第61話 いつかじゃなく今っしょ
「偶然とはいえ凄い話だよな、1日に二度も会うなんてよ。」
「そう。」
「まあ家が近所だとこうなるか。」
「?」
「あーうん聞き流してくれて構わない。」
なぁ~んだ凄く会話って難しいのね。これは会話のピッチングマシーン、俺が投げ続け前嶋は受け取るだけ…いやこれスルーしてる気がするけど。
ひとまず会話を試みた俺は偉い、さてと用事済ませて帰りますかね。
「じゃあな。」
「……」
またその顔か、と思った。
「が気が変わった。暗い帰り道を女子1人で帰したら、後で怒られるからな。」
「そ。」
「とりあえずお互いの買い物しようぜ。」
前嶋はエナドリとチョコバー、俺はスナックとジュースに妹へアイス。あいつ人が出掛ける足止めて、頼むのがこれってなんなん。
とお互いに買い物を終え、コンビニの入り口でまた集まった俺達。つか前嶋すっぽかすとばかり思ってたが。
「じゃあ行くか。」
「ん。」
特に言葉もなく静かな時間が続く。だが気まずさとかは感じない、少なくとも俺はな。先に前嶋の家に送ってから帰るか……アイスが溶けても俺は悪くない。
「先にそっちの家な。」
「……」
はっっっっなさないなぁ!!一言でもお返事とかさぁ!!なんて内心の言葉を飲み込む、俺は大人なんだからふふふ。
「ん。」
「ん?何それ。」
ふと振り向くと、俺に向けてスマホを出している前嶋。レーザーでも出るんか?俺に電波を放出して、操る算段か!?
だがその画面をよく見るとQRコード。読み取れば何か分かる……のか?と読み取ることにした俺。するとメッセージアプリが開かれ、MAを友達に加えますかと文章。
「MA……まさか前嶋かこれ。」
「そう。」
「匿名性ひっく……いや本名を知らなきゃ想像もつかないか。で、これ追加していいわけ?」
「いい。」
「んじゃ遠慮なく。」
と前嶋の事を友達に入れたら、光の速さでメッセージが飛んできた。
[こっちの方が楽だわ。]
[お、おう。]
[あんたは喋れば良いよ。]
「……それもそうだな。」
[でさ、あんた誰なの?いきなり家に来たし、てかなんで学校の先生とか話がなるわけ?意味分かんないって。]
「こっちだと饒舌だな。あれ俺名前言ってない?マジ?」
[大マジだけど。そんな不審者と1日2回も会うなんて、不思議な1日だとは思ってるけど。]
「……もしかして今、俺ってかなり怪しまれてる?」
[あんた誰かも知らない人が、いきなり訪ねてきてプリントを渡してきたらさ。]
「あっはい分かります意味不明ですよねはい。」
[そっちは私の名前知ってるし。]
「んーまあ不思議だらけだよな。」
[さっさと答えた方が良いんじゃない?]
「ってもほら。」
と前嶋に話しかけ指でさす。こうしてやり取りしていたら、もう前嶋の家に到着していた、つまりここでお別れになるってわけ。
「いろんな疑問を飲み込んで、ひとまず帰宅したまへ。」
[「ちっ。」]
「文字打ちながらリアル舌打ちやめろ。じゃあな前嶋、これ以上の疑問はメッセで答えよう。」
そうして前嶋に背を向け歩き出す俺。ピロピロ通知音はうるさいが、俺も早く帰りたいから無視!
「……りがと。」
前嶋が何か言った気もするが……まあ良いか。
と良くない初対面を終えた俺は、一度引き受けたならと先生に前嶋役とされている。明言はされねえけど、前嶋への用は俺に届くようになっていった。
メッセはたまに来たり、俺から届け物があると送る用途にとても助かっている。俺の名前?ああ初日の夜にしつこく問われたから、名字だけ送った。
[今家にいるか。]
[家以外にいるわけないじゃん。]
[胸はって言うことじゃねえぞ、んじゃ届け物あるからよろしく。]
[じゃあエナドリとチョコバー]
[を買っていくんだろ知ってるよ。]
[鍵は開けておく。]
と嫌な意志疎通ができる程、寄る回数が増えてしまった。しかも最近じゃ玄関まで動くのも面倒だと、俺が部屋まで行ってる。
無警戒すぎないか?と以前聞いたが、俺は人畜無害な顔だと誉められた。誉め……られたと思ってますはい。
[今から向かう。]
既読はついた。途中で頼まれ物を買ってやり、開いてる玄関から入り2階へ。ドアを開ければヘッドホンをし、ゲームに夢中な前嶋。
どうせ気付かないからと、散らかった部屋の片隅に座りスマホを触る。いつ気付くか、つか客が来るって知ってるのに図太い奴だ……ヘッドホン取ったろ。
「おら津原さんだぞっと。」
スポッと取り上げると、くっそ不機嫌な顔の前嶋がこちらを認識した。
「……返せ。」
「一応画面を確認して、試合が終わった時に取り上げた俺を誉めろ。」
「……」
「ほらそんな怖い顔しないの、ひとまず俺の用を済ますから。ほれ。」
と買ってきた品とプリントを渡す、そして前嶋からは品の金額をもらう。プリントは親に、と毎回思うがいつも前嶋しかいない。
「ほい用はすんだ。」
[ありがと。]
「んじゃ俺はこれ」
[待った話がある。]
「……手短にな。」
[どんな目的があるの?他人の家に届け物ってのも嫌だろうし、こうして買い物なんて無茶振りもしてる。なのにあんた、嫌な顔はするけど断らないじゃない。]
「そういうレアな人種だってことで」
[納得するとでも?私とワンチャンとか思ってるわけ?
家に上げるからって、そんな話にするつもりないから。]
「本当、今更だが友達に追加しなきゃ良かった。」
友達に、とその一言は前嶋を酷く震えさせた。
「別に嫌だって意味じゃねえさ、小言が増えて怖いって話。」
[あんたの腹が見えない。]
「なんでか知りたいのか?」
[当たり前でしょ。世の中に善人はいない、必ず見返りとかを欲しがる。]
「そうだとしても、お前みたいな色白ゾンビに興味ねえって。」
「ムカつく。」
と珍しく口にした一言は怒り、と同時に軽く腹をどつかれた。
[答えて、津原。]
中々に真剣な顔で俺を見上げる。ここで答えたらそっか、の一言で済まされて終わる未来が見える。それじゃあ俺の恥ずかし損になるし……あっそうだ。
「じゃあそうだな……学校で話してやるよ。」
[は?]
「ここじゃ話さない。学校のクラスで聞かれたら、さすがの俺も逃げないって話だ。」
[私不登校なんだけど。]
「じゃあ永遠に分からないな~おっしぃ~。」
[糞め。]
「……前嶋の事情は知らねえよ。でもいざ登校したなら、同じクラスのよしみで話しかけてやるさ。1人も知らないより、俺みたいな超絶善人がいるクラスならどうよ。」
[行かないっての。ここで画面の向こうの、顔も知らない奴らとつるむ方が楽。]
「それなら俺の理由は諦めろ。」
[……]
「じゃあな。」
正直来るとは思ってない。だが友達、と俺が言われるか知らんが知ってる奴がいないかいるか。それは前嶋にとって大きく違っていると思う。
うぬぼれじゃないが、ここ最近の付き合いは悪くなかったはずだ。前嶋が少しでも俺で気楽になれるなら、学校へのきっかけになるなら面白い話だと思う。
この次の日、前嶋は入学以来の座席に座る事になった。まあ俺のせいなんですけど~、そして来た前嶋はしっかりと学業を果たした。んで昼休み。
[おい来たぞさっさと話せ。]
「まさか本当に来ると思わんじゃん、やるな前嶋お前は壁を乗り越えた。」
[本当嫌な奴。]
「さて前嶋さん。俺はこれから友達とご飯なんだ、来てくれ。」
[なんで私が。]
「誰も知らない教室に1人、置いていかれたいならどうぞ?」
「……」
蹴られた。だが孤独に過ごすより良いと判断したようで、後ろを黙ってついてくる前嶋。才太と高志の二人ならまあ、前嶋とも仲良くできんだろ。
「それで?久々の学校はどうだ。」
[最悪。みんなこっち見てくるし、先生も幽霊見たって顔。]
「そりゃそうだ。でもあれだろ、俺がいて良かったな。」
[知らない。]
「これも善人たる俺が、通い続け心を通わせた努力だな~本当。」
[うるさい。]
「あとこれから会う奴ら、あいつらも善人だから心開けよな~。」
[嫌い。]
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「んでこの後お前らに会わせて、色々うやむやにしたんだよ。」
「最低だな進士!」
「俺達を利用したのか進士。」
「どうかと思うぞ津原、しかも肝心の理由を自分らにも言ってない。」
え、みんな酷くない?
<追記 朱音にあったことについては、近日近況ノートで外伝として纏めます。>
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