第67話 そろそろお家帰る

「っともうこんな時間かよ。」


[あら夜だわね。]


「さてといい加減帰るか……家に。」


[ここからが作戦の良いところ。]


「ひとまず家戻ってから、日葵の同行を探れば良いんだよなぁ。ってもそんな分かりやすく動くもんか?」


[知らない。]


「え薄情、まあいいや世話になった。悪かったな邪魔して。」


「……別にいい。」


「んじゃな。」


別れ際はあっさりと、まあ今生でもないしって訳で。これで帰ってみたら実の妹に注意して、いずれ訪れる元カノとの対決も待ってて?なんでこう俺って忙しいんだろうか。安定がほしい。

とにかく今はまっすぐ帰る!どんな状況であっても、あの家は俺の家つーかのんびりできる場所だし。


「ふーんふふーん。」


のんびり歩く帰り道、明日からの不安とか悩みとかぜーんぶ気にならないっての。にしても昔馴染みに会ったし遊びでパーっと楽しんだし……少しは頑張れるか。


「……」


目の前で俺を見つめる、橘さんさえいなければ。


「津原くん学校ぶりだね。」


「そりゃそうだが、どうして橘さんがこの道に?よほど用が無きゃいないと思うんだが。」


「そうだね。やっぱり津原くんはよく分かってる、私は用があってここにいるんだ~。」


「ああそう、俺は家に帰るところなんださようなら。」


良くない気がする、これ以上は非常に良くない気がすると俺の本能が察していた。何だ何故だどうしてだ?どうして橘さんはここにいるんだ?

いや考えるな時間をとられるなこれ以上ここにいるべきじゃない。さっさと横を通り抜けるしか


「用があるって言ったよね。」


嫌な予感は外れてくれない、彼女は俺に用があるみたいだ。


「……用って?」


「津原くんさ、何処にいたの?」


「何処って自由だろ。今日は休みだったし、俺も色々と行きたい場所があるんだから。」


「そーゆう話じゃないよ。」


「他に何があるって」


「家にいないで何処にいたの?」


「だから行きたい場所に」


「今日の話じゃないよ~……私が言いたいこと、全部分かっててはぐらかしてるよね。」


「よく、分からないな。」


しらばっくれるのも限界か?これまでの推測が全部ハマったみたいだ、俺の妹は繋がってて連絡を受けた橘さんがここに立ってる……のかもな。

ただ今日帰るとも伝えてねえし、この道を通るなんてのもただの気分だ。なのにどうして出会うんだ?


「単刀直入ってやつだ。どうして俺が家にいないと知ってる?この道にどれだけ立ってた?」


「昨日遊びに行ったらいなくてさ、日葵ちゃんに聞いたら泊まりに」


「嘘はやめとけ。そういう態度をとるから、俺もはぐらかすんだぞ。それに母さんに聞けばすぐ分かるさずだ。」


「……」


「日葵から聞いたのは当たってんだろう。ただし直接じゃない、メッセージか何かを受け取ったと見てる。」


「実の妹さんを疑ってるの?家族なのにかわいそうとか」


「さあな、事実がどうなってるかだけ知りたい。それを橘さんがずっと黙ってるなら、俺だってあんたと向き合うことは絶対にありえない。嘘つくなら嘘つかれたって仕方ないだろ?」


「なんだか今の津原くん、前よりカッコいいね♪」


「今のあんたはたいそう不気味だよ。」


「じゃあ本音で話し合う?今から二人っきりで……」


なんて怪しい雰囲気だろうか、この提案に乗っかるのは非常に危険なわけだ。だが橘さんの腹の底が覗けるかもしれない、どうするべきか。


「ゆうて何処で話すんだ?そっちが本音で話したいだなんて、よほど秘密にしたい話が多そうだし。」


「津原くんのお家は?私部屋にはお邪魔したことないから、ちょっと楽しみかも。」


「却下だ、俺の部屋にいれたくないし。」


「冷たいな~、私だって傷ついちゃうよ。」


「そうか。俺を色々と傷つけてくれたあんたに、人の心があったもんだ。」


「津原くん傷ついてたの?全然気付かなかった。」


「今のも嘘だ。あんたに本音を話すわけないだろ、何も効いてないって言えば満足か?」


「それはそれでショックかもね、でもこれからどうしようか考えちゃうかな。」


「だから嫌なんだ。」


「いいねこうやって喧嘩みたいな話するの、楽しい♪」


「それをさせてくれなかったのはあんただ。」


「もっと津原くんが踏み込んでくれてたら、とも言えない?」


「こんなつまらない責任の押し付けあい、続くなら俺は帰る。正直あんたの腹の中もどうでもいいんだ。あんたの評価も、嘘だらけの不気味人間止まりだがな。」


「うーん津原くんに嫌われちゃうのは……それも面白そうだけど。」


「で?どうすんだよ、俺はもうこの会話に興味がない。」


「……そうだ思い付いたよ。私の家にこない?津原くんずっと来たがってたよね。」


「ずっとじゃねえ。最初の頃だけだ、その後はどうでもよかった。」


「でも知りたいんじゃない?私がどこに住んでて、どんな生活してるのかとか。」


罠だ、これは間違いのない罠だ。


「それは危険しか感じないが。」


「でも誰もいない、二人っきりの秘密だよ?本心から話せる少ない場所じゃないかな。」


「……そこに行けば、俺の知りたいことは全部知れるのか?」


「少なくとも私に津原くんのことを伝えてた人と、これから津原くんにどんな事が起こるのかは知れるんじゃないかな?」


「……悪くはないか。無事に帰れると保証されるなら。」


「帰れるかどうかかぁ~、まあ平気じゃない?私力じゃ津原くんに絶対勝てないし。」


「そうか。」


いざとなれば……いや違う。これは計画されていて、間違いなく橘さんはなにか備えをしている。すなわち俺が勝てる試合じゃない負け試合だ。


「分かった付き合おう。」


「えっそれって」


「ふざけるな、その提案に付き合うって意味だ。」


「はいはいそーですか……まあ来てくれるなら、私としては嬉しいかな。」


「その前に家に連絡する、心配されたくねえし。」


「一旦津原くんの家に寄るとか」


「なしだ。」


「冷たいね、でも面白くなってきたかも。」


「あーはいはい俺は全くだ。」


そしてスマホを取り出す。この場面で俺が連絡をとり、万が一の助けを期待できる相手は誰だ?考えろ素直に家に電話したって、赤飯用意されるだけだ。

この場合俺の事情を知っていて、有事の際にゃすぐ捜索でもしてくれそうな連中……もう一つしか答えないよな。そう思い俺は電話をする。


「もしもし母さん?」


「は?何言って」


「これから帰るとこだったけど、急用で帰れなくなった。」


「進士……?」


「あーそうそう、橘さん覚えてる?あの子の家に寄って帰るんだ。」


「バカ進士あんたっ」


「茶化すなって母さん、何もないって。おう、おうちょっと話するだけ。遅くなるかもだけど心配いらないから、じゃ。」


「進士待っ」


ピッと電話を終える。頭に真っ先に浮かんだのは、さっきまで一緒にいたあいつ。ここで俺に何かあっても、浅原が橘さんの家を知っているはずだから駆けつけを期待できるだろうな。……死ぬことはないはず。


「話終わった?じゃあ行こっか♪」


「ああ、お手柔らかに頼むよ。」




こんな形で、話が進むなんてな。

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