第60話 昔話は脚色しがち

「始まりはあれだ、朱音の家にプリントを届けに行ったんだよ。」


「あれか?家が近いから、という物か。」


「それ正解。」


「進士と朱音は近いからな!」


「あの道を右に曲がるか左に、程度のレベルだったと記憶してる。」


「わかんねぇもんだよな。ご近所さんだって、きっかけがなければ会うこと一度もないんだからさ。俺も先生に言われて仕方なかったし……帰りに寄るくらいってよ。」


あとめっっっっっちゃ今更言えるが、女子に良いことするとほら、あれじゃん?ちょっと男として頑張ろうとか思っちゃうじゃん?


「んでプリントを届けに玄関へ。」


「その後が何となく分かるぜ!」


「俺も。」


「そんなにか?自分はまだ前嶋さんを知らないが、普通感謝して終わるような。」


「玄関でん、と一言発して終わり。俺もプリント渡してん、で終わり。」


「えぇ。」


とても悲しい初対面になりましたよ。まあ顔見れただけ良かったか、あそこで無視されてたら今のようにならなかったはずだ。

俺もその一度、もうやることもねえだろって最初は心で言ってたさ。


「それで届け終わって俺と朱音、不思議な関係は終わりを告げ」


「茶化すな!」


「そこら辺朱音は言わんのだ、お前が口を割るしかない。」


「津原、この場には聞きたがりしかいないぞ。」


「……はいはい話しますよ。」 


素直に話すとするかねぇ。


「まあはい、その一回じゃ終わることなく俺通ったわけ。先生も一度都合のいい奴見つけた!て感じでさ。朱音とのパイプは俺とされちまった。」


「だがよ!断れるだろ普通!」


「俺だったら間違いなく断る。貴重な放課後時間は裂けん、しかも知らん女子のためはない。」


「失礼だが自分も無理だ。」


「だろうな、俺だってそう思ってたんだよマジで。」


そう俺とて普通の男子高校生。縁もなけりゃ人となりも知らん奴に、貴重な青春は捧げられない。


「俺があいつの所に通ったわけだが……よし先にクイズだ!君たち当てたまへ!」


「濁したな進士!まあやるがな!」


「俺には分かるぞ進士。中学の男子が女子のため動く、それは恋に他ならない!」


「だとすれば津原の初恋は救われるが。自分はそうだな、不登校女子構う俺スゲーという心だ。」


「俺か!俺はそうだな!暇だったからだ!」


「うーん……お馬鹿!正解はありませんよ!」


「「「分かるわけねえよ。!」」」


「すいません調子乗りましたすみません。」


クイズって難しいよね。しかも個人の気持ちを答えよとかさ、国語のテスト最難関だっつーの。それを仕掛けたのは俺ですけどねははは。


「じゃあ答えますよ。」


「おう!」


「思春期男子がどんな思いで通ったか。」


「聞いたあとで気まずくなる事がなければいいが。」


「俺が朱音に根気よく通ったわけだが。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


はぁ~なんで俺なんだよ。いやね?俺がはっきり断らずにさ、いやどっすかね~て浮いた返事したのが悪かったっての。ったく俺のバカ。

にしても前嶋……前嶋ねえ。入学式にはいたような、いつから来てないのかも知らねえ奴。どうして不登校かも分からんし、聞くつもりもない。


「とっととこれ渡して、明日からはしっかり断ろう。」


手元には紙切れ1枚。これを届けてほしいと、お前の家近いだろと言われた。まず近所だったのかと驚いたが、不登校なら見かけることもないわな。

近いからって頼むの酷い、前嶋が女子とは聞いたが点数稼ぎたい野郎に押し付けたいよ本当。


「っと、ここか。」


聞いた住所で何となく場所は分かってた。放課後に寄ったその家に人気はなく、お世辞にも活気ある場所には見えなかった。

ほら人の家って作ってる料理の匂いとか、誰かそこにいるって感じさせる物が必ずあるばす。なのにこの家は無人です、留守にしてますって空気だ。 ひとまずピンポーン。


「すいませーん、前嶋さんいらっしゃいますかー。」


俺は思った。これ郵便受けに刺しとけば良かったやんと、人呼び出す必要なかったやんと。でも知らずに届いた紙って不気味じゃない?渡せたら百点だろ。

しかし人気もないこの家、誰か出てくるはずもな


ガチャ


「……」


え無言。


「お、おう前嶋か?」


「……」


「これプリント。先生頼む、俺持ってきた。」


やだカタコトになっちゃうわ。でもしょうがないのよ、俺ってコミュお化けじゃねえから、さすがにどもるっての。


「そ。」


一言呟いたと思えば、玄関に手招きしてくる。なんだ?お茶でも……じゃないな。あれ多分外に出たくないだけだ。

仕方ない俺から歩み寄るとしよう、そう考えて玄関に寄っていく。


「ん。」


「ん。」


「じゃあちゃんと渡したからよ。」


「ん。」


「じゃあな。」


そう言って近くでちゃんと前嶋の顔を見る。勿体ないな~こいつ、日を浴びてないからか白い顔で。普通の顔色になりゃ美人さんだと思うのに。

こいつがどうして外が嫌なのか、無関係な俺にはこれ以上踏み込む勇気も理由もない。


「じゃあ、ね。」


前嶋も話が終わったのは理解して、ゆっくりとドアを閉めた。ちゃんと話せるのかあいつ。


「……」


これで俺の仕事は終わった。そして前嶋とはもうこれっきりになる、んだけどな。家への帰路を歩きながら、最後に見た前嶋の顔を思い出す。

俺は前嶋の事を何一つ知らないんだが、ただ同じクラスの家から出てこない生徒なんだが。


「なんであいつ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あいつ、初対面の俺と話し終わって別れる時。なんか寂しそうに見えたんだよ。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


前嶋への一仕事を終えた夜、親にちょっと怒られたけどコンビニへ向かうことになった俺。なんでって?小腹が空いたから。

まだ8時くらいだが、下手したら補導されちゃうこのドキドキ感。何も言われなきゃいいんだけどな~。


「何食うかな~。」


普段家で3食出てくる。お菓子なりも親の用意した物が出たりする、自分で選べる貴重なこのタイミングは中々得られないわけよ。

そうして最寄りのコンビニに着く俺。さっさと店内を見歩きしながら


「……」


やだ視線を感じる。何かしらこの視線は、俺を獲物と見ている狩人か?つかこの辺で会う奴なんているわけないはず。

いや1人だけいるか。でもまさか近所だからって被るわけねえヨナ~アハハ~、と見ている主の方を向く。そこにはかごにエナドリを詰めた前嶋がいた。


「よ。」


「……?」


「えもう忘れたか?つか声の出し方を忘れたか?」


「よ。」


あいつなりのジョークだと受け取るか……




なんでここで会うんだよ畜生。

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