呪い
いつも通る道の向かい側にスーパーマーケットがある。
私はそのスーパーが閉まっているところを見たことがなかった。朝であっても深夜であっても、灯りを煌々とともしていた。そしていつでも人に溢れていた。
そのスーパーはとてもきれいだった。どの季節にも薄汚れることはなく、光沢のあるガラスの外壁を輝かせていた。
そのスーパーには笑顔が溢れていた。白熱電球色の明かりの中で、客も店員も屈託のない笑顔を浮かべていた。棚に並んだ食材はどれも瑞々しく、生命の輝きが凝縮されているようだった。
私はそのスーパーに入っていく人を見たことがなかった。出てくる人を見たことも無かった。そのスーパーの話をする人に会ったことも無かった。
しかし私は、ここが途轍もなく楽しく、暖かで、喜びに満ちた場所であることを信じて止まなかった。
ある時、ついに私はこのスーパーへ行くことに決めた。一度足を踏み入れたなら二度と出られないと心のどこかで確信していたが、それでもなおスーパーへの誘惑を断ち切れなかった。
私は意気揚々と道を渡り、輝く自動扉の前に立った。扉はあっけなく開いた。私は満面の笑みを浮かべて中へと進んだ。
その瞬間、私はスーパーから出ていた。
それはまるでスーパーに入った瞬間、扉のこちら側と向こう側が入れ替わったようだった。私はスーパーに拒絶されたのだった。
私は顔面に笑顔を張り付かせたまま呆然と立ち尽くした。道を行く人が不審そうにこちらを盗み見た。
スーパーは今も変わらず輝いて存在している。
しかし、私はその一角を直視することが出来ない。再びあそこに向かおうとする厚顔さは持ち合わせていない。
ただひたすらに、スーパーへの感情と拒絶された記憶が時間で薄れるのを待っている。
しかし、この憧憬と羞恥は、きっといつまでも瑞々しくあるのだろう。
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