遮断桿

 夜道に踏切があった。横向きの遮断桿が上がるのを大勢の人が待っていた。


 その閉まった踏切はひどく静かだった。音も光も発してなかった。電車の音も聞こえなかった。踏切の向こう側で待っている人たちの息遣いが聞こえるほどだった。

 踏切はいつまでも開かなかった。長い時間が経っても開かなかった。

 私が来た時には大勢の人が待っていたのだから、よほど長い間遮断桿が下りているらしかった。


 おもむろに二つの警告灯が交互に点滅を始めた。警報がけたたましく響く。長い、長い電車が来た。そして最後に遮断桿が上がった。

 眩しく車窓を光らせながら夜を二つに分けた電車は、私たちにはまるで光の壁のように見えた。電車は眼前をいつまでも通過し続けた。


 先頭で待っていた一人が光の壁に向かってゆっくりと歩きはじめ、やがてその中へ消えた。周囲の人もぽつぽつと続いた。

 そのうち何人かは不審そうな表情を浮かべていた。また何人かは違和感を拭えない表情をしたまま、それでも一人残らず光の壁へ入っていった。


 光の壁はしばらく孤独に光り続け、やがて音の尾を引いて消えた。

 周囲は再び静まり返った。息遣いも止んだようだ。

 やがて二対の遮断桿が、控えめなモーター音を立てて水平へと戻った。

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