第64話 再会は嬉しさと気まずさのブレンド

「あぁちゃんとぉ、待っててくれたぁ。」


「勝手に逃げないですよははは!」


家へと消えたギャルを待つこと数分、正直三回くらい帰ろうかと思いましたよ。ただ本人って可能性もあるし?ご家族さんだってオチもありそうじゃん?

そうして卒アル片手に、俺も見えるようにと肩の触れあう程度で覗く……


「ちょぉ~、どしてぇ離れんのぉ?」


「いや別に?距離感とか全然気にしてないけど?」


「へぇ~……」


ええ嘘に決まってますよ、考えてもみろよ。昔の恩人かもしれない人の変わりようもあるけど、普通に知らん女子と距離近いとか罠かもしれんだろ。


「ほぉらちゃんと見るぅ。」


「あーどうもどうも。」


「んーとぉ、津原くんはぁ。」


拳三つくらい間を開けながら、限界まで首を伸ばしてアルバムを見ていく。俺の名前は先程伝えたからだろう、それを頼りに俺のクラスを探してくれている。

そしてお目当てのページが開かれた。


「おおこのクラスだ。」


「んねぇ見づらくなぁい?」


「いや全然?むしろ首が伸びて気分が良いんす。」


誤魔化しつつも写真を探す。何せ名前知らねえから、かすかに覚えてるあの顔を探し続ける。あいつとしか交流無かったレベルだし、適当に見回してても分かるだろ。


「ねぇ津原くんてぇ」


「あっ!いた!」


ようやく探し人を見つける……輪郭だけですけどね。いや多分間違いないはずだが、どうだろうこいつだよな?こいつだよな誰か俺に答えを教えてくれよ。


津野前穣つのまえみのる、て名前だったのか。」


「!!」


どうやら俺が世話になった奴は、津野前さんらしい。にしても穣って、聞いただけじゃ男みたいだな。これなら逆に見つけやすい。


「あーありがとうございました。それじゃ俺は」


「読書魔神だぁ!」


なんだ読書魔神て。 


「それじゃ。」


「ちょぉ待ってぇ!」


危うく片腕捕まれる所だったがそうはいくか、最近の俺は面倒事センサーフル稼働している。このギャルに捕まるのは非常に不味いと俺の本能が!


「待ってぇ~読書魔神~!」


多分終われてる。だが俺とて帰宅部の端くれ、相手はギャルぞ。メイクとか崩したくない物があるなら、俺の方に分がある。このままファミレスまで走る。

がむしゃらに走りしばらく、ファミレスが見えた俺は一息大きく吸う。あそこに辿り着けば、あそこにさえ行ければと深呼吸を……なんだか甘ったるい匂いもするが。


「つぅ、つかまぇたぁ~。」


「おっと?」


ドンと背中に人がぶつかる、普通に捕まった。甘い匂いもギャルの香水らしい、まさか俺に追い付くとは……やるなこやつ。


「おい平気か?汗かいてるし、ほれハンカチ。」


「あ、ありがとぉ……違うぅ!魔神のせいだからぁ!」


「その魔神て誰なんだよ、いや多分俺の事なんだろうけどさ。人生で初めて言われたっての。」


「当然っしょぉ、直で言うのはぁ失礼だしぃ。」


「もしかして俺の知り合いか?正直誰だかさっぱりだけど。」


「みぃ~の事ぉわかんなぁい?」


「いや知らんてみぃなんて奴。」


みぃって自分をそう呼んでんだろうが、つまりみから始まる人名のはずだ。今こそ働かせるのだ俺の脳細胞っ!


「み、み……ミラー!」


「……あんさぁ、みぃも怒る時はぁ怒るよぉ?」


「……いや聞きたくないんだけど、もしかして津野前穣さんなの?」


「そぉだよぉ!」


頬を膨らませ汗だくギャルは、どうやら俺の恩人だったアイツらしかった。ひとまずハンカチを渡し、汗拭きなされと促す。


「ほんっとぉ疲れたぁ。どぉして逃げたぁ!」


「追われたら人は逃げるっての、それに津野前だと分からなかったから仕方ねえって。」


「もぉぉお!!」


「ほらプンプン怒らないの、どーどー落ち着け。」


「んでぇ?読書魔神はぁ、今頃みぃ探してぇどしたのぉ?」


「さっきも言っただろ?昔の友達を探してただけだ、その用も終わったから帰ろうとしただけなんだ。」


「ふぅん。」


「じゃあな、走らせたのは悪かった。ちゃんと津野前さんって覚えとくわ。」


ありがとう俺の恩人であり親友だった津野前よ……等と背を向け歩き出そうとする俺の背中。


「逃げんなぁ!」


おもっくそ首を捕まれた。


「……何ですかまだ用ありますか?」


「久しぶりなのにぃ、これで終わりなのぉ?」


「つってもほら、3年ちょい会ってなかったしよ。もうそこまで間が空くと、なあ?」


「なぁ……?」


「いやほら、もう他人みたいな」


「ひどぉい!」


「あープンプンすんなって。」


なんとなく、懐かしさみたいなのは感じていた。昔も俺が困らせて怒らせて、怒んなってなだめてた。そりゃそうだ、俺はその頃世間知らずが服着て歩いてたんだし。何回か拳を交わす喧嘩もあった……え、俺女子とガチ喧嘩してたの?


「相変わらずぅ、読書魔神はぁ駄目人間だねぇ。」


「何を言うか。あれから随分成長したっての、そっちこそ何があればギャルになってんだ。」


「んとねぇ~中学デビュ~ぅ?」


「へー。」


「興味ぃ!!」


「うわーすごいなー中学デビュ-かー。」


「むぅぅぅぅ!!」


「……なあ津原、どういう経緯で女子を怒らせているんだ?」


「おう華狼、こいつが俺の恩人だ。」


「むぅぅぅぅう!」





果たして華狼は、信じてくれているだろうか。

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