。飛行機雲が好きだからではありません。目頭が熱くなって、涙がはらりと
「うっ、くっ、ううう……」
駅の改札を抜けて自宅までの帰路を歩いていると市街地の通りに立ち並ぶ街路灯がポツポツと明かりを灯し始めていきました。
道行く人々が私の顔を見てはギョッとして、視線を
それもそのはず。私は顔をしわくちゃにして、目を真っ赤に腫らしながら大粒の涙を流していたからです。先輩看護師の
『おい、グズ!』
『聞いているのかって聞いてんだよ、グズ!』
鼻を
床に散乱する私が着ることがない大きすぎるシャツやランニングシューズ、男性向けのファッション誌が詰まったダンボール箱に
孤独感に苛まれる私が唯一、心許せるのが「パキラちゃん」と呼んでいる小ぶりの観葉植物だけでした。
「うう、パキラちゃん……どうして私っていつもこうなの」
肌寒さを感じるような外気の中で、私はパキラちゃんに悩み事を打ち明けます。下手なアドバイスをする他人より、何一つ口出ししないで淡々と話を聞いてくれるパキラちゃんの存在が何よりも有り難かった。
繰り返される味気ない日々、恋愛の悩み、上司の愚痴、将来への不安。
思い悩んでいたことを洗いざらい全て打ち明けたことにより、落ち着いてきた私は手で涙を拭いました。
その時、ふと何かが鼻を掠めます。
それは切ない想いにさせる金木犀の甘い香り。
香りのする方へ目を向けると、ベランダの鉄柵にもたれて、街の遠景を眺めている端麗な顔立ちをした女性がいることに気付きます。
いつの間にここにいたのだろう。その女性の硝子玉のように透き通る青い瞳と肩までかかるふわふわとした
そして何よりも驚いたのが、頭上に光り輝く光輪が浮かんでいて、背には純白の大きな翼が生えていました。金木犀の甘い香りはこの人から漂ってきます。
秋の夕暮れ、茜色に染まる空の下。私は金木犀の甘い香りがする天使様に出会い、そして哀しみに満ちた日々から思いもよらぬ未来へと歩み出すことになるのでした。
* * *
第一幕
* * *
過去と未来が交錯して生み出される新たな天使の物語、ここに開演す──。
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