第3話 葛藤
リード&ライトは、小説投稿サイトとしては後発の部類に入るが、それでも近年はユーザー数が増えて、小説を投稿しても新着に留まっていられる時間は短い。
新規で登録したユーザーが何のテクニックも知らずに投稿したら、多くの作品の中に埋没し、一日のアクセス数が一桁だっておかしくない。
当然栞を挟んでくれる人も、評価を入れてくれる人も、アクセス数を上回るはずがないので、ランキング入りなどは夢のまた夢だ。
そうした状況が長く続けば、読んでもらいたい、評価が欲しい、一度くらいはランキングに載ってみたい……と思うようになるのだろう。
評価してやったんだから、こっちも評価してくれよ……例え規約に抵触しようとも、それはユーザーの偽らざる心境なのだろう。
「はぁ……ガルムとか帷月とかはBANされたって当然だと思うけど、末端の連中は深みに嵌る前に救い出して更生とか出来ないものかね」
一人幹部クラスに食いこめば、芋蔓式にリストアップされるユーザーを眺めていると、仕事として引き受けたものの虚しい気分になってくる。
俺の役割は、クラスタに関わった者をリストアップして、証拠を抑え、報告する所までだ。
そこから先の処分の決定には、俺は関わらないのだが……。
リード&ライト小説大賞の応募が始まってランキングが発表されれば、俺の心境も変わるのだろうか。
11月に入ると、野々坂クラスタの動きが慌ただしくなって来た。
そろそろリード&ライト小説大賞の対策に動き出すようだ。
ここまで3ヶ月ほどの間に、更にクラスタの子にあたる3人と孫にあたる5人と接触し、連なるリストを入手した。
ひたすら新参者を装い、はいはい、分かりましたとイエスマンを演じ続けた結果、だいぶクラスタ内部でも名前が売れてきてしまったらしい。
掲示板サイトのリード&ライト関連のスレッドでも、野々坂クラスタの一味として雲野鋭狗の名前が頻繁に登場するようになっている。
当然、作品に関してはボロクソに叩かれていた。
やれポエミーだ、主人公の性格がキモすぎる、文章力なさすぎ、テンプレすぎて1話でブラバとか……俺が狙った通りの感想が来ているのだが、それでも自分で書いた作品なのでちょっと凹む。
そして、掲示板サイトでは、俺は自宅警備員として認定されていた。
実際、7月の終わりに辞令を受け取ってから出社はせいぜい週に一回で、あとは自宅で活動を続けている。
ニートの設定にしているので、活動は昼過ぎから深夜というパターンになっている。
潜入捜査のためには良いのだろうが、期限が来て報告を終えた後、まともな社会人に戻れるのか、だんだん自信が無くなっていく。
捜査活動で残されている懸念は、野々坂本人の証拠が掴めていないことだ。
殆どの幹部からは、ダイレクトチャットのスクリーンショットなどで証拠固めが終わっているのだが、野々坂だけは決定的な証拠が掴めていない。
ただ、SNSでも徐々に絡み始めているので、リード&ライト小説大賞が始まって、順位が出始めれば余裕を失ってボロを出すはずだ。
クラスタの幹部連中は一人残らず証拠固めをして、アカウント停止に追い込むつもりだが、ちょっと俺の気持ちを揺らがせる事態が起こった。
クラスタに参加しているユーザの中に、これは……と思わせる存在を見つけてしまったのだ。
クラスタの幹部に接触してクラスタメンバーのリストを手に入れると、ザックリと作品を読んできた。
作品に目を通す時には、どうしても編集者としての目線で眺めてしまうのだが、殆どは趣味で楽しんでいるならば良いんじゃない……と思うレベルだ。
ところが、1作だけ俺の琴線に触れる作品があった。
なによりも主人公と周囲の人々のキャラクターが、とても個性的かつイキイキと描かれている。
だが、小説投稿サイトでは人気の無いミステリーなのでPV数は伸びず、クラスタ以外のユーザーには殆ど読まれていない。
小説投稿サイトで一番人気が高いのは異世界ファンタジーで、ミステリーは不人気ジャンルだ。
リード&ライトでも、それぞれの累計ランキング1位の作品で較べると、アクセス数は100倍以上の開きがある。
「この人は、ミステリーじゃなくキャラ文とか書かせれば、売れっ子になりそうなんだがなぁ……BANされるのは、もったいないよなぁ……」
投稿した作品が読まれないのは辛い。
俺のようにワザと読まれないように書いていても、クラスタのメンバーが一話目を読むだけの状況は悲しい。
まして、自分では面白い、みんなに楽しんでもらえると思って書いている作品が見向きもされないのは辛いことだ。
「やっぱ相互とか仕方ないのかねぇ……いやいや、規約違反だし、程度で差を付けて良いかどうか、判断するのは俺じゃないんだよなぁ……」
少し迷った末に、前の職場の編集長と文芸レーベルに移動した先輩の所に、今の業務を行っている途中で、たまたま見つけた作品だと記してメールを投げておいた。
そもそも、以前所属していたラノベレーベルとは作品のカラーが合わないし、文芸畑で通用するレベルなのかも疑問だ。
それでも澄河ささらの『視線』には、何とかしたいと思わせるほど、俺の編集者魂を揺さぶるものがあったのだ。
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