第59話 あの頃はよかったな…うん…

「と言ってもつまらない話だ。俺は当時アニメなんて興味もなく、学生こそ勉学たれと学習に命を燃やしていた。」


嘘だろ、と華狼がこっちを見てくるが本当だ。俺が事実だと首を縦に降る。


「良い成績を取り良い点数を取り、それこそが道だと信じていた。故にそれ以外は極力省いた、真っ直ぐ帰り机に向かって予習復習。次の範囲を頭にいれては眠る日々だ。」


「あーほらほら、優等生ってのは伝わったから次いこうぜ高志。」


「む、そうか。ところがある日熱を出したのだ、だがその日はテストがあり欠席は許されない……と考えていた。身体に鞭打ちテストに挑んだのだが、これが酷いものだった。更には途中で体調がバレてな、後日受け直しさせてもらえたがその日は0点のような感覚だった。」


「0点ってのは豪快だな!つかその話盛ってるだろ!」


「好きに言え。その後家に帰り絶望したものだ、努めてきた勉学が急に怖くなった。今思えば勉学を優先し体調管理を怠っていたのも一因だが。」


「何で怖くなんだよ。」


「いくら努力しても0になるかもしれない、そんな恐怖だな。だが習慣とは変えがたく、机に座っては教科書を開くが閉じてしまう動作を繰り返していた。」


「他人が見たらホラーな光景だな。」


「そして気づけば夜中。寝ることも勉学も捗らない俺は一度水を飲もうと、居間を通ってキッチンに。その時テレビは居間にしかなかったんだ、そして勉学を忘れたい俺は何も考えずテレビをつけたんだ。」


「……まさか?」


「その時やっていたんだ!熱伝導少女サマルちゃんが!俺は彼女の明るさと人々を救う姿、そして何度打ち倒されても立ち上がる姿に涙していた。」


「作品としては凄い良いらしい。」


「中学の頃に流行ってたな!夜だと思ったら昼に再放送してるしよ!んで夕方枠にいたり!」


「そうだ。最初は深夜の1枠だったものが、気づけば誰もが認知し広がっていった!」


「す、凄いのはわかった。それで泣いた後は?」


「一通り泣いた後作品を調べた。そうして1から追いかけたのさ、勉学で空いた穴を埋めるように。成績は良かったから頼めばテレビを買ってくれたし、親も俺の挫折……と呼べば良いのかそれを気にしていたからな。」


「環境はすぐに整ったわけ、そうしてこいつの目の隈はどんどん濃さを増していくんだ。」


「最近は眼鏡で隠れてるな!」


「昔は眼鏡じゃなかったのか?」


「ふっ、長時間のテレビ視聴は思ったよりダメージだった。それで俺はサマルたんを愛し、尽くすことを決めたんだ。」


「んで今度は勉学が怪しくなってな。目の隈も酷いしぶつぶつサマル節を言ってて、クラスの優等生から触れてはいけないあの人になった。」


「俺も最初はビビった!すげえ睨んでくるからさ!」


「そ、想像もできないな。」


「そんなある日移動教室だったんだが、長時間の視聴で疲れてた俺は寝てしまった。そんな俺を進士が起こしてくれた。」


「誰も触らねえんだよこいつを。それに先生も触らぬ神にって感じでさ、寝かしといても良いとは俺も思ったが。ただ言える時に言わないって気持ち悪いだろ?それにクラスメイトではあったからよ。」


「そんな進士への一言目は、知るか寝かせろだったが。」


「そうそれ、高志よ初対面にあれは酷いって。」


「気持ちよく寝てて起こされたらそうなるか!」


「気持ちは分からんでもない。自分もその状況だったなら、キツい言葉が出てしまいそうだ。」


「そんでそんな高志に俺は、寝てても良いが成績落ちるぞって。」


「その頃俺は親から圧を受けててな。自分達が与えた物で息子の成績が下がったと、ならば取り上げないとと考えていたらしい。これ以上悪化するなら、俺の部屋を空にすると言われていた。」


要はタイミングが良かったんだ。俺は適当に言った成績の話なんだが、その時の高志はこれ以上成績を悪くできなかった。


「成績の話したらビシッ!と立ち上がって、礼を言う……と俺に頭を下げて移動したんだ。俺は悪い奴じゃねえと分かったからよ、そっからも話しかけたわけ。」


「最初は厄介だったがな、俺にとって学校は睡眠場所になっていたから。だが話しかけられたら無視は良くないだろ。」


「育ち良いよな高志!」


「それで段々と……というわけか。」


「そうだな。どうしてそんな隈が~とか、サマルちゃんて誰だ~とか聞くほど高志が教えてくれてよ。」


「その時布教の素晴らしさを知った。学校で進士と話す内悪くないと思うようになり、その後才太と会うんだ。」


「やっと俺の出番か!」


「そうだな。俺と高志が話し始めて3ヶ月くらい?かな。その頃には一緒に帰ってたんだが、才太が下向いてフラフラ歩いてたんだ。」


「さっきも聞いたが、才太は怪我で部活を休んでいたんだ。だから帰宅部の俺達とそれまで会わなかったが、下校時間が被ったんだ。」


「あの時はどん底だったぜ!」


「……佐熊もそうだが、角戸も苦労人だ。」


「んでフラついて電柱に頭をぶつける才太を見てよ、ただ事じゃないと声をかけたんだ。」


「最初は何も話さなかったが、場所を移して座って話すことにした。」


才太がフラついてたのは怪我もあったが、部活という生き甲斐を無くしてたのもあったらしい。そこら辺を聞き出すまで、才太はずいぶん言葉に詰まっていた。


「知らん奴に話す話でもない!と引っ込んでたな!」


「まあ一度聞き出したら事情も分かってよ。じゃあ暇ならパーっと遊ぼうと俺が誘って、高志も巻き込んで初のゲーセン。」


「俺は帰ってアニメが見たかったが、前の自分のように落ち込む才太を見過ごせなくてな。」


「ありゃ楽しかったな!クレーンにいくら使ったか!」


「そんでその日は別れたんだが、次の日の昼休みに才太からうちのクラスに来たんだ。」


「どこの奴らか分からなかったからよ!探すの大変だったぜ!」


「そこで礼を言われて、他にも楽しいこと教えて欲しいと言われた。」


「なんだか不思議な流れだな。」


「才太も高志も同じだ。それまで自分の真ん中にあった芯が折れた時、埋める何かが欲しかったんだろ。」


「運動が全てだからな!」


「そっからは学生らしい、バカな遊びもしたものだ。」


「な、なるほどな……濃い中学生活だったと。前嶋さんもそんな流れなのか?」


「朱音に関しちゃ!」


「俺と才太は」


「「全くしらない。」!」


「……?」


「あいつだけは少し特殊でな。んまあ話しても平気か?平気だろ。」


「というか津原。お前は人助けが趣味なのか?普通ここまで人に気をかけないだろ。」


「確かにな!かなりお節介だぜこいつ!」


「クラスの腫れ物に向かってくる奴だからな。」


「るっせえな……ひとまず朱音の話な。まず朱音はスタートが違って、不登校だったんだ。」




今さら昔話をするとはな。


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