第63話 あいつこいつそいつどいつ?

「まあなんだ!俺はいい話だと思った!」


「だろ才太、お前なら分かってくれると信じてたさ。」


「サマルたんには遠く及ばん、もう少し泣けるシーンを追加してくれ。」


「アニメと比べるな俺のは実話じゃ。」


「津原にも色々あったと……それでその、あいつ?さんは誰なんだ?」


「誰……と言いますと。」


「そんだけ仲良しならよ!まだ付き合いあんだろ!」


「いわば進士の恩人、いつか会うならお礼でも伝えねば。要は全ての始まりではないか。」


「もしかして学校にいるか?だが津原が他の生徒と話してる姿は……」


「おーおーそんなに知りたいか、そうかそうか。」


俺がこの話を聞いたとしても、謎のあいつの存在は間違いなく気になるよなぁ。そしてその正体が明かされる時、きっと話は大きく動くわけだ。

俺が世話になったあいつ……今の俺を築いてくれた、めっっちゃ明るく底抜けお人好しあいつの、名前?


「ん?そういやあいつ、何て名前なんだろうな。」


「なんだよ進士!冗談キツいぜ!」


「いくらなんでも、俺達はそれで騙せないぞ。」


「と、友達だったのだろう?それで名前が分からないとは。」


「いやほら、話を思い返してみろよ。あいつの名前聞いてねえし、向こうに自己紹介した記憶もない。お互い騒がしい奴と静かな奴、それで通ってた。」


不思議だ、今思い返してそう思う。ダル絡みもされたよく連れ出された、学校でもまあまあ話すことになっていた。あれ?名前は?ん?


「まあほら!お互い名前も知らねえけど、友情は確かにそこにあったんだよ!多分。」


「……いやいや厳しいだろ!」


「たわけが進士!それすなわち、作品を見てるのに主人公の名前知らないと同義だぞ!」


「津原……自分にも擁護できん。諦めて袋叩きにあうんだ。」


「あれめちゃくちゃ叩かれてる?まじかよ津原って奴最低だな!」


もちろん逃げられませんでした。その後すごく説教みたいな、諭されるような時間が続きました。人としてどうなのかとか、何してんのお前とかはい。

だって仕方ないし……あの頃の俺の頭って読む本の設定とか、そっちに頭使ってたんすよはい。


「じゃあせめてよ!性別はわかんだろ!」


「あーそれなら……いけるはず。男だ間違いない。」


「言っておくが進士、今のお前は信用度0だ。」


「それに津原よ、ちゃんと相手を見て接していたのか?大方本を読むため、下を向く生活だったのでは?」 


「あ、遊ぶ時はちゃんと顔見て、しっかり接してました~。だから俺には分かる、あれは男だ。一緒にほぼ強制でサッカーとかしてたし。」


そこ間違えてたら俺自信なくすわ。いやまじ関わってからはほとんど一緒だし、ただ中学から違っちまったんだよなぁ。今頃どんなイケメンになってるやら。


「あいつはあの明るさで、きっとどこかでスターになってんだろ。」


「だといいな!つか会いに行きゃいいだろ!」


「中々大胆な提案をするな才太、だが面白そうだ。」


「しかし向こうもしばらく会ってない、急な再会は危ない橋の気もする。」


「な、なあ俺の話だよな。なら俺の意見をきいて」


「「「静かに。」!」」


俺にはもう……発言権がなかった。あれおかしいな、なんだか涙が出てきちゃった。俺悪いことしたかな?


「じゃあそれでいこう!」


「進士も気が紛れるだろう。」


「自分も賛成だ。それに今の津原には、味方が多い方が良い。」


「あ、あの~、どのような話に?」


「それはだな進士!」


「今日の集まりはここで終わりだ。」


「そして津原は、今から恩人の家に向かう。」


「……ん?」


「直接行ってこい!」


「荒療治だと理解はしてる。だが進士、向こうさんの名前も知らないは、失礼だろ?」


「い、いやそうだけど今からって」


「頑張れ津原。」


「せ、せめて誰か着いてきて……」


全員が顔をそらしやがった。この場に味方なんて、おらんかったんやなって。


「んーまあ分かったよ。こうして思い返せば、確かに失礼なのは俺だろうしよ。」


「んじゃ終わったらここ集合な!」


「俺達は待ってるぞ進士。」


「ドリンクバーを楽しむとしよう。」


「お前ら……くたばれ!」


捨て台詞を華麗に決めた俺は、席を立ち記憶にあるあいつの家を目指す。てかそうじゃん、行ってみて引っ越しなりでいなかったら意味ねえじゃん。

しかも小学生の記憶、正しい確証もねえしなぁ。てか俺忙しすぎだろ、昨日は朱音の世話になって今日は男子の集まり。かと思えば俺の過去探しになるとは。


「……てか俺、このまま引き返してもバレないんじゃ。」


一瞬天才的な閃きがあったが、やると言ったらやらねばならん。ひとまずこの目で見よう、そして会えたらラッキーいなきゃバイバイ。

これはある意味賭けだ。あいつの顔も子供の頃のまま、なんて事は断じてあり得ないわけで。さぞイケメンってのは確定してんだがなぁ。


「んっと確か、この辺だよな。」


ふらふらと記憶頼りに歩き、かつてのあいつと歩いた道を辿る。そうして歩き続け……見覚えのある家が見えた。和風の門構えと、昔ながらの日本家屋。

表札は……見ても名前知らねえから意味ねえじゃん。


「……え、俺インターホン押すの?」


このまま家の前をぶらつく、のは通報されそうで困る。かといって訪ねてみるも、やっほー小学生の時に会った根暗読書男だよ!も無理がある。

んーと唸りながら、俺の出した結論は……


「帰るか。」


帰宅である。こうして表札は確認した、この名字だけでも収穫として帰ろう。何も手柄なく帰るよりは、うんマシだと思って胸を張り帰ろう!

俺は頑張ったぞ!俺はやったんだっっ。


「ねぇ君さぁ、どしたん?」


「あっはいすみません、決して怪しくはないんですよ。」


「いやいやぁ、すんごぉく怪しいよぉ。」


「いや~あはは!そっすよねはい。」


しまった見られてた。めちゃギャルに絡まれてしまった、俺の青春ライフもここまでか?いや昨今では優しいギャルが流行ってるからきっと平気なはず。


「ん~白状しますと、この辺で昔の友達を探してまして。」


「友達ぃ?」


「はい。小学生の頃の、なんですけど。久しく会ってなかったので、ここら辺に来ればいるかな~と。」


「あ~ねぇ、なるほどねぇ~。」


「分かってもらえましたか。」


「ちなぁ君の名前はぁ?」


「俺の名前?」


「みぃ~はこの辺長いからぁ、ピンとくるぅ?みたいなぁ?」


「は、はあ。」


いや俺の名前で分かるわけねえだろ、と内心で突っ込んでおく。まあこの辺の子だったなら、もしかしたら同じ小学生だったかもだし……言うだけ言うか。


「俺は津原進士って言います。」


「ふぅん……ちょぉっと待っててぇね。」


そう言ってギャルは覚えのある日本家屋に入って……




おい待てその家に入っていくの!?

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