重畳
夜道を歩いていると、一人の男に追い抜かされた。しばらくすると、同じ男にまた抜かされた。
先ほどから同じ男に何度も追い抜かれている。悪戯かとも思ったが、本人はいたって真面目そうに道を急いでいる。
5回目に追い抜かされたあたりで、私はその間隔がだんだん短くなっていることに気が付いた。
はじめは10分ほどの間隔があったが、今はもう2,3分に一度は追い抜かされている。
やがて、追い抜いた男の背が見えるうちに同じ男に追い抜かれるようになった。
視界に同じ背中が2つあるのは気持ち悪かった。その背中はやがて3つ、4つと増えていった。
遂に男の身体の前面が、前の男の背中に届いた。男の後頭部に男の顔面が重なる。
その重なりはどんどん深くなってゆき、遂に男は前の男と、その男はその前の男と完全に重なった。
男は長大な一つの連続的な男になり、彼が来た道と進む道のあらゆる地点に同時に存在するようになった。
男はどこから出発しているのか、誰も知らない。男がどこに到着しているのかも、誰も知らない。
私はまるで大百足を思わせる様子でうねり歩くこの男の横を歩きながら、向こう側にあるコンビニへ行く方法をぼんやりと考えた。
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