恋
車窓から見える月が綺麗だった。
私は一寸も遅れることなくぴったりと併走する月を可愛らしく思った。
丸々と太った月は地平線のほんの少し上をすべるように飛んでいた。私は願わくばこの月をいつまでも眺めていたいと願った。
やがて月のゆく先にビル群の影が現れた。月はそのままビルを横薙ぎに削り飛ばした。
根元を急激に失った巨大な構造物は、一瞬だけ宙に浮かんで、それから土煙をあげて次々と墜落していった。
私は平らにならされてゆく街を見て、自分が願ったことを一瞬悔悟したが、下車したことの無い場所だしまあいいか、と月を眺める作業に戻った。
10月29日の帰り道にあったこと 大川黒目 @daimegurogawa
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