第62話 結局中身なんてよく見えない
「まあまあまあ!良い出会いだったろ?その証拠に、今でも付き合い続いてんだからよ。」
「そりゃそうか!ありがとな進士!」
「こ、ここは感謝するのが正解か?」
「少なくとも自分はそうは思わないが。」
「まあとにかく、終わりよければ全てが良いんだ。」
「で!」
「どうして。」
「そんな面倒を。」
「「「したんだよ!」」」
「……ちっ、忘れとけよそこは。」
「肝心なところだろ!」
「思えば進士、お前の過去話は聞いた覚えがないが?俺達も聞こうとはしてこなかったが。」
「自分なんかまだ浅いからな、聞く発想もなかった。」
「あーあーはいはい。分かりましたよ……何だっけ?俺は津原進士って名前で~趣味は~。」
「うるせえ早く言え!」
「……才太のストレートさは、時折驚かされるな。」
「なあ津原。言いたくないなら止めておけ、自分等も無理にとは」
「言ってねえけどなぁ。まあお前らのばっか知ってるし、俺の昔話もしてやるさ。」
過去の話ってほら、例え友達とて話す機会少ないじゃん?こうほら、どっかのはずみでいやいや俺は~とかであれ?てなる的な。
まあ心で言い訳並べた所で、こんな深い奴らに会えた今に感謝しとくか。
「そうだな……過去話っていうかあれだろ?俺のちょっかい癖はどうしてだって話だろ。」
「そうそこだ!」
「中学で俺達で思い付かないとなると、もっと前からなのか?その性格は。」
「だが高校だとそんな素振り……ああ橘さんに向かっていたのかもしれんな。」
「るっせえその名前はNGだ。」
さてと俺のどうにも人に関わる、いや特定の人を気にしてしまう性質は何処から来たんだ。元々俺もそっちにいたからなのか。
こんなつまらない話、俺はこの場を盛り上げることができるのだろうか。
「さてと……入り口はそうだな。高志の推測は正解だと言おう、俺が他人にちょっかい出すのは小学校の体験からだ、と思う。」
と思う、なんて他人行儀で始めた話。仕方ないんだ、自覚せずこうなりたいみたいな、これは憧れの話だからな。
「俺の根っこの部分はそう、人見知りの1人好きだ。まずそこは周知だと思うんだが?」
「嘘くせえ!」
「ますます分からないぞ。」
「どこが周知だと……」
「っかしいなぁ~。ようは昔はこんなじゃなかったんだよ、俺とて心を閉ざした幼子の時代があるわけ。」
誰にもとは言わないさ。ただ一部今明るい奴も、昔は暗い時代があったくらいの話。俺別に明るくねえけど。
「あっさり話してやるさ。俺は小学生の時は内気なもんで、話題に混じるのも友達作りも0点だった。今となっちゃどれくらいか覚えてないが、俺個人は別に悪くなかったさ。」
そう、俺は決して悲観してなかった。周りから見れば可哀想な子だろう、だが昔から1人でいるのは好きだった。無理に世界を広げるより、知ってる世界を深く掘る方が楽しかったし。
「そうして1人でずっといた。あの時は本の虫でよ、登校してから寝るまで一冊や二冊読んでた。放課後も休みの日も図書館に寄ってた。遊び盛りの子供達の中で、俺は物語の世界にハマってた。以外だろ?」
話の登場人物に魅了されていた。彼らには芯があり、様々な人と交流して何かを成し遂げていた。存在しない魔法や有り得ない怪物たち、青春を送ったり難解な事件を解き明かす者達。
全てがキラキラして見えた……だから喜んで多くを吸収していた。
「読めたぞ!つまり主人公になりたくてだ!」
「なんだ進士、お前もこちら側の素質ありじゃないか!」
「津原が……本の、虫?自分は夢を見てるのか?」
「だが順調にはいかなかった。先生に放課後呼ばれてな、何か嫌なことでもあったのか?って。本人には言い出しにくい何かがあるって。そんな大人達のやり取りに、俺は……そうだな、冷めちまったよ。」
先生はクラスでいじめがあったら、問題が起きたら何が起きるかを心配していたんだろう。俺は貴重な時間を邪魔された、目の前の大人は何を知っているんだと。子供ながら、ずいぶんバカな頭だと思うが。
「ちゃんと学校には通ったさ。だが本とにらめっこ、そのまま卒業するとばかり思ってたんだがな……事実は小説より奇なりって言葉が、突然俺にも降ってきた。ここからが、お前らの知りたい部分だろ。」
「じゃあ前半いらねえな!」
「ストーリーはオチだけじゃ盛り上がらん、このくらいの密度が良いんだろうが。」
「本当に読み聞かせを聞いてる気分だ、有り得なさすぎる。」
「良いじゃねえかよた話だと思えば。俺としてもその方が、冗談だと全部ひっくり返せるからな。」
まあ全部本当の事だけど、いつか嘘でーす!て驚かせてやる。
「んである日、本を読む俺にしつこく話しかけてくる奴がいた。学年が変わる度に、本ばかりの俺に興味で話しかけてくる奴はいたさ。だがその時の俺は本より大事なもの、思い付かないレベルの重症でな。返事するより、一ページ先を見たかった。」
正直めちゃくちゃ受けが悪かったはず。だって一日目から全拒否だもん、からかってくる奴もいたが……ああいうのは反応しなきゃ飽きるもんでして。
「一度そんな紙切れ、と読んでいた本を無理にとられた事があった。その時幼いながらぶちギレてな、俺にちょっかいかけてくる愚か者もいない。じゃあこいつ何なの?と怒りが増していた。」
今でも思い出す。しつこく呼び掛ける声、視界に頭を突っ込んでくる強引さ。場所を移ろうと追っかけてくるし、帰りもうるせえし……あいつマジでうるせえ。
「正直折れたよ。話を聞けば帰ると思ってな、だが違った。しつこく聞いてきた理由はなんだ?て聞いたら何てんの?だとさ。見て分かれよと思ったね。」
それからも終わらなかった。今日は何してんの?とかそれ面白いの?とか。必ず俺に話しかけてきた。その内そいつを目で追ってたが、他の奴らとも仲良くやってたさ。てか、クラスの真ん中にいた気がする。
「最初は汚い考えだったさ。先生に頼まれたのか、話しかける自分スゲーみたいな。ただすぐに分かった、何の利益もなく俺に話しかけてたのがな。そうやって話しかけられて、相手してたら……違うな。本ばかりで下を向いてた俺が、上を向いたらか。」
俺の小学校の景色は机と本、ただそれだけしかない。それがうっとおしく話しかけられ、初めて手元から顔を上げた……いや黒板は見たよ?授業はあったから。
「クラスの賑やかさとか、はしゃぎ回る奴。うんうるさかった見るんじゃなかったわ。んな中で目の前の奴は俺の目を見て、やっと見たって笑いやがった。これからよろしくって。」
後でそいつに聞いたが、ようは学年変わりの時に言えなかった挨拶をずっと……それこそ俺が折れるまでずっと言いたかっただけらしい。
「一度折れた俺に助かる道はない。何をしていてもあいつは絡んでくるし、俺も相手する方が楽なのを覚えちまった。その内見えてきたんだ、1つに固執してたら分からなかった色々がな。」
誉められたやり方じゃねえだろう。一方的に話しかけて、嫌がる相手の言葉を引き出した。無理やり鍵のかかったドアを、合鍵じゃなく蹴り破ったレベル。
「良くある話だよ。世界はこんなに明るいのかとか、人との馴れ合いも悪くねえとか。まあ全部あいつ仕込みさ。形は歪だが、俺は救われた人間になる。下向いてばかりで、顔も上げなかった狭い部屋から出してもらった。」
「……で!」
「で?」
「それで?」
「お前らも全員下向いてたろ。俺と同族の匂いがしてな、あいつの真似事で良い方向に転がりますように!って突撃したんだ。俺みたいに視野が広がるか、もう手も届かないのかって試したかったのかもな。」
ただの自己満足、エゴで他人の領域に足をいれる。中々無茶な話だが、俺はそれで明るさを知った。そんな教えられた俺が、何か教えれたらと構ったのがこいつらだ。
「……どうだ!感動したろ!」
「まあ良い話だな!」
「ああ良い話だが……うーむ。」
「そもそも自分はそこまで踏み込まれてないが。」
なんだコイツら受け悪いな。
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